油問屋の島商は経営理念を新たに策定し、「油問屋であり続ける」という想いをもとに、新たなスタートを切った。
グロサリー品(家庭用商品)の販売比率を上げるなど販売分散を進めてきたことで、コロナ禍の厳しい環境も乗り越え、飲食店の回復や価格改定、注力する新規ユーザーの獲得が奏功し、今期(5月期)は売上、利益とも好調に推移しているという。2022年6月から東京油問屋市場の理事長も務めている島田豪社長に島商の取り組みと、経営理念に込めた想いなどを聞いた。
売上構成比は業務用が約7割を占め、大半が油となるが、みそやしょうゆをはじめとしたグロサリー品も多数販売している。約3割が家庭用となり、スーパーや百貨店、直販で油以外の商材を販売しているという。直接飲食店に卸しており、チェーン店は少なく、単価の高い飲食店の取引先が多いのが特徴だ。
コロナの影響で年商は減少したというが、直近の業績は売上、利益とも好調だという。島田社長は「飲食店が元の水準に戻っていることが大きい。客先によってデコボコはあるが、2022年10月辺りから大分挽回しており、加工食品工場の販売も戻ってきている」と説明する。日清オイリオグループと竹本油脂の特約店だが、原料コストの高騰から数次の値上げもあり、売上が伸びた要因だとする。さらに、常に新規のユーザーを獲得していることも寄与している。
〈セミナーや勉強会の実施が新規獲得に、ユニークな問屋ナンバーワンを目指す〉
新規獲得が可能な理由について、「油問屋の島商の名が口伝で広まっている。2003年に32歳で入社してから、新規開拓を常に行ってきた。さまざまな場で油セミナーや勉強会を実施してきたことや、催事やマルシェで販売を行うBtoCの活動で、次第に油問屋の島商が知られるようになった」と語る。
新規出店の際や独立して新店を出す時には声をかけてもらえるといい、「啓発活動を行うことで新しいお客を紹介されている」とする。島田社長はMBA大学院を卒業後、入社前に地中海沿岸のイタリアのオリーブ農園を回ってネットワークを築いた。イタリアソムリエ協会(AIS)のオリーブオイルソムリエの資格を持つため、オリーブ油のディナー会や、イタリアンレストランではシェフ向けのセミナーも行っている。
コアコンピテンシーとして「油問屋であり続けたい」と強調する。厳しい時にグロサリー品に力を入れ始め、油のシェアが減り、他の食材との比率が5対5になって現相談役が激怒したという。「当社の遺伝子は油問屋だ。多少厳しくても、油にはしっかり取り組むよう指示を出している」と語る。
一方でリスク分散は考えているとする。「かつて売上げ構成比が偏っていたが、ある取引がなくなると危険だった。安定させるために、加工食品工場や飲食店向けの新規商売を増やし、小売店も伸ばしていった。小売、加工食品、外食の比率が1対1対1だったことで、コロナの影響で外食が90%減となっても、他の事業があったため乗り越えられた。その事業構造は継承しつつ、「油の販売に全面で取り組み、油問屋としての地位確立に取り組んでいる」と語る。
1716年創業と長い歴史を有する島商だが、これまで経営理念がなかった。そこで新たに「人と自然と食の豊かな調和」と策定し、2022年8月に発表した。「油の情報を伝え、サービスを提供することで世の中に貢献したい。昨年の供給不安の中でも100%供給することができたのは、油問屋としての蓄積があったことで取引を切られなかったから」と強調する。
島商は油問屋であると同時に、多岐にわたる問屋として、雑貨や化粧品メーカーなどとも取引があり、飲食店も寿司屋、うなぎ、中華、天ぷらなど幅広い業態に販売している。「当社はユニークな問屋ナンバーワンを目指す」と決意を語る。少数精鋭の中でも強いバックアップ体制が整っており、得意先をまめに回って情報収集などの努力も行っている。基盤はしっかりしているが、さらなる躍進を目指し、本年度は営業を1人増やした。「細かい仕事は分散して専門知識を強化していきたい」と展望を述べる。
〈大豆油糧日報2023年3月29日付〉