ゴールデンルール
久保 華図八(くぼ・かずや)
バグジー代表取締役社長。15歳で美容業界に入り23歳で独立するが、技術を磨くために渡米。帰国後、北九州市で繁盛店を築く。幹部社員の相次ぐ退職という危機を社員一丸となって乗り越え、社員重視・お客様本位の経営で事業を成長させる。北九州市を拠点に美容室5店舗のほか、カフェ、エステサロンなどを展開。大手企業や各種団体などで年間100回以上の講演を行っている。2009年、サービス産業生産性協議会『ハイ・サービス日本300選』受賞、13年、経済産業省『おもてなし経営企業選』受賞。著書に『経営者には、幸せにするべき5人の人がいる』(日経BP社)、『ひとり光る みんな光る』(致知出版社)『人が育つゴールデンルール』(内外出版社)などがある。

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「全体的な視点」

常に「みんなにとってどうなんだろうか」「みんなが良くなるんだろうか」と、自分に問いかけること。

「木を見て森を見ず」という言葉があります。目の前のことだけを見て、周りや全体が見えていない。全体としてどうなのか。そういった視点で考えることも大事です。「みんなにとってどうなのか」という合言葉を共有するのも価値観の一つだと考えています。自分がスタッフから見ていい評価をもらっていても、お客さん、取引先、地域の人、家族から見て、いい評価をもらえるのか。

そういった全体観を持って自分のことを見る、考えるのが大事なのですが、意外にできないんです。みんな知らず知らずに一部だけ見てしまいがち。

たとえば、スタッフの業績ランキングのようなものを貼り出して競わせている会社がありますよね。あれもまさに全体が見えていないんです。そうでしょ、業績のトップクラスの人たちにとっては喜ばしいことでしょうが、最下位の人はどうでしょうか。言い方は悪いですが、地獄の日々ではないでしょうか。もしランキングなら、誰もがライバルは昨年の自分ですし、低いながらも昨年より伸びていることでやりがいも出るし、励みになるでしょう。まして、同じ会社に勝者と敗者をつくっていることは、本当に全体が見えていないということです。

もっと言うと、その営業にたずさわっていないけれど、見えないところで素晴らしい仕事をやってくれているスタッフもいるでしょう。その生産性や業績にたずさわっている人だけに光を当てられていないことにもなっているのですからね。その目に見えない縁の下の尊い人たちの仕事が、あたかも雑用のようになってしまうのです。

また、全体(全員)を見るということで言うと、みんなの中で「できない人」から目を離さないことも大事なことです。なぜなら、そうすると「弱い人」を助けるという社風ができていくからです。

あるとき、知り合いの歯科医の先生から、医療詐欺に遭ったと電話がありました。高額な治療費を払わずに逃げられたというわけです。常に気を付けるようにスタッフに言ってたのに、防げなかったからスタッフに弁償させようと思ってると僕に言いました。

僕はその先生に言ったんです。その話を聞いた周りのスタッフや家族、友人はどう思う? と。僕なら「高い勉強代だった。これからこんなことがないようにシステム考えないけんね。どうする?」と言うよ。そうしたらスタッフも「私たちの責任もあるのにあの先生は許してくれて、いい勉強になったって笑ってくれた」となって、もっとがんばってくれるから。騙されたと思ってそうしてみてとアドバイスしました。

数日後、連絡がありました。僕が言ったように「高い勉強代やったね。損した分、みんなで取り戻そう」と話したら、みんな泣いて「もっとがんばらないけんね」とこれまでになかったぐらい医院の中がいい感じになってるんですと報告してくれたんです。

全体を見て、そのとき弱い立場に置かれてる人を助けられるかどうか。そこがちゃんと判断できると、全体の空気が変わります。全体を見る目を持っていると、どんなマイナスもプラスにすることができるのです。

「多面的な視点」

本当の実像は一面だけでは見ることができない。視点は一面では意味がない。

全体的に考えることと「多面的」に考えるのは似ているようですが違います。多面的とは文字通り、ものごとのいろんな面から見て考えることです。

会社で言えば、例えば会社のすべてのスタッフのことを考えるのが「全体的」に考えること。それに対して、会社の持ついろんな側面、たとえば財務面、労務面、もろもろの立場からも考えることが「多面的」に考えることになります。

僕は美容師なので、ヘアデザインも正面からだけでなく、いろんな角度から多面的に見るのが当たり前になっています。

僕が自分の会社を多面的に見るときに、いつも考えるのは「新入社員から見てどうなのか」ということや「スタッフの家族から見たらどうなのか」という面です。

僕たちが当たり前と思っていることも、新入社員から見れば「なぜ?」と思うこともある。自分たちの常識が新入社員にも即通じるとは限りません。だから彼らの目線から見てみる。

また、スタッフの家族から見てもいい会社なのかという見方もします。スタッフの家族から会社に不満や不安をもたれていたら意味がないですから。

スタッフの家族にも僕が手紙を書くようにしたのも、そういう理由があるからです。

多面的に見ると「実像」が見えます。

自分で勝手にイメージしている姿ではない本当の姿です。その中で大事にしないといけないのは、いかなる側面のレベルを上げつつ、自分の強みの面はちゃんと分かっていて、そこはもっと良くできないかと考える。

僕は陶芸が好きで、備前焼などの素焼きの陶器が好きなんです。なぜかというと、見る角度によって印象が違うからなんです。すごく味わいがある。

人はどうしても自分が見やすい面からしかものごとを見ようとしないものです。それでは多面的な見方はできない。

僕は年に数回、必ず新入社員とだけ一緒に食事をする。僕の話が、普通は店長からチーフ、先輩を伝わっていくけれども実際に彼らはどう思っているのかは直接ちゃんと話を聞かないと見えないからです。

1回目は入社してすぐ。2回目は夏休みの後。3回目は年末というように……。そこで話を聞くたびにいろんな改善点が見えてきます。もちろん、やっていてよかったことの確認もできる。

まだ会社に染まり切っていない新入社員の目、感じ方という「面」から見させてもらうことで、自分たちでは気づかないことに気づく機会を与えてもらえるわけです。

また、スタッフの家族という「面」も大事。スタッフが仕事に一生懸命になれるのも家族の力があるからこそでしょう。会社が家族から嫌われていたら、会社がどんなことをしても理解なんてしてもらえないし、応援も得られません。

もし、何かあれば「そんな会社辞めたら」と言われてしまう。だから僕は、会社のいろんな面の中でも「新入社員から見たら」というのと同じぐらい「スタッフの家族から見たら」という部分をすごく大事に考えています。

いろいろな側面から見た自社の実像を常に意識して、あらゆる面から見てもいい会社を目指したいものです。

もちろん、他にもたくさん大切な面があり、財務面から見ていい会社を目指すことも、労務面から見ていい会社を目指すことも、地域の方から見た面も…いろいろな面から自社を見て、どの面から見てもいい会社を目指していかないと、バランスの悪い会社になり、永続することはできないのです。