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出版マーケティングの1つの完成形「ニューズピックスブック」
ビジネス書ブームを牽引する存在
堀江貴文氏『多動力』30万部、佐藤航陽氏『お金2・0』20万部、前田裕二氏『メモの魔力』40万部。(『マンガで身につく多動力』(幻冬舎コミックス)アマゾン紹介文、日本経済新聞2018/5/5 付、前田裕二氏の2019/10/15 ツイートより)
これらの本を読んだことがある人、書店で見かけたことがあるという人も多いでしょう。次々とこのようなベストセラービジネス書を生み出している、ビジネス書ブームを牽引する存在とも言えるプロジェクトがニューズピックスブックです。
ニューズピックスブックは、ソーシャル経済メディアであるニューズピックスと幻冬舎による出版レーベルであり、冒頭の書籍をはじめ毎月ビジネス書を出版し、その累計部数は現在130万部を超えています。
時代の流れを捉えた内容と、魅力的な著者の起用など、内容的な部分における評価が高いのは当然ですが、それだけではこれほどのペースでベストセラーを連発するのは難しいはずで、やはりその背景には洗練されたマーケティング手法があります。
5000万円で電車をジャック
ニューズピックスブックのおもしろい点は、著者が「お金を使ってベストセラーを作っている」ことを比較的オープンにしている点です。
例えば、『お金2・0』の著者である佐藤航陽氏は、自ら電車の中吊り広告をジャックしたいというアイデアを出し、そのためには5000万円必要で幻冬舎はこれまでにその規模の広告を出したことがないという旨を聞くと、その経費をすべて自腹で賄ったという記事が日本経済新聞(2018/5/5 付「「お金2.0」佐藤航陽著 著者自ら費用負担し販促」)で広く報道されています。
また第2章のクラウドファンディングの項目でご紹介した光本勇介氏の『実験思考』もニューズピックスブックの作品ですが、そのクラウドファンディングの特設サイト(価格自由 実験レポート)には堂々と「¥0で本を提供するために光本がはじめに取ったリスク¥21,600,000」と表示されています。
このような著者の投資額を公にしてしまうのは、「お金でベストセラーを作るなんてなんか汚い」という従来のイメージから「マーケティングはビジネスにおいて重要でありそこにお金をかけるのは当然」という考えに転換してきた証左だと言えるかもしれません。
編集者がインフルエンサーという強み
ニューズピックスブックのマーケティング手法を語る上で外せないのが、編集を担当している箕輪厚介氏の存在です。箕輪氏は幻冬舎の社員として編集者をする傍ら、「箕輪編集室」というオンラインサロンを立ち上げその会員は1000人以上、企業のコンサルティングといった仕事もこなし、それら会社の外のビジネスで会社員としての収入の20倍を稼ぐと語るビジネス界の「インフルエンサー」です(著書『死ぬこと以外かすり傷』(マガジンハウス)より)。
普通、ビジネス書の著者というのはビジネスにおいて圧倒的な結果を残していたとしても、その名前は一般人にはあまり知られていないことがほとんどです。たいていは自分よりも会社や商品を有名にするのが仕事なわけですから当然とも言えます。
一方で本を売るには知名度や信用が必要であり、そのために広告を出したりするわけですが、ニューズピックスブックの場合はその「知名度や信用」を箕輪氏が持っている状態で企画がスタートします。
箕輪氏のツイッターのフォロワーは15万人以上。彼が普通に「今日はこんな仕事をしました」と日常のことをつぶやくだけで、それは「15万人に対して書籍の宣伝をしている」ことになります。
また、定期的につぶやくことで、その情報量は1つのチラシや広告を大きく上回ります。その本がどんな内容で、どんなメッセージが込められていて、読んだ読者にどんな変化をもたらしてくれるのか、これを伝えられる宣伝媒体というのはなかなか多くありません。
また、これは書籍に限らないことですが、基本的に世の中は「売れているものがさらに売れる」ようにできています。話題のヒット商品は手に取ってみたくなりますし、お店としても売れ行きの良い商品を目立つところに置こうと思います。
インフルエンサーとして影響力を持つ箕輪氏のフォロワーの中には、彼の編集した書籍なら毎回買う、という読者もいて、そういう読者が初動の売れ行きを押し上げることで、その後一般の読者の売れ行きにも好影響が出ます。この動きが毎回起こるわけで、これは非常に大きな強みであると言えます。
一流経営者である著者の広告費、インフルエンサーである編集者の影響力と読者からの信用、これらすべてを総動員したマーケティングによって、安定してベストセラーを量産することができるのです。