実は日本企業の90%以上!? 知られざるファミリービジネスの底力とは

オーナー企業、同族企業とも呼ばれるファミリービジネスは、日本の上場企業の52.9%を占める。非上場企業も含めるとその比率は実に90%以上であり、これはアメリカ、イギリス、フランスなどと比べても突出している。そんなファミリービジネスの強みは、所有と経営が一致していること。つまり、経営者が大株主でもあるため、迅速に、よりアジャイル(機敏)に経営判断を下せるのだ。

米田隆
監修:早稲田大学商学学術院ビジネス・ファイナンスセンター上級研究員(研究院教授)米田隆
早稲田大学法学部卒業後、旧日本興業銀行入行。同行の公費留学生として、米国フレッチャー法律外交大学院卒業。同行退職後は、ベンチャーキャピタルや証券会社の経営を経て、2012年より証券アナリスト協会プライベートバンキング教育委員会委員長に就任(現職)。2013年より早稲田大学大学院商学部(MBA)客員教授に就任し、2017年には同ビジネス・ファイナンス研究センター上級研究員(研究院教授)に常勤職として就任(現職)。2021年、青山ファミリーオフィスサービスの設立に携わり、同社取締役に就任(現職)。金融全般、特にプライベートバンキング、同族系企業経営、新規事業創造、個人のファイナンシャルプランニングと金融機関のリテール戦略等を専門とする。

目次

  1. ファミリービジネスとは?
  2. ファミリービジネスの力の根源は「無形資産」
    1. 無形資産が有形資産を生む
    2. ファミリービジネスの強さ「所有と経営の一致」
    3. ファミリービジネスの強さ「利益分配の好循環」
  3. 責任ある株主の力
  4. 理念あってこそ強くなるファミリービジネス

ファミリービジネスとは?

いまや世界はVUCAの時代に突入し、未来が予測不可能になりつつある。そんな中、企業は問題が起きた後の対応能力の速さで勝負しなければならないし、そのためには戦略を単純化し、状況に応じてピポットに軌道修正できる機動性が求められている。まさに、ファミリービジネスの強みが活かされる時代となってきているのだ。詳しくはこちらの記事をご覧いただきたい。

特定の一族が所有する法人組織のことを、ファミリービジネスと呼ぶ。同族企業(経営)、オーナー企業、ファミリー企業と呼ばれることもある。サントリーやキッコーマンなど世界に名を馳せる大企業から、地元の老舗和菓子屋まで、その規模はさまざまだ。

ここでいう「一族」は、理念を共有しているという主観的な要素と、株式を所有しているという客観的な要素の両方を併せ持っている。もちろん親子関係、あるいは姻族関係にあって血が繋がっている場合が多いのだが、事業承継者として養子を迎えることもあるのは日本特有だと言われており、日本にファミリービジネスの多い理由の1つとされている。

同族企業を定義した代表的な国内法令としては法人税法が挙げられ、それによれば、主に上位3株主の持株比率を合わせると50%を超える会社のことを指す。しかし、株式の比率が50%未満であっても、創業家が所有し、経営している企業は、創業家が企業を支配しているという観点でファミリービジネスと認識されることが多い。

ファミリービジネスの力の根源は「無形資産」

こうした定義に従えば、日本企業の大半はファミリービジネスだと言っても過言ではないのは冒頭でも説明したとおりだ。そして、世界がVUCAの時代に突入した今、ファミリービジネスの強さはそのまま日本の強さに寄与する可能性を秘めている。

ファミリービジネスの強さはいくつかある。まず、ファミリービジネスをやっている人は、その事業と業界を熟知していることが挙げられる。一族が代々蓄積してきたさまざまなノウハウや、スキル、人脈、その業界で仕事をしていくための深い知識などを持っていることは、間違いなく事業経営上の強さの原因になるのだ。

一族が持つこれらの強さは、実質的なかたちこそないものの、ファミリービジネスを運営していくにあたって価値を創生し、富を生み出す大切な資産となる。これらの「無形資産」こそが、金融資産や不動産などを含めた「有形資産」の源泉となっているのだ。ここで言う無形資産とは、一族個々のメンバーや一族が集団として持っているノウハウ・スキル・人脈などであって、会社のブランド・特許技術・知的財産などではない(当然に、企業の持つこれらの無形資産も重要である)。

無形資産が有形資産を生む

実は日本企業の90%以上!? 知られざるファミリービジネスの底力とは

例えば古典芸能を継承する一族の例を見てみよう。後継者を育成するにあたって、親でもあり師匠でもある当主は子に稽古をつけ、躾を徹底して、身体感覚として技や伝統を伝えていく。これは、ファミリービジネスにおいても同じだ。子どもに家業を押し付けたくないという方もいらっしゃるが、ではあなたのやっている仕事は素晴らしくないのだろうか? あなたの一族が社会から評価され、尊敬されるのは、ファミリービジネスという事業を通じて世間と有機的な関係を結び、貢献をしているからこそではないだろうか?

そうした一族がいるからこそ、無形資産は強化される。しかし、人間の命は有限であり、いつかは終わりが来る。だからこそ世代間で無形資産を継承していくことが、ファミリービジネスにとって非常に重要になってくるのだ。

ファミリービジネスの強さ「所有と経営の一致」

さらに、ファミリービジネスの強さは、所有と経営の一致により、安定的な株主が経営戦略や一族の理念を共有していることも挙げられる。一族の理念とは、さらに具体的にはバリュー、ミッション、ビジョンに分類して捉えることができる。どのような社会課題を、どのような方法で解決し、誰にどのような配分率でその事業が生み出した付加価値を分配し、社会に還元するのか?

株主がこれらの諸要素を理解することにより、息の長い投資を行えるようになることもファミリービジネスのメリットだ。たとえ短期間で結果を出せなくても、長期間に渡って忍耐強く投資し続ける力があれば、長い目で見てその地域の中で勝ち残っていく可能性が高くなるからだ。

ファミリービジネスの強さ「利益分配の好循環」

もう1つ、ファミリービジネス特有の魅力であり、強さでもあるのが、一族の考え方に基づいて利益を地域に分配できることである。

日本のファミリービジネスの多くは非上場企業であるため、その利益の分配については一族の固有の哲学のもとに行うことが可能だ。一族哲学に基づく固有の利益分配がコミュニティに還元されるとき、地域の会社を応援するという考え方が消費者の中に根付くきっかけとなるし、コミュニティから信用されることにもつながる。この信用がソーシャルキャピタル(社会関係資本)となり、それが将来の一族事業のビジネスチャンスにつながっていく。この好循環こそが、ファミリービジネスの強みになる。

例えば、地域のファミリービジネスが地域の夏祭りにおいて打ち上げ花火を提供するかもしれない。また、地域の憩いの場としてのコンサートホール建設に向けての資金を提供するかもしれないし、安定した雇用を提供するかもしれない。地域社会においてこのような素晴らしい貢献をすることで、その反射効果としてビジネスの機会をいただき、同時に一族の無形資産を強化できるのだ。一貫した仕事のやり方をし続け、ステークホルダー(地域社会も含めた利害関係者)の皆が認めるような適切な利益分配をしている企業は、その地域において新規事業が始まる時に器となることが多い。

責任ある株主の力

非上場でも上場でも、ファミリービジネスの株を保有している人は責任ある株主だと言える。会社の経営が厳しい時は、自らの個人資産を投げ打つ覚悟を決めているという意味では、有限責任の会社を経営しているが、意識としては無限責任の株主に近いだろう。それに対して有限責任の株主は、うつろいやすいお金を儲けるマシンとしてしか企業を見ていない株主であるとも言える。

アダム・スミスが『国富論』の中で、株式会社は2つの無責任、すなわち株式を持っていない経営者の無責任と有限責任制度における株主の無責任を内包すると主張した。これに照らして言えば、ファミリービジネスを支えている株主は、実質的には無限責任を持つ株主と言えるのだ。つまり、会社の経営が行き詰まり、誰もお金を出してくれないような時に、自分の個人資産を出してでもその会社のミッションの実現や存続を守ろうとするのがファミリービジネスを所有する一族である。そこには、自己実現や、地域へのコミットメントや、一族のアイデンティティとしての価値も含まれている。

理念あってこそ強くなるファミリービジネス

ここで見てきたファミリービジネスの強さは、すべて一族の理念によって支えられている。一族の理念には、次のような諸要素が不可欠となる。どのような社会課題を、どのような方法で解決し、誰にどのような付加価値を実現し、その利益を社会にどのように還元するのか?

この機会に、ファミリービジネスを所有するオーナーとして、今一度自らの存在を原点に立ち返って確認してみてほしい。その上で、次回はファミリービジネスの永続化がもたらす価値について深掘りしていきたいと思う。

文・山田ちとら

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