トヨタで学んだ「紙1枚!」で考え抜く技術
(画像=snowdrop/stock.adobe.com)

(本記事は、浅田 すぐる氏の著書『トヨタで学んだ「紙1枚!」で考え抜く技術』=日本実業出版社、2022年9月29日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

トヨタで学んだ問題解決は、「隙を生じぬ2段構え」

いきなり言語化してしまえば、その秘密とは、次の1行です。

トヨタの強さの秘密は、「2段階の問題解決」にある

本書で学んできたTBPには、「8STEP」はあっても「2段階」なんて話は登場しませんでした。これはいったいどういう意味なのか?

『生産システムの進化論』や『能力構築競争』にある記述を参考にしつつ、私なりにわかりやすく嚙み砕いて再構築したものを、これから説明していきます。

とっかかりとして、まずは『能力構築競争』から引用してみましょう。

二十世紀後半の日本企業の「もの造りの能力」は、それ自体、高い競争力を持つという意味で一つの合理的なシステムだが、それは、結果として競争力を持った、という意味で、いわば事後的に合理的だったわけだ。
競争に関して、事後的に合理的と判断されるシステムが、必ずしも事前合理的な意思決定のみから生まれたとは限らない、と疑ってかかるところが、「創発的な能力構築説」のミソである。

ここで認識を深めたいキーワードは、「合理的」には「事前」と「事後」の2種類があるという点です。

たとえば、ビジネスで成功した経営者が、その軌跡を本にしたとしましょう。

本としてわかりやすく書く以上、当然ながらロジカルな説明を積み重ねていく必要があるわけですが、では、各場面で本当に「事前」合理的に考え、決断や行動をしていたのかといえば、そうではないケースも現実には数多くあったはずです。

自分も本を書く側だからこそ、次第にわかってきたことですが、身も蓋ふたもない話をすれば、さも事前にすべてわかっていたかのような物言いをしている成功本ほど、実際は「事後=後付け」的な説明に過ぎないことが多かったりします。

そう思って読んだほうが、その手の本とは適切な距離感で関われると思いますし、妄信にも陥らなくて済むはずです。

あるいは、もし成功本の例でピンとこなければ、今度はみなさん自身の経験と照らし合わせてみてください。みなさんの成功体験やうまくいった場面を振り返ってみたとき、それは事前に考えた通りのプロセスや結果だったのでしょうか?

そんなにロジカルに、合理的に、首尾よく成果につながったのでしょうか?

それとも、振り返ってみれば、こうこうこういう理由でうまくいったと説明はできるものの、それは「後付け」的な総括であって、結果が出る前は暗中模索の日々だったという感覚でしょうか?

もし後者なのであれば、それこそがまさに「事後的な合理性」のことなのです。

「事前」合理的なビジネス書ばかりだからこそ

これを問題解決に適用すれば、「事前」合理的な問題解決プロセスと、そうではない「事後」合理的な問題解決とに分けることができます。

「事前」合理的な問題解決とは、すなわちTBPのSTEP5までを、あらかじめしっかりと考えに考えに考え抜いてから、STEP6のやり抜くフェーズに進むような「石橋を叩いて渡る」スタイルです。

こうした手法を事前に学んでから実践する姿勢は、前章の学びを踏まえれば、「知→行」の朱子学的な演繹(えんえき)スタイルともいえます。

他にも、教科書的、マニュアル的といった言葉で理解してもらっても構いません。

一方、「事後」合理的な問題解決は、必ずしも5つの手順を丁寧にはやりません。多少雑な部分があっても、不完全なまま実行フェーズに入ってしまうのです。

あるいは、5つのSTEPを踏まずにいきなり実行がはじまり、合理的な説明は事後的に見出していく。そんな「石橋を渡りながら、あるいは渡った後から叩く」問題解決がこれに該当します。

後から振り返ろうと思えば、TBPに当てはめることも可能ではあるが、事前段階ではそんなことを考えている余地・余裕・余剰なんてなかった。

そんな、混沌としがちな現実を直視した問題解決が、「事後」合理的な問題解決プロセスなのです。

通常のビジネス書は、「事前」合理的にノウハウを学び、それを現実に当てはめていくタイプのものばかりとなっています。

したがって、本章の内容がまだピンとこない人も多いはずです。それだけ類書にはない、でも「ホントウのこと」を学べる機会となるようなチャレンジをしています。

ともかく現段階では、「事前」と「事後」のTBP。前編で学んだことについて、じつは2種類の捉え方があるのだという点のみ、わかってもらえば大丈夫です。

トヨタで学んだ「紙1枚!」で考え抜く技術
浅田 すぐる
「1枚」ワークス株式会社代表取締役。「1枚」アカデミアプリンシパル。動画学習コミュニティ「イチラボ」主宰。作家・社会人教育のプロフェッショナル。名古屋市出身。旭丘高校、立命館大学卒。在学時はカナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学留学。トヨタ自動車入社後、海外営業部門に従事。同社の「紙1枚」仕事術を修得・実践。米国勤務などを経験したのち、グロービスへの転職を経て、独立。現在は社会人教育のフィールドで、ビジネスパーソンの学習を支援。
研修・講演・独自開講のスクール等、累計受講者数は10000名以上。大企業・中小企業問わず、登壇実績多数。2017年には海外中国・広州登壇、2018年にはルーツであるトヨタとパナソニック合同の管理職研修への登壇も実現。
2015年からは、作家としてのキャリアもスタート。デビュー作『トヨタで学んだ「紙1枚!」にまとめる技術』は年間ビジネス書ランキング4位、海外5カ国翻訳のベストセラー・ロングセラーに。これまでに7冊、文庫化も加えれば9冊を上梓し、著者累計は45万部超。独立当初から配信し続けているメールマガジンは通算1000号以上。読者数20000人超。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます