2月17日、午前10時半を回った、H3ロケット初号機の打ち上げまであと数分、筆者もあわててJAXAの特設サイトへ駆け込んだ。カウントダウンは既に始まっている。10,9,8,7,6,,,,10時37分55秒、あれ? どうした?
同日、JAXAは「メインエンジンLE-9は着火したが、1段機体システムが異常を検知、固体ロケットブースタSRB-3への点火信号を送信しなかったため、打ち上げを中止した」と発表、「早急に原因を解明し、3月10日までの予備期間内に打ち上げを目指す」と声明した。
大型ロケットH-ⅡAの後継機、H3の開発が始まったのは2014年、需要が急増する宇宙の商用衛星市場での競争優位の獲得を目指す。課題だった高コストは民生部品の転用やシステムのモジュール化によってH-ⅡAの約半分、50億円レベルに押さえた。また、多様な打ち上げニーズに対応すべくLE-9、SRB-3の基数も選択可能だ。LE-9は最大で3基、ジャンボジェット機のエンジン15基分のパワーで7トン級の衛星を静止軌道へ打ち上げることが出来る。
当初の打ち上げ目標は2020年度中、2度の延期を経ての今回だった。それだけにJAXAやプライムコントラクター三菱重工業をはじめとする開発チームの悔しさは察して余りある。また、搭載された陸域観測技術衛星「だいち3号(ALOS-3)」も同2号機が既に設計寿命を越えているだけに、こちらの関係者も嘆息を漏らしたことだろう。ただ、“予備期間” に拘る必要はあるまい。先代H-ⅡAの打ち上げ成功率は国際水準95%を上回る97.8%である。再チャレンジはこれと同レベル以上の信頼性への確信が得られてからで十分である。
2022年10月、IHIエアロスペースがプライムコントラクターを務めるJAXAの小型衛星打ち上げ用のイプシロン6号機が打ち上げに失敗した。今月7日には三菱重工業が国産ジェット(旧MRJ)の開発中止を正式に発表した。宇宙航空分野における国家プロジェクトの “悲報” が続いた直後だけに官民連携における構造的な問題を指摘する声も小さくない。とは言え、宇宙航空産業の育成に官の支援は不可欠である。したがって、これを機にあらためてプロジェクトの体制、予算、官による事業への関与の範囲、国の産業支援の在り方について検証し、次へつなげていただきたい。
今週の“ひらめき”視点 2.19 – 2.23
代表取締役社長 水越 孝