(本記事は、加瀬 英明氏の著書『日本と台湾 なぜ、両国は運命共同体なのか』=祥伝社、2022年11月11日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
日本の龍は、なぜ爪が三本なのか
華夷秩序のもとでは、中国の龍の爪が5本あったのに対して、属国として次の序列にあった朝鮮やベトナムの龍は、爪が1本足りない4本でしかなかった。
日本は華夷秩序のもとで、夷狄として蔑(さげす)まれていたから、龍の爪は3本しか許されなかった。そのために、室町時代のころから、日本から注文があって、日本へ輸出する龍の彫刻や絵には、すべて爪が三本しかなかった。
日本は中国の周辺諸国のなかで、ただ1国だけ、中国の属国となることなく、臣従して朝貢することがなかった。
私は2012年11月に、市川団十郎(いちかわだんじゅうろう)氏を囲む会が、京都の嵯峨野天龍寺(さがののてんりゆうじ)で催されたのに招かれて、歌舞伎について短い挨拶(あいさつ)をした。天龍寺は世界文化遺産として、指定されている。
この会のために、夢窓(むそう)国師が700年あまり前に造った美しい庭が、幻想的にライトアップされた。夜の帷(とばり)のなかで、夢みるような心地(ここち)だった。
庭に面した渡り廊下に、雲龍の大きな襖(ふすま)絵がある。思ったとおり、やはり爪が3本しかなかった。
400人あまりの善男善女が招かれていて、会席料理が振る舞われた。
私ははじめに、襖絵の龍の爪が3本しかないことに、触れた。
そして、もし、襖絵の龍の爪が4本あったとしたら、日本の歌舞伎をはじめとする、独特な、優れた伝統文化が形成されることがなかったろうと、話した。
市川団十郎氏も「やはり、そうだったのですか」と、驚いていた。
多くの会席者から、「はじめて聞きました」と、いわれた。
この龍の爪の数の話は、なぜか、日本ではよく知られていない。
中国の龍の5本の長い爪が、尖閣諸島を手はじめとして、沖縄や、台湾を搦盗(からめと)ろうとしている。
日本と中国は隣国だというのに、世界のなかで、これほどまで文化が大きく異なっている例は、他にない。