二〇一二年に、台湾の「金車教育基金」が「学生の国際観」について、一四二五人の高校生と大学生を対象として、調査を行なっている。
(画像=Sergie/stock.adobe.com)

(本記事は、加瀬 英明氏の著書『日本と台湾 なぜ、両国は運命共同体なのか』=祥伝社、2022年11月11日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

日本の龍は、なぜ爪が三本なのか

華夷秩序のもとでは、中国の龍の爪が5本あったのに対して、属国として次の序列にあった朝鮮やベトナムの龍は、爪が1本足りない4本でしかなかった。

日本は華夷秩序のもとで、夷狄として蔑(さげす)まれていたから、龍の爪は3本しか許されなかった。そのために、室町時代のころから、日本から注文があって、日本へ輸出する龍の彫刻や絵には、すべて爪が三本しかなかった。

日本は中国の周辺諸国のなかで、ただ1国だけ、中国の属国となることなく、臣従して朝貢することがなかった。

私は2012年11月に、市川団十郎(いちかわだんじゅうろう)氏を囲む会が、京都の嵯峨野天龍寺(さがののてんりゆうじ)で催されたのに招かれて、歌舞伎について短い挨拶(あいさつ)をした。天龍寺は世界文化遺産として、指定されている。

この会のために、夢窓(むそう)国師が700年あまり前に造った美しい庭が、幻想的にライトアップされた。夜の帷(とばり)のなかで、夢みるような心地(ここち)だった。

庭に面した渡り廊下に、雲龍の大きな襖(ふすま)絵がある。思ったとおり、やはり爪が3本しかなかった。

400人あまりの善男善女が招かれていて、会席料理が振る舞われた。

私ははじめに、襖絵の龍の爪が3本しかないことに、触れた。

そして、もし、襖絵の龍の爪が4本あったとしたら、日本の歌舞伎をはじめとする、独特な、優れた伝統文化が形成されることがなかったろうと、話した。

市川団十郎氏も「やはり、そうだったのですか」と、驚いていた。

多くの会席者から、「はじめて聞きました」と、いわれた。

この龍の爪の数の話は、なぜか、日本ではよく知られていない。

中国の龍の5本の長い爪が、尖閣諸島を手はじめとして、沖縄や、台湾を搦盗(からめと)ろうとしている。

日本と中国は隣国だというのに、世界のなかで、これほどまで文化が大きく異なっている例は、他にない。

日本と台湾 なぜ、両国は運命共同体なのか
加瀬 英明
外交評論家。慶應義塾大学、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長。1977年より福田・中曽根内閣で首相特別顧問を務めたほか、日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを歴任。公益社団法人隊友会理事、東京国際大学特任教授。著書に『ジョン・レノンはなぜ神道に惹かれたのか』『アメリカはいつまで超大国でいられるか』(ともに祥伝社新書)、『昭和天皇の苦闘 巡幸と新憲法』(勉誠出版)『「美し国」日本の底力』(共著、ビジネス社)など、多数。1936年、東京生まれ。2022年11月に死去。

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