北海道石狩市の食肉製造(株)ホクビーが1982年から発売している加工肉「メルティークビーフ」(牛脂注入肉)。フランス料理の技法である「ピケ」とハム製法の「インジェクション」をヒントにした、オリジナルのピックル液を注入する独自開発の製法「メルティーク技術」により、原料となる赤身肉の良さをそのままに適度にサシが入り、柔らかく、ジューシーな食感を楽しむことができる。現在はさまざまなインジェクション加工肉が流通するなか、発売から40年以上、日々改良を重ね、オンリーワンの品質・味を守り続けている。
「Melt=とろけるような柔らかな食感」「Technique=加工技術で製造」「Beef=牛肉」の思いを込めて、「Meltique Beef=メルティークビーフ」と名付けた。ファミリーレストランや焼肉レストランを中心に採用され、市場の広がりとともに生産量も拡大、1990年度は月産40tだったものが、2000年度には130t、2010年度は251tに達した。2022年度はコロナ過での外食需要の回復で210tと予測している。現在は、豪州、中国、マレーシアにも工場・営業拠点を展開し、現地マーケットにも販売している。
1972年創業の洋食レストランからスタートしたホクビー。メルティークビーフが誕生した1982年当時、牛肉はまだまだ高価な食材だった。一方で、酪農が盛んな北海道には、出産を経験した乳用経産牛の資源があった。堅い肉質のため主にハンバーグなどミンチ材原料として利用されていた経産牛を、よりおいしくて、柔らかく、ステーキのニーズにも十分に応えられるよう、付加価値を高めるために開発したのが発端だった(現在は主に豪州産、NZ産牧草牛原料を使用)。
商品は、レストラン向けのサーロインを最初にラインアップ。1991年の牛肉の輸入自由化後は、海外からパーツでの原料購入が可能になり、ステーキのラインアップにサガリ商品が追加された。このサガリ群が焼肉チェーン向けにヒットし、さらにカルビ群がラインアップされていった。
現在は、ブロックからポーション、スライス・ダイス、ハンバーグのさまざまな形態で幅広いニーズに対応している。そのなかでも「メルティークサーロイン」「メルティークサガリ」が定番の人気商品。近年はリゾートホテルや温泉などの宿泊施設、遊園地、カラオケなどの娯楽施設、給食事業者にも導入され、採用された後のリピート率も非常に高いという。
「メルティークビーフ」が40年を超えるロングセラーになった秘けつは、柔らかさやおいしさ、使い勝手の良さといった特徴はもちろんのこと、個体差がある精肉と比べて、均質性が非常に優れていることも大きい。均質性を持たせるため、原料の選別をはじめスジ切り、漬込みなどの下処理の段階から研究を重ねてきたほか、市場が変わり続けることを常に意識し、改良・改善を行ってきた。
発売当初は「柔らかい」ことが顧客からの要望だった。それが、2000年代に入ると安心・安全という意識が強まり、添加物・細菌検査・アレルゲンについての要望が高まっていったという。ホクビーでは、原料の全量検査、リン酸塩不使用、HACCP手法の導入、乳を含む物質の不使用、自社でのPCR検査の導入などを通じて、それらの要望に応えてきた。そして、最近は調理の安定や時間短縮など、利便性のある商品の要望が増えており、カツなど加熱調理済みのメルティークビーフの需要も増えているという。
これからの目標は、外食以外の市場を開拓すること。「『メルティークビーフ』の価値は外食だけではない」という意識のもと、より広く市場を捉えた営業活動に力を注いでいく。そのため、来年度からは社内チームを立ち上げてインナーブランディング活動も強化していく。そして、新たな市場からの要求に応えるべく、さらなる商品開発を行っていく方針だ。
〈畜産日報2023年2月7日付〉