左から、遠藤正史専務理事・パネルリーダーの鈴木俊久氏・中津川研一理事長・吉井俊行技術部長
(画像=左から、遠藤正史専務理事・パネルリーダーの鈴木俊久氏・中津川研一理事長・吉井俊行技術部長)

日本油脂検査協会は、国際オリーブ油協会(IOC)の理化学分析試験所タイプBと官能評価試験所(パネル)のダブル認証を取得した。

有効期間は1年間で、2022年12月から2023年11月までの認証。ダブル認証は、東アジア初の快挙となった2020年に続く2回目となる。2021年はタイプBの認証を逃したが、課題を克服した上で偉業を達成した。

中津川研一理事長と遠藤正史専務理事、オリーブ油の検証プロジェクトチームと外部とのすり合わせに尽力した吉井俊行技術部長、官能評価のパネルリーダーを務めた日清オイリオグループ食品事業本部商品戦略部の鈴木俊久氏に今回のダブル認証までの道のりを振り返ってもらった。

理化学分析試験所は、IOCが主催するオリーブオイル理化学試験を受験し、IOCが定める技能評価基準を満たした機関・団体に与えられる。官能評価の認証は公的機関しか受けることができず、その官能評価の結果を裏付けるためには、理化学分析試験所の中でも、特にタイプBの認証が必要だ。

同協会は今回のダブル認証により、オリーブ油製品を官能評価と理化学分析の2つの視点から同時に確認できるようになった。それにより、外部から依頼分析を受けた場合に、結果報告について納得性が高まることにつながる。

遠藤専務理事は、「昨年はタイプBの認証が取れなかった。業界関係者からの期待があり、再認証を目指して体制を整え、日本植物油協会をはじめとした他の機関の協力も得て、今回何とか取得することができ安堵している。本業と並行しての体制となったが、今後も毎年確実に取得していくために、今回の取り組みをどう生かしていくかが大事だ」と語る。

〈再認証に向けて3点取り組む、継続取得のため得られた知識をメンバー間で共有〉
吉井部長は再認証に向けて取り組んだこととして、「昨年取得を逃した原因を内部で検証することが必要だった。全体的には3点の問題があった」と振り返る。

1つは、協会内部の精度確認が不十分だったことだ。タイプBには150もの分析項目があり、全てについて十分な分析結果が出せる精度確認ができなかったという。2つ目として、試験では、世界中から100以上の機関が提出する分析値の中央値に近い値を出す必要があるため、外部精度についても十分に確認できなかったとしている。

3つ目は、試験のための組織体制が不十分だったことを挙げる。「当協会は植物油の登録認証機関であり、日常のJAS分析業務を疎かにはできない。職員はさまざまな業務を行いながら試験の分析を行っていたので、オリーブ油を中心にした分析ができなかった。十分に時間を使える体制を構築することが課題だった」と説明する。

以上3点の対策として、まず同協会内部の精度については、減点があった分析項目について問題解決手法のフィッシュボーン(特性要因図)などを行い、議論する場を設けて原因を追究した。分析手順などは外部の情報収集も行い、適切な分析条件の選択に取り組んだとしている。

第2の点では、既知のサンプルを数多く入手し、職員全員でサンプル結果を導けるかを確認した。第3の点である組織体制については、日常業務の役割分担を調整し、オリーブ検証のプロジェクトチームを立ち上げた。課題に対しての年間スケジュール立てて、試験に挑む体制を構築したという。「今後も継続して取得していくために、得られた知識を作業手順書に落とし込み、メンバー間で共有していく。今年の試験で減点があった分析項目は、原因を究明して対策し、減点なしになるまで繰り返していく」と説明する。

〈官能評価パネルはチュニジアが最大勢力に、国毎の傾向を調整するのが大変〉
官能評価パネルは、日本油脂検査協会の職員だけでなく、製油メーカー各社から協力を受けてつくられている。官能評価の仕方は複雑になっているといい、パネルメンバー個々の評価をまとめるのが、パネルリーダーとしての鈴木氏の役割だ。

官能評価について鈴木氏は、「初回の2019年は点数のさじ加減が分からなかった。試験に参加する官能評価パネルの属性を事前に見ておく必要があり、オリーブは農産物のため品質も毎年変化する。評価者によって評価の変更もあり、常に同じ答えを出せばいい訳ではない」と説明する。「国別では、チュニジアはかなりオリーブ生産に力を入れてきており、2022年のパネル認定数は最も多かった。イタリア、スペインの約20に対し、チュニジアは20以上で最大勢力となっている」と最近の傾向を述べる。

元々チュニジアのオリーブ油は、バルクで輸出する安価な製品が主体だったという。品質の高いオリーブ油を生産しているイタリアやスペインに合わせるのは難しくないが、チュニジアの官能評価パネルが入ると傾向も変わる。「国毎の傾向を見抜いていかないといけないため、調整が大変だった」と苦労を語る。

また、例えばかつてスペインにはピクアルという品種があり、エキストラバージン(EV)オリーブ油としていたが、現在のIOC基準で認められるかが議論されるようになり、改善されているという。「官能評価は日々検討や改良が加えられている」と解説する。

〈日本におけるEVオリーブ油の流通の支えに、JAS分析業務と並行できる環境保つ〉
現在、日本のオリーブ油にはJAS規格はあるが、その品目はオリーブ油、精製オリーブ油のみで、EVオリーブ油の規格は日本にはない。

そのため現在、EVオリーブ油が正しく流通するために品質の確保に向けて、日本植物油協会が公正取引委員会、農水省、消費者庁と連携を取りながら、「日本オリーブオイル公正取引協議会」の立ち上げが進められている。

それとともに、国際規格との整合性のため、IOC基準やコーデックスをベースに、日本におけるEVオリーブ油としての定義、規格の設定、品質基準について、官能評価や理化学検査など基準が検討されているという。

今後も日本油脂検査協会がIOCからのダブル認証を維持することによって、日本国内で国際規格に合致した製品の確認ができ、消費者がEVと表示されている商品を安心安全に購入できるようになる。遠藤専務理事は、「日本におけるEVオリーブ油の流通の支えになるようにしたい。それが当協会の役割だと思っている」と語る。

今後について中津川理事長は、「タイプB認証が取れて、安堵している。職員の頑張っている姿を間近で見ていた。認証は1回取ればいいというものではなく、今後も取り続けないといけない。職員が当協会の中心の仕事であるJAS分析業務と並行していくのは大変なので、職員が仕事をしやすい環境を保てるように、遠藤専務理事とともに頑張っていきたい」と述べた。

遠藤専務理事は、「この1年、プロジェクトチームを立ち上げて、チームを中心に職員が必死に取り組んだ結果、再認証を取ることが出来た。すでにプロジェクトチームは解散したが、通常の組織に戻る時に、プロジェクトの良いところを残しながら、どのように通常の仕事に戻せるかが大事になる。今回、成功体験ができたので、困難があっても乗り越えられる強い組織になることを期待している。中津川理事長とともに環境を整えることが私の仕事で、日油協とのつなぎ役をきっちりと行っていきたい」と述べる。

吉井部長は、「当協会としての立場、役割、業界の貢献がある。登録認証機関としてのEVオリーブ油のJAS確立が今後の課題だ。公正取引協議会でEVオリーブ油の確立ができたら、JASとしてのEVが日本においても必要と思う。対応できる体制を今後の抱負としたい」と述べる。

鈴木氏は、「後継者も育てていかないといけない。味覚以外に経験や知識も必要で、簡単ではないが、次の世代のパネルのメンバーを育てていきたい。オリーブ油はさまざまな味があることを、一般の消費者にも知らしめたい」と目標を語る。

〈大豆油糧日報2023年1月25日付〉