新型コロナの影響で客足が遠のいたり、原材料価格が高騰したりと、飲食業を取り巻く経営状況は厳しさを増している。経営者は、経営改善に向けてさまざまな対策に取り組んでいることだろう。経営を改善するためには、まずは収益の改善が必要だ。しかし消費者の財布のヒモも固くなっている状況下で原価増加分を価格に転嫁するのは、消費者離れを引き起こしかねない。
全体的なコスト削減に努め、収益改善に取り組むにはどうすればいいのだろうか。
目次
飲食業でコスト削減が求められている実態
まずは、飲食業界の現状を確認してみよう。経済産業省が公表している「2021年企業活動基本調査確報-2020年度実績-」によると、飲食サービス業の売上高営業利益率は2019年が3.7%だったのに対し、2020年では-2.7%となっており、6.4ポイントもダウンしている。ちなみに売上高営業利益率とは、売上高に対する営業利益の割合だ。計算式で表すと以下のようになる。
- 売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
売上高営業利益率ダウンの理由は、売上高の低下と費用増加が主な要因。日本では、2020年1月15日に新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の国内初となる感染者が確認され、またたく間に広まり、同年4月には緊急事態宣言が発令された。以後、政府や自治体による外出自粛要請が出されるとともに、飲食店へも営業時間の短縮など、業績に影響を与えるさまざまな要請が行われた。
2020年10月には、飲食店を支援する政府の「Go To Eatキャンペーン事業」が始まったが、勢いを増す感染拡大には対抗できず同年11月半ばに人数制限する動きとなった。なかには、開店休業状態であった店舗もあるのではないだろうか。
2022年2月下旬には、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、世界的に原料価格の高騰に見舞われる。2022年5月の企業物価指数は、前年同月に比べて9.1%も上回ることになった。こういった複合的な要因により厳しい経営状態に陥っている飲食業者は多いだろう。ロシア・ウクライナ情勢は、長引く見通しであるとともに、コロナ禍の飲食事業者への継続的な要請を出している自治体もある。
このような状況のなか今後も事業を維持・継続していくためには、売上高営業利益率の改善に向けたコスト削減が必須となってくる。
まずはコストの現状把握から
具体的なコスト削減策を考える前に、現状での自社のコストのかかり方を確認しておこう。ひとくちにコスト削減といっても何でも節約すればいいわけではない。例えば前述した営業利益は、売上高から売上原価(仕入れ値)を差し引いた「売上総利益」から、さらに「販売費および一般管理費(販管費)」を差し引いたものである。
これだけでもざっくりと「仕入れ費用」「人件費」「広告費」「光熱費」「店舗家賃」などに分けられる。現状、どのコストがどれだけかかっているかを把握できれば、費用対効果を考えながらどの部分を集中的に削減すればいいか分かりやすくなり、効果的なコスト削減につながるはずだ。
飲食店の経営指標と実態比較
次に飲食店の経営において目安となる経営指標を知っておこう。ここでは「FL比率」と「営業利益率」の2つの指標を紹介するが、どちらも売上高に対するコストのかかり方を見ることができる。業界全体の目安とされる数値に比べて自社の比率がどの程度であるか比較してみよう。
FL比率
FL比率とは「売上高に占める食材原価と人件費の比率がどれぐらいであるか」という指標だ。「Food(食材費)」のFと「Labor(人件費)」のLを合わせて「FLコスト」または「FL比率」と呼ばれている。食材も人件費も飲食店を運営するためには必要不可欠。またFL比率は、飲食業において最も重視すべき指標の一つとされている。FL比率の計算式は、以下の通り。
- FL比率(%)=(食材費+人件費)÷売上高×100
業態によっても目安となるFL比率は異なってくるが、一般的には55~65%以下を目指すのが望ましい。もし55~65%を超えているなら食材費や人件費がかかりすぎていると考えよう。原材料価格が上昇している昨今では、特に食材へのこだわりがなくてもFL比率が上がりやすくなっている。
極力ロスを出さないように仕入れをコントロールしたり、人件費をコントロールしたりしながら平均以下のFL比率を目指してみよう。
売上高営業利益率
前述した売上高営業利益率も重視したい経営指標の一つである。なぜなら飲食店を運営するには、上述した食材費や人件費以外にも以下のような数多くの販売・管理費がかかるからだ。
- 店舗の賃料
- 水道光熱費
- 電話やネットなどの通信費
- 店舗やユニフォームのクリーニング代
- クレジットカードの手数料
- 備品費
- 賠償責任保険料など
計算式は、冒頭で紹介した通りであるからここでの記載は省略する。ここでは、日本政策金融公庫の「小企業の経営指標調査(2019年度)」より、小規模飲食業者の実態を紹介しよう。
業態によって差はあるが、黒字かつ自己資本プラス企業の平均値は、3%前後。このことを鑑みると飲食業の売上高営業利益率は、3%程度を目指すのが望ましいだろう。売上高営業利益率3%ということは、売上高のうち3%が営業利益として手もとに残ることを意味する。そのためには、仮にFL比率が60%だとすると、食材費および人件費以外の経費を37%に抑えなければならないということになる。
自社のコストのかかり方を見て、37%以内に収まっているかどうか確認してみよう。
具体的なコスト削減方法
具体的にコスト削減に努める方法を見ていこう。すでに自社で実施していることもあるかもしれないが、まだ取り組めていないものがあればぜひ参考にして欲しい。
家賃
店舗の家賃は、売上にかかわらず毎月発生する固定費だ。立地や広さなどによっても相場は異なるが、金額的にも販管費に占める割合が特に大きく、高すぎる場合は経営を圧迫してしまう。家賃を抑えるために、まず取り組みたいのが減額交渉だ。コロナ禍で廃業を余儀なくされる飲食業者が増えているなか、家賃を理由に退去されることを避けたい貸主もいるはずだ。
そのため長期入居の意志を示しながら丁寧に交渉を試してみよう。自分で交渉するのが難しい場合は、家賃交渉を代行してくれる会社の利用を検討するのも選択肢の一つ。例えば不動産鑑定士などが相場を見定め交渉してくれる。店舗を移転しても構わなければ、テナントが空き始めているこの時期をチャンスと捉えて引っ越すのも一つの手だ。
今より安い家賃というだけでなく、しっかりとした立地選定を行うと良い。
水道光熱費
飲食店では、水道や電気、ガスの使用量が多くなりやすい。節水・節電・節ガスの心がけは大切だが、店舗規模や営業時間などを考慮しながら適する契約プランに見直すのが効率的だ。また冷蔵庫や冷凍庫、エアコンなどの設備が古い場合には、電源効率の良い新しい設備に変えるだけでも電気代の節約につながる。
設備投資は大きな支出を伴う。しかし店舗では、一般的に客の入りが少なくても空調設備を回転させる必要性を意識すると費用対効果も検討できるはずだ。水道料金は、自治体に減免制度がないか確認してみよう。例えば東京都では、パン製造小売業や日本そば・中華そば店、民生食堂・大衆食堂などいくつかの飲食事業者が申請できる下水道料金の減免制度を設けている。
各自治体では、それぞれに申請条件を設けているため自治体に確認してほしい。
仕入れ費
近年は、原材料費が上がっているが、飲食代金への転嫁や質の低下は客離れのリスクを伴うため、最後の手段に留めたい。まずは、質を落とすことなく仕入れ費を抑えることに注力するべきだろう。仕入れ費を削減するには、いくつかの方法がある。例えば複数の仕入れ業者で見積もりを取ることで、より条件の良い業者から仕入れることができる。
ただし相見積もりを嫌う業者もいるため、注意したい。仕入れの量によっては、自ら足を運んで買うと配送費を節約できる。インターネットで価格調査をしながら交渉できる商材をあぶり出し、業者にその金額よりも安くしてもらえないか交渉してみるのも良いだろう。そのほかメニュー数を絞るのも有効だ。ロス削減にもつながる。
メニュー内容を変更するなら季節限定メニューを作り、季節物の安い食材を仕入れるのもおすすめだ。
人件費
店舗の運営を円滑に進めたり、良いサービスを提供したりするには、スタッフの存在は大切だ。しかし顧客の入り状況に対してスタッフの数が多すぎるようだと無駄な人件費を払っていることになる。この場合、曜日や時間ごとの売上傾向を把握し、適切なシフトに組み直すことを考えよう。
また一部作業をアウトソーシングしたり、キャッシュレス決済を導入したりすることでスタッフの業務負担を減らす方法もある。働きに合わせた給与見直しが行いやすくなるため、人件費削減につなげることが期待できるだろう。キャッシュレス決済のデータは、売上傾向分析にも活用できるため、シフト組みや効果的な仕入れにも役立つ。
リース費ほか
調理器具や冷蔵冷凍庫、食洗器、店舗什器などのリースを利用している飲食事業者も多いだろう。リースは、購入時にまとまった資金が不要な点が大きなメリット。しかしリース費として毎月確実に支払いが発生するため、削減できれば売上高営業利益率を改善しやすくなる。例えばマットレス交換の期間の延長や調理器具などのリース契約を見直してみよう。
助成金を使ってこれまでリースしていた器具や什器を購入するのも良い。ほかにも有線契約を解約したりゴミ処理やクリーニングを自身で行ったりして費用を削減することも検討したい。
コスト削減のカギは選択と集中
コスト削減をするための方法をいくつか紹介したが、削減方法によっては商品(料理)やサービスの質が低下し、客離れを招くリスクもある。削れる費用はとことん削るが、品質の維持・向上を図るためにかけるべき費用は惜しまないことが大切だ。例えば事業効率化のために必要な投資や外部コンサルタントに頼る費用など中長期的な効果を考えながら選択と集中を心がけて欲しい。