M&Aコラム
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これまでの歴史やスポーツなどからわかるように、戦力や資源に優位性があったとしても、必ずしも状況が有利に進むとは限りません。

この事実は企業経営にも共通しており、どれだけ恵まれた環境やリソースが豊富でも、戦略や戦術を間違えてしまえば、思い通りの結果は望めません。

本記事では、企業経営における「戦略と戦術」に焦点を当て、その違いやビジネスの現場に応用する際の注意すべきポイントなどについて解説します。

戦略とは

戦略とは、特定の目的を達成するために、長期的・大局的視野に基づいて組織行動を立案・遂行するための策略のことです。

その語源はギリシア語の「strategos(ステラテゴ)」に遡り、もともとは古代アテネの「将軍」の地位を表す言葉でした。

そこから派生して「特定の目的を達成するために、長期的視野と複合思考で軍事力や資源などを総合的に運用する指揮能力や計画」という意味が加わりました。

現在ビジネスの場面では「中長期的な視野に立って策定される、企業の方向性や指針」などの意味で用いられています。

戦術とは

戦術とは、局面における具体的な作戦、もしくは目標達成のための具体的方法のことです。

こちらもその語源はギリシア語の「taktike(タクティケ)」に遡り、古代アテネにおいては「兵の配置」を意味する言葉でした。

そこから転じて「部隊を整列させて運用する技術」や「用兵術」を意味するようになり、現代では戦略を実現するために講じる目標達成のための手段という意味で用いられています。

現在ビジネスの場面では「日々の現場で取り組む、課題解決のための具体的な施策やタスク」などの意味で用いられています。

戦略と戦術の違い

戦略と戦術の違いですが、目指すべき方向性を設定する戦略に対し、戦術とはそこに辿り着くまでの個別具体的なアクションプランを指します。

例えば「高い顧客満足度によって安定的な収益をあげる」を戦略目標に掲げる場合、「コールセンターの設立」や「オンラインによるサポートの開始」などが具体的な戦術になります。

戦略と戦術は、実現までの期間や柔軟性が異なる

戦略と戦術は、目標実現のためのスパンが大きく異なります。

戦略は1~5年程度の中長期的なものであるのに対し、日々の施策である戦術は1~3ヶ月程度と、短期的な場合が多く見られます。

また、基本的には変更を行わない戦略に対して、戦術は日々の状況に即して局面的に調整していく点などが異なります。

例えば、「自社の販路拡大による売上アップ」を戦略とする企業が、その戦術として「支店を増やしていく」ケースを考えてみましょう。

支店を増やし続ける中で、どうしても収益が上がらない支店があるとします。 この場合、局所的な戦術としては、損失を増やさないよう、支店を閉店する方法が考えられます。

このように、戦術においては、状況に応じて臨機応変に変更していく柔軟さが求められます。

戦略と戦術の両方が必要になる理由

本項目では、企業経営で戦略・戦術の両方が必要になる理由を解説します。

戦略はあるが、具体的な戦術がない場合

綿密な戦略を立てても具体的な戦術が決まっていなければ、目標達成までの道筋が見えません。このような状態では、それぞれが何をどのようにすべきなのかが「定まらない」もしくは「個人任せ」となってしまい、連携をとっていくことは難しくなってしまうでしょう。

戦略はなく、具体的な戦術のみ決まっている場合

反対に戦略を立てないままで、戦術のみが決まっている場合はどうしょうか?中長期的な戦略が決まっていなければ、戦術で一貫性が欠けてしまう可能性があります。羅針盤を持たずに航海に出るようなものですので、企業経営を上手く進められなくなるでしょう。

経営戦略から戦術に落とし込む際のポイント

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中長期的な経営戦略ができ上がったら、それを達成するために戦術レベルまで落とし込んで実際に稼働できるようにしなければなりません。落とし込みの際に必要なポイントは、以下の6つです。

① 目的を明確化し、常に念頭に置く
② 自社の現状を正しく把握する
③ 事前分析を行う
④ 従業員からアイデアを集める
⑤ 期限を決める
⑥ フレームワークを活用する

① 目的を明確化し、常に念頭に置く

経営戦略は中長期的な目標やプランにもとづいて立案されるため、抽象的な内容に陥るケースがあります。

例えば「会社の規模を拡大する」という抽象的な戦略では、精度の高い戦術を立てることはできません。

そのため「5年以内に新しい事業部門を設立して、年商を10億円にする」など戦略を具体化して、いつまでに、何をどうすれば良いのか時間軸とアクションを明確にすることが求められます。

② 自社の現状を正しく把握する

戦略を戦術に落とし込む際には、自社の現状を正しく把握しておくことも大切です。
市場における自社のポジションや強み・弱みによって、どのような戦術を行うのかが変わるからです。

例えば「業界のシェアを伸ばしていく」という戦略の場合、自社の現在地を正しく理解しておかなければ、状況に即した最適な戦術を立てることはできません。そのため、自社と業界の状況、ライバル企業などとの立ち位置の違いを把握しておくことが求められます。

③ 事前分析を行う

戦略として立てた目標を達成するためには、自社のリソースをどのように使うのかを、事前に分析・シミュレーションしておかなければなりません。具体的には、「採用する戦術によってどのような違いが生まれるのか」「戦術ごとの費用対効果の差はどうなのか」などの面から分析します。

④ 従業員からアイデアを集める

戦略を立てるのは主に経営者の役割ですが、実際に決まった戦術を実行するのは従業員です。そのため従業員の目線からすると、戦術に矛盾点や問題点、改善の余地が見つかる場合もあるかもしれません。

戦略を具体的な戦術に落とし込む場合は、現場の従業員から意見を聞き、そのアイデアを戦術にフィードバックできるような体制にしておくことも大切です。

⑤ 期限を決める

戦術を考える場合には、必ず期限を決めておかなければなりません。細かい期限を決めておかなければ、達成するためのモチベーションの維持が難しくなります。

しかし期間が長くなればなるほど進捗状況の管理やモチベーションの維持が難しくなってしまいます。そのため、できるだけ短期間で達成できる目標を詳細に決めておくことをおすすめします。

⑥ フレームワークを活用する

戦術の立案や意思決定をする際には、フレームワークを活用するとさまざまな角度から分析できるようになります。なお企業経営の意思決定でよく用いられるフレームワークとして以下の4つがあります。

SWOT分析

SWOT分析とは、「Strength(強み)」「Weakness(弱み)」「Opportunity(機会)」、「Threat(脅威)」の4つの要素を用い、企業や事業の内部要因(「強み」と「弱み」)と外部要因(「機会」と「脅威」)から問題の整理や戦略の立案を行うフレームワークです。

また具体的な戦術を検討する際には、4つの要素を掛け合わせる(例えば「強み」×「機会」や「弱み」×「脅威」など)クロスSWOT分析が行われます。

3C分析

3C分析とは、マーケティング環境を分析する際に用いられるフレームワークです。市場の状況を把握するために、「Customer(顧客)」「Competitor(競合相手)」「Company(自社)」の3つの視点から分析を行います。

3つのCを分析して外部環境を把握した上で、自社の強みや弱みを分析し、市場で自社の優位性を築くための成功要因を導き出します。

STP分析

STP分析とは、「Segmentation(市場の細分化)」「Targeting(ターゲットとする市場の選定)」「Positioning(自社の立ち位置の明確化)」の3つの指標を用い、新たな事業展開や新たな商材の販売などを検討する際に市場での反応や優位性・弱点などをさまざまな角度から分析するフレームワークです。

セグメンテーションで市場の把握とユーザー層の細分化を行い、ターゲティングでその中から参入すべき市場を決定し、ポジショニングで競合他社との位置関係や優位性などを決定します。

マーケティングミックス

マーケティングミックスとは企業が顧客心理に積極的に働きかけ、購買意欲を喚起させるために活用できる手段や方法などの組み合わせを指します。具体的な手段として用いられる「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(流通チャネル)」「Promotion(プロモーション)」の頭文字から、「4P」と呼ばれることもあります。

マーケティング戦略による施策の最終的な実行段階において、具体的にどのような方法を組み合わせて実行していくのかを分析・立案します。

著名企業による経営戦略・戦術の事例

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有名企業が具体的にどのような経営戦略・戦術をとっているのかについて、以下の3つの例を紹介します。

サイゼリヤによるコストリーダーシップ戦略

「コストリーダーシップ戦略」とは、業界全体の幅広い顧客をターゲットにして、競合他社のどこよりも「低いコスト」を実現することで勝利を目指す戦略を言います。

サイゼリヤがとった戦略がこの「コストリーダーシップ戦略」で、創業以来徹底した低価格路線を続けることにより、競合他社が追随できない低価格で商品を提供して、多くの顧客の支持を受けてきました。

サイゼリヤの「コストリーダーシップ戦略」を実現するための戦術として採用されたのが、徹底した効率化とシステム化です。福島県に100万坪の自社農場を保有し、収穫された野菜は品質が劣化しない温度で迅速に保管され、その後ただちに

全国の店舗へ配送する「コールドチェーンシステム」を構築しています。

この戦術によって、コストがかかる上に価格が不安定な野菜を、低コストかつ高品質で供給することに成功しています。

任天堂による差別化戦略

「差別化戦略」とは、他社との差別化を実現して競争に勝つことを目指す戦略です。

ターゲットを絞り込まず、業界全体における幅広い層を狙い、他のライバル企業が持たない特性のある商品を市場に投入します。

任天堂は家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」の発売以来、圧倒的な商品開発力を背景に競合他社とは違う独自路線を進み続け、現在でも高い支持を得ています。

このような差別化戦略を実現した最たる例として挙げられる戦術が、『Wii』の開発です。リアリティのあるグラフィック性能を高め続ける他社製品とは反対に、グラフィック性能は抑えつつ、独自のリモコン操作で直感的な操作性を図った『Wii』を市場に投入し、見事に大成功を収めました。

しまむらによる集中戦略

低価格帯の衣料品を取り扱うファッションチェーン「しまむら」が採用している戦略が、「コスト集中戦略」です。

コスト集中戦略とは、業界全体をターゲットとせず、特定市場においてコスト的な優位性を作り出し、市場での競争に挑む戦略です。しまむらの基本戦略は、「特定市場でいかに他社よりも低いコストを実現するか」に焦点が置かれています。

しまむらは、この戦略を実現するための戦術として、中国での生産管理や、日本国内での物流システムなどを徹底的にシステム化・効率化させ、ターゲットである主婦層からの支持を確実なものにしています。

終わりに

企業が安定的に成長・発展するためには、企業の発展ステージに応じた適切な戦略の立案やそれを実現させるための戦術を立てることが不可欠です。大企業でなくても、的確な戦略や戦術をとれば飛躍的に発展することは十分に可能であり、反対に大企業であっても、誤った戦略や戦術を繰り返せば業績が悪化してしまうでしょう。

「では適切な戦略・戦術とは何なのか?」という問いに対する答えは企業によってそれぞれ異なりますが、近年の特徴としては、M&Aを用いた戦略が規模の大小を問わず多くの企業に採用されています。

M&Aで他の企業と一緒になることで「これまでの経営課題が解決され、新しい戦略が立てられる」「活用できる経営資源の幅が広がり、戦術の選択肢が増える」など多くのメリットがあります。

戦略、戦術を決めていくうえでは、M&Aにも精通した専門家を交えて検討した方が良いでしょう。

日本M&Aセンターでは、M&Aだけではなく企業戦略のコンサルティングからサポートを行っています。詳しくは専任のコンサルタントまでお尋ねください。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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