矢野経済研究所
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9月13日、当社は女性ヘルスケアマーケティングの「WOMAN'S」(ダブルコレクション社)をパートナーにジェンダード・イノベーションをテーマとするセミナーを開催した。参加者は856名、この分野への産業界の関心の高さが伺えた。とは言え、“ジェンダード・イノベーション” は2005年、米スタンフォード大学のLonda Schiebinger氏が提唱した比較的新しい概念であり、初めて耳にする方も多いだろう。要約すると、生物学的、社会学的な視点から性差を研究し、性差による不利益が解消された平等な社会を創造する、ということである。

セミナーでは清水 由起氏(当社主席研究員)がフェムテック市場の現状について、●女性特有の健康課題に関する社会的な関心が高まる中、市場機会が拡大している、●医療サービス、医療用医薬品を除く2020年の国内市場規模は597億円、成長率は前年比103.9%、●2021年は参入企業、参入分野が増えたこともあり、市場規模は636億円に拡大、成長率も106.5%と勢いが出てきた、●一方、男性の女性の健康課題に対する理解は依然低く、女性のヘルスリテラシーにも課題が残る。社会全体の理解が浸透するにはまだまだ時間を要する、●しかし、欧米を中心にジェンダード・イノベーションの流れは加速しており、日本においても後退はない、と調査結果にもとづく報告を行った。

続いて登壇した矢野 初美氏(当社上級研究員)は、運転操作やキャビン内のプライバシーに配慮した女性ドライバー向けの大型トラック、女性の平均身長を基準に設計されたキッチンを男性でも使い易いように可変式にしたシステムキッチンなど、性差に着目した商品開発の事例について解説した。これらは、ドライバーは男性、料理は女性といったバイアスを乗り越えることで市場の拡大と利便性の向上を実現させた好例である。つまり、ここで示唆されるのは、フェムテック市場の裏側には同規模のメイルテック市場も存在する、ということだ。「ジェンダード・イノベーションの潜在市場は10兆円!」との清水氏の推計も頷けよう。

一方、性差研究には危うさも伴う。1つは家父長制型社会への退行を正当化するための言説として利用されかねないこと、もう1つは、性差分析は民族や人種といった遺伝的な分析軸を呼び込み易いということだ。こうしたミスリードを回避するためにも、「性差マーケティングは、あくまでも個人の生き易さを実現するためのメソッドであり、ゆえにジェンダーフリーやジェンダーレスとの相反はない」ことを強調しておきたい。多様性を受け止め、違いを認識することで、性差による不平等と機会損失を失くす、そのために何をすべきか、何が出来るか。当社はこの視座に立ってジェンダード・イノベーションに取り組んでゆきたい。

今週の“ひらめき”視点 9.11 – 9.15
代表取締役社長 水越 孝