矢野経済研究所
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日本時間9月9日未明から、米国主導による「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)の閣僚級会合が開幕する。2021年10月、米バイデン氏は東アジアサミットの席上、アジア太平洋地域で急速に影響力を強める中国に対抗するための新たな経済圏構想を提唱、これに日、韓、印、豪、ニュージーランドにラオス、ミャンマー、カンボジアを除くASEAN7ヵ国を加えた13ヵ国が参加を表明、5月23日、東京で第1回の会合を開催した。その後、フィジーも加わり、参加表明国は全14ヵ国、今回は各国閣僚がロサンゼルスに集結、「正式交渉開始の宣言」を目指し、対面での会議に臨む。

IPEFは、TPPへの加盟を見送った米国が、この地域における影響力の維持を狙って構想した国際的な枠組みで、貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公平な経済の4分野を柱とする。とは言え、電子商取引におけるデータの取り扱いや人権、環境、腐敗防止等について高いレベルで合意を取り付けるのは容易ではない。加えて、そもそも米国は、自国市場の開放に消極的であるがゆえにTPPへの参加を拒否したわけで、したがって、米国市場へのアクセスというインセンティブもない。

中国はそのTPPに参加を表明、RCEPには加盟済だ。それだけに対中包囲網づくりを急ぎたい米国は、IPEFへの参加に際して「参加国は参加分野を自由に選択できる」とハードルを下げた。この辺りは、必ずしも米国と中国の二者択一を望まないアジア諸国を取り込むための苦肉の策とも言える。台湾が加わっていないことも同じ理由であろう。ただ、参加国の参加分野があまりにも限定的であると経済圏としての一体性、実効性に疑問が生じかねない。米国のリーダーシップと調整力が問われるところだ。

一方、参加国が共通して関心を寄せているのがサプライチェーン分野であろう。新型コロナウイルスやロシアによる軍事侵攻はグローバル経済の脆弱性を露呈させた。IPEFは国際調達網におけるリスク低減をはかるべく、半導体、医療物資、食料、資源といった重要物資を緊急時に参加国間で融通できる仕組みの構築を目指す。尖閣問題でレアアースの供給を止められた日本にとって、対中リスクの軽減を国際間協定の中で担保できることの重要性は言うまでもない。サプライチェーン分野への期待は大きい。ただ、そうは言ってもアジア各国にとって最大のモチベーションとなり得るのは“米国市場の開放”である。IPEFの経済圏としての影響力を高めるためにもTPPへの米国の早期復帰を望む。

今週の“ひらめき”視点 9.04 – 9.08
代表取締役社長 水越 孝