矢野経済研究所
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8月18日、日本貿易保険(NEXI)は27日から開催される第8回アフリカ開発会議(TICAD8)を前に、アフリカ貿易保険機構(ATI)への出資を発表した。NEXIは日本政府が全額を出資する特殊会社、ATIはアフリカ諸国が出資する国際金融機関、外国企業向けに輸出信用保険や投資保険を提供する。NEXIは資本提携を機にATIとの連携を強化、ATIが持つ現地情報や各国政府とのパイプ等を活用し、日本企業の直接出資や貿易拡大を後押しする。

TICADは日本主導のもとで2013年に設立された国際会議、横浜で開催された前回会議には53ヵ国、108を越える国際機関等が参加、日本政府は民間投資の拡大とともに産業人材の育成、イノベーション投資の促進、アフリカ健康構想やアフリカ主導による和平と安定に向けて積極的な支援を表明した。第8回会議の開催地はチュニジア、コロナ感染により首相の現地入りはなくなったが、日本は「横浜宣言」の流れを踏襲、巨額資金で攻勢をかける中国に対抗すべく、「人への投資」を前面に掲げ、アフリカの自立的成長に向けての支援を表明する。

人口14億人を擁する “最後のフロンティア” への期待は大きい。経団連は「アフリカの内発的・持続的発展に貢献する」と題したレポートを発表、先行する欧州や中国を念頭に「戦略的な観点から、アフリカを捉え直し、中長期的な展望のもとで関係を抜本的に強化すべき」と提言する。とは言え、アフリカは1つではない。1国単位でみれば経済規模は大きくないし、多くの国で不平等が蔓延、水、食料、衛生、人権問題も懸念材料だ。インフラや法整備も不十分で、強権的な体制との親和性も高い。ロシアのウクライナ侵攻に対する国連の非難決議に賛成票を投じなかった国は54ヵ国中26ヵ国に及ぶ。

政情不安も続く。30年に及ぶソマリアの内戦は未だ収まらない。憲法改正の是非を問うたチュニジアの国民投票、民意は民主化の後退を選択、仏ルモンド紙は「ジャスミン革命が生んだ民主主義が葬られた」と評した。この5月には、2019年の仏G7サミットで日本も関与を表明した「サヘル同盟」からマリが離脱した。サヘル同盟はサハラ砂漠南縁地域5か国からなる反イスラム過激派の枠組み。離脱の理由は、軍政から民生への移管の遅れを理由に経済制裁を課した「西アフリカ諸国経済共同体」への反発だ。マリの孤立はこの地域の過激派を勢いづかせる。各地の過激派も依然衰えていない。加えて全土で欧米、中、露の思惑が交差する。こうした中でのTICADだ。格差の解消、暴力の根絶、社会の安定に向けて、どこまでの覚悟を見せられるか、日本にとっても正念場である。

今週の“ひらめき”視点 8.21 – 8.25
代表取締役社長 水越 孝