矢野経済研究所
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洋上風力発電の新設が世界で急拡大している。世界風力会議(GWEC)の最新データによると、2021年に新設された世界の洋上風力の発電能力は原子力発電所20基に相当する21.1GW(前年比3倍)、年末時点の累積発電量は56GWに達した。また、2031年には年間新規設置が昨年の2.6倍、54.9GWに達すると見込まれ、風力発電における洋上の割合は2021年の21%から2031年には30%に拡大する。また、技術的に難易度が高かった浮体式洋上風力も既に実証段階を終え、商業段階に移行しつつあると言う。

2021年の市場を牽引したのは中国、新設された発電量の8割を占め、4年連続でトップとなった。現在建設中のプロジェクトの総発電量は23GW、うち欧州勢が半分を占めるが、国別でみると中国が全体の3割強を占めトップ、これに英国、オランダ、台湾、フランス、ドイツが続く。中国は洋上風力で先行してきた欧州勢を一気に圧倒、世界の風車市場も上海電気風電集団など中国勢が上位を独占した。

海に囲まれた日本にとって洋上風力のポテンシャルは大きい。政府も “再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札” と位置づける。また、部品点数が多く、裾野の広い洋上風力は次世代成長戦略という点からも重要だ。しかしながら、累積導入量における世界シェアは0.1%、中国の47%、英国の22%、ドイツの14%とは比較にならない。結果、新産業の育成も出遅れた。三菱重工業、日立製作所など主要メーカーは既に撤退、昨年末、秋田県と千葉県の3海域における公募事業の第1ラウンドを総取りした三菱商事連合の風車はGE製だ。風車、ナセル、支柱など、基幹部品市場は海外メーカーが制する。

こうした中、公募入札ルールに対する批判が噴出、加点基準が大幅に見直される。ポイントは、価格点ウェイトの引き下げ、事業化スピードの重視、複数海域での同時入札における落札制限である。そもそも日本の公募案件は事業単位が小さい。そのうえ、発電量が制限されるとあっては規模のメリットが出ない。また、運転開始時期の早期化で差がつくのは環境アセスメントや地元調整など前工程における提案力だ。“新たな制約” は技術力と価格競争力で先行する海外勢の参入意欲を削ぐのに十分であろう。しかし、こうした施策から世界と伍して戦える日本企業が育つとは考え難い。世界との差は更に開き、結果的に関連産業の育成も遅れる。市場の拡大、国際競争力の強化、そして、脱炭素を急ぐためにも “開かれた市場” を前提とした公正、透明なルールを望む。

今週の“ひらめき”視点 7.31 – 8.4
代表取締役社長 水越 孝