2021年、世界のアートオークション売上高は約1.9兆円(170.8億ドル)に達した。これは、パンデミック以前の2019年をも上回り、2020年比では60%増となった。パンデミック発生以降に加速したオンラインでの販売やNFTの革命により入札者人口が増加し、市場の活性化に大きく貢献したことが要因だ。

世界中で取引された作品数は29%増の約66万4,000点となり、年間新記録を樹立。絵画、彫刻、プリント(版画)、写真においても過去最高の出品点数だった。そこで今回は「プリント」に着目して、プリント市場がどんな流れで動いているのかを見てみよう。

Photo by Raychan on Unsplash
(画像=Photo by Raychan on Unsplash)

2021年の結果から見るプリント市場

2021年の世界のアートオークションにおいてのプリントカテゴリーは、販売点数14万3,000点以上、売上高5億2,900万ドル(約587億2,000万円)の新記録を更新。オークションハウスもこのカテゴリーに特化したセールを定期的に設け、盛んな売買がされている。市場内を構成する重要なカテゴリーだ。

サザビーズ
(画像=サザビーズ)

出典:https://thehustle.co/

プリント作品の利点は、作品を量産することで比較的手頃な価格設定が可能になるため、あらゆるタイプのコレクターがアクセスしやすいところにある。一点物の絵画や彫刻は、価格帯や保管方法の難易度から限られたコレクターにしか届かない。しかし、幅広い価格帯で制作可能なプリントというカテゴリーは、多くのアーティストが作品を「民主化」することを可能にしたともいえるだろう。

流通量の高さが強み「ブルーチップ・アーティスト」

初めてアート作品を購入する時など、誰のどんな作品が良いのか悩むことが多いはず。先に述べたプリント作品の利点を踏まえつつ、業界内で恒常的におすすめされているのが「ブルーチップ・アーティスト」だ。

ブルーチップ・アーティストとは、美術史における絶対的な柱と考えられているアーティストのこと。奈良美智や草間彌生、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホル、ジャン=ミシェル・バスキア、ジェフ・クーンズ、キース・ヘリングなどが挙げられる。

いずれのアーティストもその作品群には数億円の値がつく作品もあれば、それに比べると安価で手に入れることができるプリント作品も含まれている。例えば、2021年のオークション売上高第1位になったピカソの場合、販売点数も断然トップの3,462ロットを記録。驚くべきところは、その作品の約43%が5,000ドル(約55万円)未満で取引されている点だ。その高い流通量は、幅広いタイプのコレクターとの需要と供給のバランスを保つことになり、市場内での地位を確固たるものにさせている。

現代美術が人気の傾向

2021年の高額で落札されたプリント作品を見ると、「近代美術」または「現代美術」のジャンルが優位性を示していることがわかる。2021年のトップの作品は、2位のウォーホル《Flowers》、3位のピカソ《Séries 347》を抑えて、286万7,442ドル(約3億1,830万円)で落札されたバンクシーの《Girl with Balloon》(エディション25)だった。バンクシーのプリント作品において最高落札価格を更新する結果となった。

1位:バンクシー《Girl with Balloon》(2003)
(画像=1位:バンクシー《Girl with Balloon》(2003))

出典:https://www.sothebys.com/

2位:アンディ・ウォーホル《Flowers》(1970) 落札価格 259万4,535ドル(約2億8,800万円)
(画像=2位:アンディ・ウォーホル《Flowers》(1970) 落札価格 259万4,535ドル(約2億8,800万円))

出典:https://www.artprice.com/

3位:パブロ・ピカソ《Séries 347》(1968) 落札価格 219万ドル(約2億4,300万円)
(画像=3位:パブロ・ピカソ《Séries 347》(1968) 落札価格 219万ドル(約2億4,300万円))

出典:https://en.wikipedia.org/

また、トップ10内には別カラーの《Girl with Balloon – Colour AP (Gold)》もランクイン。同じく現代美術のカテゴリーに入るキース・ヘリング、ジャン=ミシェル・バスキアもトップ10入りしていることからも、現代美術の需要の高さを顕著に表しているといえるだろう。

ちなみに、バンクシーは2021年のオークション売上高では全体の第8位、販売ロット数はピカソ、ウォーホルに次いで1,186ロットで3番目の多さに位置付けた。ロット数のシェアを見ても、プリントがバンクシーの売上にも大きく貢献していることがわかる。

バンクシー2021年のカテゴリー別ロット数
(画像=バンクシー2021年のカテゴリー別ロット数)

出典:https://www.artprice.com/

歴史的作品はNFTと絡めた動きに注目

近代・現代美術のプリント作品が需要を高める一方で4位にランクインしたのは、予想落札価格の10倍の159万ドル(約1億7,700万円)で落札された葛飾北斎の《神奈川沖浪裏(冨嶽三十六景より)》だった。葛飾北斎のプリントは2017年以前と比べて2〜3倍需要を上げており、2000年以降のオークション売上高において、2021年は過去最高を記録した。

《神奈川沖浪裏(冨嶽三十六景より)》(1831-33)
(画像=《神奈川沖浪裏(冨嶽三十六景より)》(1831-33))

出典:https://wa-gokoro.jp/

葛飾北斎を始めとする歴史的な作品に関しての注目は、NFTとのコラボレーションである。2021年9月、大英博物館とフランスのブロックチェーンプラットフォーム「LaCollection」が提携して葛飾北斎のNFT作品リリースの話題は記憶に新しい。作品は「ウルトラレア」「スーパーレア」「オープンエディション」の3つの希少度に分けて販売され、「スーパーレア」は、4万5,000ドル(10.6Eth/約500万円)に達した。2022年2月には、J.M.Wターナーの作品をNFTとして販売している。NFTの動向も含めて、継続的に成長を続けるカテゴリー「プリント」が今後どのように変化するのか、引き続き注目していきたい。

ANDARTでは、バンクシー、アンディ・ウォーホル、パブロ・ピカソ、草間彌生をはじめとする世界的アーティストのプリント作品を多数扱っています。気になる方は【ANDART取扱作品一覧】をご覧ください。無料会員登録で最新のオークション情報やアートニュースもお届けしています。

文:ANDART編集部

参考
https://www.artprice.com/artmarketinsight/printmaking-the-art-markets-new-favorite-medium
https://www.artprice.com/artmarketinsight/our-selection-most-popular-signatures-in-contemporary-prints
https://www.artprice.com/artprice-reports/the-art-market-in-2021/distribution-of-works-by-category-medium

為替レートは2021年の平均レートの1USD=111円で計算