医薬品製造受託市場,2019年
(写真=Billion Photos/Shutterstock.com)

2017年度の医薬品製造受託市場は、前年度比3.5%増の3,530億円と推計

ー市場は伸長傾向も好調な企業と伸び悩む企業と二極化の様相ー

矢野経済研究所では、次の調査要綱にて国内医薬品製造受託市場の調査を実施した。

医薬品製造受託市場 市場規模推移

医薬品製造受託市場 市場規模推移

1.市場概況

医薬品製造受託は 2005 年 4 月に改正薬事法が施行され、生産工場を持たなくとも製造販売業(元売 業)の許可と製品の承認(製造販売承認)を得ることで販売できる仕組みとなり、製薬企業の製造部門の 全面外部委託が可能となった。さらに、ジェネリック医薬品※(後発医薬品)の普及に伴い、中堅のジェネ リック医薬品企業と新薬系の製薬企業の提携を中心に、ジェネリック医薬品の共同開発件数も急速に拡 大している。結果として、医薬品の外部製造委託が急速に進展し、医薬品製造受託企業の受託件数、生 産量は拡大傾向にある。

市場規模は、2013年度から2017年度まで順調に拡大している。2013年度がやや伸長が低いものの、2014年度は7~8%程度の伸び率を記録した。2017年度については、ジェネリック市場の拡大に伴う共同開発による製造受託が伸長する一方、長期収載品が市場縮小により生産量が減少するなどの影響もあり、前年度比3.5%増の3,530億円と推測される。

2.注目トピック

製薬企業の外部委託動向

新薬系の製薬企業は、新薬開発と販売活動に重点を置く必要があり、特に投資の中心は研究開発部に置かれ、長期収載品などを中心に製造部門の外部委託は引き続き進展していくと見られる。

最近では、過去には考えられなかった大型案件(錠剤などの市場規模の大きい剤形で年間生産数1億錠を超える製品)、系列を超えた案件も増えており、受託市場を取り巻く状況も大きく変化している。また、外資系製薬企業のうち日本国内に製造設備を持たない企業の増加も製造(検査・包装を含む)の外部委託拡大の一因となっている。

委託側は、外部委託する最大のメリットをコストダウンにあると考えており、案件数や委託金額が増えると同時に、受託側に対する価格要求も厳しさを増している。従前であれば、既取引企業に製造を依頼するという形が一般的であったが、外部委託の普及拡大に伴い複数企業から見積もりを取る事が多く、案件毎に、ビジネスライクな判断で外部委託先を決定する事例も増加している。

3.将来展望

今後の医薬品製造受託市場は、既存の長期収載品の製造受託は減少が見込まれるが、新たに特許 切れとなる長期収載品の製造受託、ジェネリック医薬品市場の伸長などにより引き続き安定的に推移する と予測する。

成長要因としては、国策によるジェネリック医薬品の使用促進を受けての市場拡大と、それに伴う製造受託の増加、大手製薬企業を中心としたさらなる製造委託の拡大、品質レベルの向上に伴う信頼性の向上などを背景とした受託案件数の増加と大型化などが挙げられる。

一方、阻害要因としては、大型新薬の特許切れが一巡したことによる有望ジェネリックの新製品上市減少や、医薬品製造受託企業の増加に伴う競争状況の激化が挙げられる。特に、参入企業が多くコスト競争の激しい剤型の受託に関しては、引き続き価格競争が継続していくことが予測される。

医薬品製造受託市場は、既存長期収載品の生産量は減少が見込まれるが、新たに特許切れとなる長期収載品の登場、ジェネリック市場の伸長などにより引き続き安定的な伸長が見込まれる。さらに、新薬系企業の工場売却とそれに伴う委託への移行が予想以上に進展した場合には、予測数字を上回る成長を遂げる可能性もある。一方で、企業間のさらなる競争激化や、これを背景とする市場からの撤退、淘汰を余儀なくされる医薬品製造受託企業が出現するなども可能性もある。成長を継続する企業がある一方、受注減が続く企業も発生するなど、既に二極化の様相を呈していることもあり、今後どのような企業が市場で存在感を示していけるか、動向が注目される。