遺産相続,順位,相続放棄
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

相続は、「遺言書どおりに遺産分割できれば何も問題ない」と考えている方も多いのではないでしょうか。
しかし実際の遺産相続には「相続順位」と呼ばれる民法で定められた「遺産を相続できる順番」が決まっています。
もちろん遺言書どおりに遺産分割されること、また遺留分の権利を行使して遺産分割を行う、そういったケースがほとんどです。
そこで今回は、「相続順位」という観点からの遺産相続と、その順番どおりに相続を行った際、途中で「相続放棄」を行った人が出てきた場合にはどうなるのか、という点について紹介していきます。

1. まずは基本の「相続順位」とは

相続順位は「その遺産をもらうことができる優先順位」と言い換えることができます。
当然のことですが、すべての相続人が均等に遺産を受け取ることができるわけでもなく、かといって基本となるものがなければそれは「争族」を引き起こす要因となってしまいます。
そのようなことが起こらないように設定されているのが「相続順位」なのです。

例えば、A(被相続人)さんが亡くなりそこにはBさんという配偶者、CさんとDさんというお子さん、Eさんという被相続人の母がいたとします。
この場合の相続順位は、配偶者であるBさんが第一順位となりCさんとDさんが続きます。
相続の基本は被相続人を起点として「下へ下へ」と降りていくのが通常です。
この場合、CさんとDさんが存命であるため、「下へ」順位が下りていきます。
つまりEさんという母親は今回のAさんの相続には関係ないことになります。
この「下へ下へ」と行く相続順位ですが、CさんとDさんつまりお子さんがいなかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、配偶者であるBさんが第一順位となりますが、その後「下へ」権利を下すことができないため、「上へ」上がっていくことになります。
この場合であれば「Eさん」であり母親です。
法定相続人の第一順位は直系卑属と呼ばれる子供や孫、第二順位が直系尊属と呼ばれる父母や祖父母、第三順位が兄弟姉妹といわれる被相続人の兄弟ということになります。
多くの場合、配偶者とその子供に遺産分割を行い、そこで相続終了というのが一般的です。
しかし現代の晩婚化や少子化により、兄弟姉妹である第三順位にまで遺産が渡るといったことも珍しくなくなるのではないでしょうか。

相続順位が上がれば上がるほど、遺産を優先的に受け取ることができます。
しかしこれは「今発生している相続」に対しての順位であり、これが二次相続ともなると様相が変わってくることがあります。

例えば、自分の父親が亡くなったとします。
母親は健在でその子である自分と兄がいたとします。
自分と兄は結婚していますが兄には子はなく自分には子があるといった場合です。
この段階で考えがちなことは、父親の財産を母と自分と兄で法定通りに分割したとします。
しかしこの時考えるのは、「兄に子供がいないので、兄にわたった分はいずれ自分の子に戻ってくるのではないか」という考え方です。
しかしこれは大きな間違いなのです。

一次相続で兄にわたった遺産は、兄が亡くなった時にその配偶者にわたることになります。
では配偶者が先に亡くなった場合はどうなるのかといえば、兄が亡くなった時にその配偶者の両親が第一順位となって順位が上がるのです。
「下へ下がれない場合は上へ」という決まりに則って、遺産は上へ移動します。
ですから自分の子へその遺産がやってくるというその考え方は、持たない方がいいことは言うまでもありません。
逆を言えば、自分たち一族で守りたい財産があるといった場合は、遺産分割の際にきっちりと一族へ渡るように分割するか、若しくは養子等を検討して、一族以外にわたらないように検討する必要があるのです。
とはいえ、養子をとったからといって、その養子が亡くなるまで一族の「養子」として残っている必要があります。
また実子であっても「他の養子」へ行かないことなど、様々なケースを予測しておかなければいけないのは言うまでもありません。

このように、誰から被相続人の遺産を受け取るべきなのかは、相続順位によって決まります。
また一次相続だけではなく、場合によっては二次相続の相続順位も想定して遺産分割を行う必要性があるということも重要であると認識しておく必要があります。
ではここで気になるのが、必ず相続順位どおりに遺産を皆が受け取ってくれるのかどうか、という事です。
場合によっては負の遺産も存在します。
そのような時に発生するのが「相続放棄」というものです。
次にこの「相続放棄」についてご説明します。

2. 「相続放棄」とはどういったことを指すのでしょうか

「相続放棄」という言葉を聞くと「そのようなことをする人がいるのだろうか」と疑問を感じる人も多いのではないでしょうか。
しかし現実問題として、遺産と呼ばれるものには「プラス」のものと「マイナス」のもの、両方が存在します。
もちろんプラスの財産しかない場合もあれば、その両方が存在している場合や、逆にマイナスの財産しかないといったことも十分にありえます。
このマイナスの財産しか存在しない場合は文句なく「相続放棄」をすることで被相続人が作った借金などを返済する必要が無くなります。
では両方を持っているといった場合、そう都合よく「プラスの財産だけ引継ぎます」ということはできません。
プラスの財産とマイナスの財産の両方を引き継ぐからこそ相続が成り立つと言っても過言ではありません。
もちろん、プラスとマイナスですから相殺して結果的にプラスが多くなる場合は相続をすればよい事ですし、マイナスが多くなるのであれば全てを放棄しても良いのではないでしょうか。
これは専門家と相談することで解消できることとなります。

では、具体的に相続放棄について解説していきます。
この相続放棄と先に説明していた「相続順位」は密接な関係にあります。
ただし、この相続放棄は「辞めた!」と宣言してそれで完結するほど簡単な手順ではありません。

相続放棄の手続きとして、家庭裁判所に書類を提出し受理される必要があります。
これが相続放棄の中で最も重要であり基本的な手続きです。
ですから勝手に「財産は必要ありません」と声を高らかに宣言してもダメなのです。
この手続きは、相続の発生を知った時から3か月以内に開始する必要があります。
「開始」であり「完了」ではないので、専門家等に相談する時間もそれなりにあると考えられます。
もちろん迷いなく「相続放棄」をするのであれば、書類をそろえて専門家に相談することなく手続きを進めることも可能です。
では相続放棄に必要な書類についてここで簡単に説明しておきます。

 ①相続放棄申述書
 ②戸籍謄本(相続を放棄する相続人のもの)
 ③被相続人の戸籍謄本と住民票
 ④収入印紙(相続放棄申述書に貼付する800円のもの)
 ⑤郵便切手(家庭裁判所からの通知を郵便で受け取る)

ここで①、②、③について簡単に捕捉をしておきます。

①はその名の通り、相続を放棄する旨が記載された内容の申述書になります。
この手続きの中では、生存している相続人が行うものなので最も簡単に収集できる書類ということができます。

次に②ですが、こちらも相続人である人の戸籍謄本なので、本人が役所へ行けば簡単に入手することが可能です。
時間さえあれば、というところになります。

そして、③の被相続人の戸籍謄本と住民票ですが、これが場合によっては非常に時間がかかるかもしれない書類です。
人によっては1日で入手できない場合もあるので、時間に余裕を持って行動しておく必要があります。
何故かというと、この被相続人が亡くなるまで同じ所に住んでいれば問題ないのですが、もし数か所の地域にわたり住んでいたことがある場合、その住んでいた場所の住民票が必要となるケースがあるためです。
すべての人にそれが該当するのかといえばそうではありませんが、そういった手間の問題などを考えると、初めから専門家に相談をして必要な書類を確実にしてから行動することで効率がいいと言えます。

では、相続放棄の手続きが順調に進んだと仮定してその分の遺産はどのように分割することになるのでしょうか。

2-1. 「相続放棄」の発生した遺産はどこへ

さて、相続放棄について裁判所が認めた場合、はれて「相続放棄をした」ということができるのですが、ここで一つ問題が発生します。
それは「本来相続するはずだった遺産はどこへ消えるのか」という事です。
先に書きましたが、プラスの財産とマイナスの財産、共に放棄することになるのですが、場合によってはマイナスの財産は引継がざるを得ない場合が発生します。
それはどういう時かといえば、銀行などの金融機関が被相続人にお金を貸していた場合、その返済を相続人に求めるケースがあるという事です。
ただし住宅ローンなどの借入の場合は、借入を起こす際に【団信】と呼ばれる保険に加入し返済までの間に借入を起こした本人(つまりこの場合であれば被相続人となります)が亡くなった場合は、その生命保険から借入金を返済することになるので、相続人が住宅ローンの返済を求められるといったケースは少ないということができます。
よく男性が自分の妻に「俺が死んだら、この家のローンは支払わなくてもいい」といったことを言いますが、それがまさに団信に加入している場合ということができます。
この場合の借入金を負債として相続人が背負うことは結果的にはありません。

少し話はそれましたが、相続放棄をした相続人の分の遺産はどこへ行くのでしょうか。
そもそも「遺産相続」というのは被相続人の遺産が誰のものかわからず宙に浮いてしまうことを阻止する目的があります。
その考え方から行けば、必ず誰かの財産として所属することになるのです。
相続人が放棄した人以外に存在する場合は、その人たちで法のもと分割することになります。
また、そうではなく相続人が全く存在しなくなった場合は「相続財産法人」という名称に変更となります。
しかしこれだけでは誰のものになっているのかがわかりません。
かといって、持ち主がいないというわけではありません。
この場合は家庭裁判所で相続財産管理人という人を指名してもらい、その人に管理してもらうことになります。

3. 相続放棄が発生!その時の相続順位はどのようになるのでしょうか

さて今一度、ここでおさらいしておきます。
それは相続放棄をした方がいいケースについてです。

まずは、ややこしくなりそうな相続問題に巻き込まれたくないと考えている人。
その人は、いわゆる「争族」が起こりうる可能性を事前にキャッチしているのかもしれません。
確かにややこしい問題から解放されるもっとも簡単な方法は「相続放棄」です。
時間や労力などを考慮して、あまり自分にとって実りのある相続ではないと考えるのであれば、相続放棄という手段も立派な選択肢のうちの一つです。

次に相続放棄をした方がいいケースは。
先にも触れたように資産よりも負債の方が多く存在する遺産の場合は、相続放棄をして抱えていた負債そのものから解放されるというのが最も有効な選択肢ということができます。
わざわざ負債を背負うことに、大きなメリットがあるとは考えにくいといえます。
逆を返せばそれまで解消できなかった負債を、ここで一気に解消するチャンスということもあり得ます。

そして最後に、生命保険金や死亡退職金の範囲である「みなし相続財産」さえ受け取ることができればいいと考えている人は、相続放棄をすることもその後の煩わしい相続に関する諸々の手続きから解放されます。
生命保険金や死亡退職金は受取人の固有財産として考えられるため、みなし相続財産という通所の相続財産から一歩引いたような位置づけとなっています。

では、おさらいはこのあたりにして、次に具体的な相続順位の例を挙げて解説していきます。
もちろん簡単に言えば、相続放棄をした人を飛ばして本来その人の次の順位だった人の順位が1つ上がると考えるのが一番わかりやすいということは言うまでもありません。
そう考えればさほど難しいという事もないことがわかっていただけるでしょう。

3-1. では実際に例を挙げて考えてみます

ここではわかりやすいように、被相続人の配偶者は必ず相続を負うことを前提に話を進めていきます。

まず、第一順位である被相続人とその配偶者の間にいる子どもが相続放棄をした場合。
この場合は第一順である子供が相続放棄をしているので、第二順位である者の順位が上がります。
ただしこの場合はいわゆる子供が一人の状態「一人っ子」である場合です。
もし子供が2人以上いるといった場合は、放棄していない子で財産を分けることになります。
つまり、配偶者が遺産の2分の1を取得し、残りの2分の1を相続放棄していない子供で分けることになります。
これはいたって一番オーソドックスな方法で、仮に被相続人の孫が存在していたとしてもその順位はここに挙げたとおりです。
子がいれば孫にまで遺産が渡るような順位にはなりません。
しかし、これは相続放棄の場合であり子が亡くなっていて孫がいるといった場合は相続放棄とは異なるので、ここでは詳しく触れませんが、このような分割方法と相続順位ではないということを知っておく必要があります。

次に、被相続人に子供がいないといった場合はどうなるのでしょうか。
この場合は直系尊属といわれる父母へ遺産が上に上がっていきます。
この父母が相続放棄をしたという場合であれば、親等がより被相続人に近いものが相続人の順位として上がっていくことになります。
つまり、父母の上に祖父母がいればその祖父母が第2順位として上がってくることになり、祖父母が他界しているといった場合であれば、被相続人の兄弟姉妹つまり横の並びに順位が移動することになります。

4. 実は少し知っておいた方がいい「代襲相続」という相続方法

実は「代襲相続」と呼ばれる相続方法が存在します。
「代襲相続」とはその名の通り本来の相続人がいないために代わりにその人の分の相続財産を受け取ることになります。

よく勘違いされるものに、被相続人の兄弟姉妹が相続放棄をした場合に、甥っ子や姪っ子が代襲相続できるというものです。
これは間違いで代襲相続というのは、相続順位通りに遺産を分割して言った場合にすでに亡くなっている人がいる、つまり死亡している場合に活用する相続方法です。
相続放棄というものは、本来相続すべき相続人が健在であるにもかかわらず権利を利用しないという事です。
代襲相続は、本来受け取るべき人が亡くなっていてどうしてもその人に直接財産を渡すことができないという場合に発生する相続人です。
生きているのか亡くなっているのかで、相続する人が変わってくるのです。

代襲相続は相続放棄が発生している場合には利用できないと覚えておく必要があります。
また、兄弟姉妹が亡くなっているといった場合はその子供が代襲相続人として本来自分の両親が受け取るはずだった相続財産を代わりに受け取ることができるというものなのです。

4-1. 甥っ子や姪っ子も相続を放棄した場合はどうなるのか

そもそも甥っ子や姪っ子にまで相続財産が回っていくというのは非常に珍しいケースかもしれません。
そして可能性としては、その姪っ子や甥っ子が相続放棄をするということもあり得ます。
その場合、相続人がいなくなる可能性が非常に高いと言えます。
相続人がいなくなったと言っても過言ではありません。
では、このような場合はどうなるのでしょうか。
このようなことが発生した場合は、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任して管理と精算をします。
まずは、被相続人と一緒に生活をしていた人、被相続人の介護をしていた人、あとは特別に縁故があったという人、これらに該当する人たちは特別縁故者として相続財産の一部、若しくは全部を受け取ることができます。
ただし、特別物故者が相続の請求をしなかった場合は、その遺産は国の所有となり精算することになります。
国の所有といっても、そのままの状態で保管されるという意味ではありません。
土地や建物といった不動産は競売等にかけられ、いち早く現金化することになります。
中小企業のような非上場の株式がある場合も、初めは縁故で株を売却し現金化することを行います。
しかし上場企業の株式とは違うので、必ずしも売却により現金化できるとは限りません。
またその非上場株式の会社の価値がないという場合もあります。
そういった場合でも国はいち早く現金化できるものは現金に変えようとするので、財産を受け取ったそのままの状態で管理するということはほとんどないと考えるのが妥当です。

4-2. 相続放棄をする人の中に「未成年者」がいる場合の扱いはどうなるのでしょうか

未成年者がいるといった場合は、親権者が代わりに手続きを行う事になります。
ただし、親権者がその立場を悪用して無理やり未成年者であることを理由に相続放棄をさせてはいけないため、それを防止するために特別代理人と呼ばれる人を家庭裁判所に請求する必要があります。
この特別代理人が客観的に判断して、親権者がその立場を悪用していないということを証明したうえで、はじめて未成年者の相続放棄がなされることになります。

4-3. 「相続放棄」という言葉は簡単に聞こえるが、実は簡単ではない

「相続放棄」をすればすべての責任から逃れられるような感覚になります。
事実、マイナスの財産の方が多い場合は、これを機に精算してしまうことも可能です。
ですが相続放棄は個々に家庭裁判所を通じて手続きをする必要があるため、それを考えるちと「財産はいりません」と宣言するだけで終わってしまうものではないのです。
仮にプラスの財産だったとしても「いりません」といっただけではダメなのです。
相続放棄は言葉で言うほど簡単ではないということを知っておく必要があります。

5. まとめ

相続放棄は誰にでも与えられている権利になります。
もちろんその手続きは個々に家庭裁判所を通じて行う必要があり、一定の手続きを踏まなければいけないので簡単なことではありません。
しかし、マイナスの負債が多いといった場合はこの制度を利用することでリセットすることができます。
また、いざ遺産を相続したいと思ったとき、自分の相続順位はいったい第何位になるのかを把握しておく方がいいでしょう。
相続放棄をする人が出れば、自動的に順位が上がることもあります。
もしかすると、そのままの順位であればさほど受け継がなくてもよかった負債を、相続放棄が発生することで増加してしまうこともあります。
スタート時点で、自分の今の相続順位が第何位なのかをまず把握すること、その上で、相続放棄をするかどうかの検討をすることが大切だと言えます。

また、相続放棄を行う場合は期限が決まっているので、その期限内で財産を相続するかどうかのジャッジをしなければいけません。
慎重に考えなければいけない反面、あまりに迷っていると、結局、放棄したくてもできないといった結果を招くことになります。
みなし相続財産だけを受け取れればそれでいい、マイナスの財産が明らかに多いのでそれを引き継ぐのは嫌だという場合にはできるだけ早く相続放棄の手続きを進めることが大切です。
プラスの財産とマイナスの財産、相続税評価額では結果的にどちらが多いのか知りたいといった場合には、専門家である税理士に相談することで、ある程度計算できることがほとんどです。
相続が発生したと知ったら、すぐにでも専門家をうまく活用して、必要のない財産を相続してしまうことがないようにしましょう。
また、自分の相続順位が第何位なのかを知りたい場合にも、専門家に相談すればすぐに解決してもらえるはずです。(提供:ベンチャーサポート法律事務所