2025年大阪・関西万博で実用化? 拡大する「空飛ぶクルマ」市場の現状
(画像=ArchMen/stock.adobe.com)

新時代のモビリティである「空飛ぶクルマ」が話題となっている。官民協議会が2025年の実用化を目指す中、トヨタ自動車など大手メーカーの参画も注目されている。空飛ぶ車については、機体はもちろん資材や安全運航システム、インフラ面など幅広い分野での市場拡大が想定されるが、具体的にはどのような業界や企業がかかわっているのだろうか。現状を分析し、今後の展望を述べる。

空飛ぶクルマとは?

空飛ぶクルマとは、そもそもどのようなものなのか。

国土交通省航空局では、空飛ぶクルマについて「明確な定義はないが、『電動』『自動(操縦)』『垂直離着陸』がひとつのイメージ」と提示している。海外では、「eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft)」や「UAM(Urban Air Mobility)」などと呼ばれており、垂直方向の離陸・着陸が特徴のモビリティだ。

日本では2018年から、経済産業省や国土交通省と民間企業、大学などによる「空の移動革命に向けた官民協議会」が、空飛ぶクルマの実用化を目指して技術開発や制度整備について議論を重ねている。

2025年に空飛ぶクルマが本格導入?

政府や官民協議会は、2025年に開かれる大阪・関西万博で空飛ぶクルマを導入する方針だ。関西空港や神戸空港と万博会場となる人工島「夢洲(ゆめしま)」(大阪市)の間で、来場客を輸送することなどが想定されている。万博での空飛ぶクルマの導入実現を目指して、すでに複数の企業が参画を表明している。

世界初となる空飛ぶクルマの空港がオープン

2022年5月、イギリスで世界初の空飛ぶクルマの発着場「Air-One」がオープンした。実際に空飛ぶクルマが稼働しているわけではないが、離着陸のために必要な設備などをシミュレーションするために期間限定で設置されている。

ヘリコプターのように垂直に離着陸できれば、都市部でも発着場を作ることができ、移動の利便性向上が可能だと考えられている。

空飛ぶクルマのビジネスモデル

空飛ぶクルマの実用化に向けて具体的に提案されているビジネスモデルには、例えば以下のようなものがある。

・災害時の被災地への物資や人の輸送
・山間部や都市部での荷物の輸送
・医師の緊急輸送
・観光地や空港へのアクセス(定期運航)
・離島間や都市内の移動
・自家用

災害時の輸送や医師の輸送、山間部での利用などは、ヘリコプターで同様のサービスがある。空飛ぶクルマが実用化した場合のヘリコプターとの主な違いは、騒音が小さいことの他、自動飛行が可能になれば操縦士が必要ないため、人件費などの運航コストを抑えられることなどが挙げられる。これらの利点を活かして、都市部や都市間での導入も想定されている。

また、交通渋滞や環境問題など、現在の自動車社会が抱えている課題の解決策としても期待されている。

空飛ぶクルマビジネスに参画している分野や企業

空飛ぶクルマの実用化を目指し、さまざまな分野の企業が参画している。

大手自動車メーカーのトヨタ自動車は、空飛ぶクルマを手掛ける米国企業ジョビー・アビエーションに3億9,400万ドルを出資した。ホンダは2030年代の実用化を目指しており、スズキは国内で先行して開発・製造を進めているSkyDriveと提携している。SkyDriveは2018年に設立され、伊藤忠商事やENEOSなどが資金提供している企業だ。

大阪・関西万博での空飛ぶクルマの実用化に向けては、航空会社であるANAや日本航空が運航に参画する予定だ。また、離着陸のための発着場は、駐車場「タイムズ」の展開で知られるパーク24が整備を手掛ける。事故対応などの分野では、あいおいニッセイ同和損害保険とも連携する。

製造用機械メーカーのジーエス・ユアサコーポレーションは、従来の2倍の蓄電量を持つリチウム硫黄電池を、空飛ぶクルマでの実用化に向けて開発を進めている。

官民協議会では自動車会社や航空会社の他、保険会社やメーカー、総合商社などもプレゼンテーションを重ねている。構成員には、宅急便のヤマトホールディングスやUber Eatsを手掛けるUber Japanなども含まれており、サービス関連でも幅広い分野の民間企業が空飛ぶクルマビジネスに参入を目指している。

空飛ぶクルマが当たり前の移動手段になる?

空飛ぶクルマの市場は各方面から注目されており、今後急速に拡大しそうだ。米モルガン・スタンレーの予想では、2040年には現在の200倍以上となる200兆円弱の規模になるという。

官民協議会が「空の移動革命」と名付けるほど、空飛ぶクルマの開発と実用化は今後の社会や経済に大きな変革をもたらしそうだ。

機体や周辺設備の製造・開発に関わる分野はもちろん、空飛ぶクルマを利用したサービスや、新たな事業での利用も考えられる。未来の乗り物だと思われていた空飛ぶクルマは近い将来、当たり前の移動手段になるかもしれない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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