シャープが英語を社内公用語に 英語公用語化のメリット・デメリットは?
(画像=nito/stock.adobe.com)

2022年6月にシャープが社内公用語を英語にする方針を示した。グローバル展開を進める同社が海外事業を拡大するためには、社員の英語力の大幅向上が不可欠と判断したからだ。英語の社内公用語化の取り組みは、企業にとってどのようなメリット・デメリットがあるのか。

英語の社内公用語化の先駆けは楽天

シャープの呉柏勲(ゴ・ハククン)社長兼CEO(最高経営責任者)は2022年6月23日に開いた株主総会後の経営説明会で、2023年から英語を社内公用語にする方針を明らかにした。

シャープが展開するブランド事業の売上高海外比率は47%で、海外事業の強化を2022年度の取り組みのポイントに据えている。同社が今後、グローバル企業として成長していく上で、海外で活躍できる人材を育成していくことは急務というわけだ。

英語の社内公用語化を先駆けて行ったのは楽天で、その方針を打ち出したのは2010年のことだ。楽天は、2年の移行期間を設けて2012年から本格導入し、カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングやホンダなどがこの動きに続いた。

企業が社内公用語を英語にする背景には何があるのか。

共通の背景はグローバル化、ビジネスチャンス拡大への寄与

英語の社内公用語化を決めた企業に共通しているのは、人口減少で国内のマーケットが縮小する中、グローバル化に活路を見いだしている点だ。一部の英語を話せる社員が海外とのビジネスを担当するのではなく、会社全体でグローバル化に取り組み、企業を成長させる狙いがある。

実際に、社員全員がビジネスレベルの英語を話せるようになることを目指した楽天では、2015年の段階で社員のTOEIC平均スコアが800点を超えた。誰もが海外で開かれる展示会やセミナーに出張できるようになり、ビジネスチャンスが広がった。

こうした機会の増大は、英語の社内公用語化に成功した企業が享受している共通のメリットだ。ビジネスシーンで英語を使えるようになれば海外赴任も選択肢のひとつになり、社員のキャリアの幅も広がる。

外国人材の獲得が有利になる

英語の社内公用語化のメリットは、ビジネスチャンスの拡大だけにとどまらない。

厚生労働省によると、2021年10月末時点の外国人労働者数は172万7,221人で、2007年に届け出が義務化されて以降、最高を更新した。高度な知識や技能を持つ外国人材を獲得できれば、企業は生産性向上やイノベーションの加速化を図れる。

その一方で、外国人材を獲得する上で、日本語の難しさが壁として立ちはだかっているのも現実だ。社内公用語が英語になっていれば、そうした外国人材が日本企業で働くハードルを下げられる。実際に、楽天は開発部全体の約半数を外国籍社員が占めており、その効果がうかがえる。

企業のサポート態勢や社員の理解は不可欠

もっとも、英語の社内公用語化の試みにはリスクやデメリットもある。導入をうたう企業が社員に対するサポート態勢を整えていなければ、「絵に描いた餅」に終わりかねない。当然ながら、企業が社内公用語化の方針を掲げたからといって、社員がすぐに英語を話せるようになるわけではない。

研修プログラムを用意したり、場合によっては社外のスクールに通う費用を補助する制度を整えたりする必要もあるだろう。

また、英語の社内公用語化を性急に進めれば、日々の業務に悪影響をきたしかねない。例えば、英語の社内公用語化に伴い想定されるデメリットのひとつは、人材の流出だ。

社員全員が企業の方針に賛同してくれるとは限らず、英語の上達スピードには個人差があるため、英語の習得を重荷に感じて会社を辞める社員も出てくる可能性がある。

無理に進めればミスコミュニケーションの原因に

英語を社内公用語にすれば、資料を英語で作成し、会議や打ち合わせは英語で行うことになるだろう。社員の英語力が十分に向上していなければ、微妙なニュアンスが伝わらないなど、ミスコミュニケーションの原因にもなる。

その一方で、デメリットが顕在化することを懸念し、英語の社内公用語化を徹底できなければ、日本人同士はこれまで同様に日本語で会話をするようになるかもしれない。こうなると、社内公用語化の試みは形骸化し、投じた費用と時間は回収できなくなる。

経営トップのリーダーシップは必須

英語の社内公用語化を成功させるには、企業経営のトップ自らが率先して英語を身につけ、模範となる必要があるだろう。昇格基準の項目として英語力を設けるなど、人事制度に英語を組み込むことも手段として考えられる。

英語の社内公用語化は、さまざまなリスクを引き受けて経営資源を投入したところで、企業の業績向上を約束するものではない。しかし、英語の社内公用語化から多様性が生まれ、活力の源となって企業風土の変革につながる可能性を秘めているのも事実だ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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