2020年に一時コロナ禍で鈍化したアート市場だったが、その後、どのように変化しているのだろうか。UBSとアート・バーゼルから毎年発行されているアート・マーケット・レポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report」の2022年度版より、現在のアートマーケットの状況を5つのポイントで見てみよう。(レートは1ドル=135円で計算)
1) 世界のアート市場は パンデミック以前のレベルを超えて回復
2020年はパンデミックのために過去10年間で最大の売上減少を記録した世界のアート市場だが、2021年には力強く回復。美術品と骨董品の総売上高は前年比29%増の約651億ドル (約8.8兆円) に達し、パンデミック前の水準を上回った。
国別に見ると米国市場が首位の座を維持。全世界の販売額ベースでは43%を占める280億ドル (約3.8兆円) 強の売上となった。中国市場は全世界の売上高の20%を占め、英国を抜いて2位に躍り出た。また、フランスは、過去10年間で最も売上が向上し、売上高は前年比で50%増加した。
2) ハイエンドなアートディーラーの売上が好調
アートディーラーに目を向けると、2020年には売上が20%減少したものの、2021年の総売上高は推定347億ドル (約4.7兆円) に達し、前年比18%増加した。ただし2019年の総売上高は下回っている。
半数以上(61%)のディーラーは2020年から売上高が増加しているが、13%は横ばい、26%は減少となっている。この内訳を見てみると、前年比で最も販売額が上昇したのは、ハイエンドのディーラー(売上高500万ドル(約6.8億円) 以上1000万ドル (約13.5億円) 未満)(35%)であり、小規模ディーラー(売上高25万ドル (約3,400万円) 未満)の上昇幅は最も小さかった(6%)。
地域別に見ると最も大幅な売上改善を示したのはアジアのディーラーで、中華圏での事業の6%増を含め、平均18%増加。最も厳しい環境にあったのは欧州のディーラーで、域内の売上高は平均7%の減少となった。
調査したディーラーの91%は今後12ヵ月間の売上高について、増加あるいは横ばいとの見通しを示し、減少を予想するのは9%にとどまるなど、現場の肌感覚として明るい見通しが感じられているようだ。
3)デジタル・アートへの関心が一気に強まる
画像出典:https://www.artpedia.asia/
2021年は世界のアート市場の売上高651億ドル (約8.8兆円) に加え、NFTのプラットフォームでの販売も活況を呈した。「アート市場」以外で行われたアート系NFTの販売額は、2021年には前年比100倍以上に拡大して26億ドル (約3,510万円) に達し、コレクティブル系NFTではさらに大きな伸びを示し、86億ドル (約1.2兆円) となった。
また、同年は伝統的なアート市場のオークション部門もNFTに続々と参入。クリスティーズのNFT販売は、NFTブームの火付け役となったBeepleの≪Everydays: The First 5000 Days≫の販売を含め、総額1億5,000万ドル (約203億円) となった。サザビーズのNFTの売上も8000万ドル (約108億円) に達した。
デジタルアートブームは、若くて新しいバイヤーを惹きつけるきっかけにもなった。サザビーズでは、NFTの入札者の78%がオークションの初心者で、その半数以上は40歳以下であったという。
富裕層コレクターの2021年上半期の平均支出額の12%はデジタルアート作品が占め、その人気ぶりがうかがえた。調査したコレクターの半数以上(56%)は、今年、デジタルアートを購入することに興味があると回答し、その中でも最も割合が高かったのはミレニアル世代のコレクター(61%)だった。
4) 対面販売が復活してもオンライン販売は成長を続ける
オンライン市場は拡大を続け、2021年には7%の成長を遂げて推定133億ドル (約1.8兆円) に達した。2021年のオンライン売上が占める割合は20%で、パンデミックによる対面販売が困難であった2020年と比較すると5%減となったが、それでもパンデミック以前の2019年と比べると2倍以上の水準となっている。
オンライン販売で最も多かったのはディーラー自身が運営するオンライン・チャネル(ウェブサイト、オンライン・ビューイング・ルーム、ソーシャル・メディア、Eメール)を利用したものだった。オンラインの販売が加速することで、新規にコレクターになる層が拡大。オンライン売上高全体の38%を新規購入者が占め、また、既存顧客でも2021年に初めてオンラインを利用した顧客が25%を占めた。
対面販売が復活しても、今後もオンラインを通じた取引は引き続き行われていくと予想されている。
5)ミレニアル世代・女性の富裕層コレクターが市場を牽引
アートコレクターに目を向けると、富裕層のコレクターが2021年上半期に美術品と骨董品に費やした平均支出額は24.2万ドル (約3,300万円) と、2020年通年の17万ドル (約2,300万円) と比べて平均42%もの大幅な増加となっていた。
その中でも伸びを牽引したのは主にミレニアル世代のコレクターだ。ミレニアル世代コレクターの全体の支出額は37.8万ドルと、2019年の水準から2倍以上伸び、上の世代(X世代は11.8万ドル (約1,600万円)、ベビーブーマー世代は10万ドル (約1,350万円))による支出額の3倍以上にのぼった。
また、女性富裕層コレクターは男性富裕層コレクターより多く作品を購入し、2019年以降、支出の伸びは大幅に加速している。女性コレクターの2021年上半期の支出額は41万ドル (約5,500万円) と3割強増加し、男性コレクターの2倍以上に達した。
以上、5つのポイントで現在のアートマーケットの傾向を振り返った。パンデミックの収束が見えつつあるものの、未だ社会情勢が不安定な中ではあるが、こうした中でもアートの市場は堅調である様子がうかがえる。
ANDARTに会員登録すると、オークション情報や話題の展覧会情報など、今が旬のアートニュースをお届けします。メールアドレスの他、SNSでも簡単に登録できるので、ぜひご検討ください。
参考:The Art Basel and UBS Global Art Market Report (Art Basel)
The Auction Market Is on Fire, But Fairs Are Still Flailing: 7 Takeaways From the 2022 Art Basel Market Report (artnet news)
文:ANDART編集部