海外M&A,メリット,デメリット
(写真=PIXTA)

日本の対外直接投資は年々増加している。その背景には、クロスボーダーM&A、つまり、海外企業の買収の増加が挙げられる。サントリーがビーム社を買収したり、JTがギャラハーを買収したりといった大型の案件も目立つが、実は中堅中小企業によるM&Aも増えているのだ。成長が伸び悩む日本に比べて、今後、人口の増加が見込まれる海外に成長の機会を求める企業が多くなっているのだろう。

しかしながら、必ずしもM&Aがうまくいくわけではない。国内でのM&A以上に、海外M&Aは難しいことも多いだろう。そこで、海外M&Aを行うには、どのような点に注意すればよいか解説する。

目次

  1. クロスボーダーM&Aとは
  2. クロスボーダーM&Aの3つのタイプ
    1. In-Out型M&A
    2. Out-In型M&A
    3. Out-Out型M&A
  3. クロスボーダーM&Aの特徴
    1. 手法が複雑化するケースが多い
    2. 検討すべきリスクが多い
  4. 増えている日本企業の海外M&A
  5. 中小企業も海外M&Aに積極的?
  6. 海外M&Aが増えている3つの理由とは?
    1. 1. 魅力ある海外の高い成長率
    2. 2. 1から立ち上げなくてよいという安心感
    3. 3. 海外M&Aに対する知見が高まりつつある
  7. 中小企業におけるクロスボーダーM&Aのメリットとは?
  8. クロスボーダーM&Aのデメリットとは?日本企業がなぜ海外M&Aに失敗するのか
  9. クロスボーダーM&Aを行う際の3つの注意点
    1. 1.経営戦略や自社の目指す方向に合致しているか見極める
    2. 2.現地の法制度や規制がないかチェックする
    3. 3.実態に見合わない価格で購入しないようにする
  10. クロスボーダーM&Aの具体的な進め方は?
    1. 1. M&A実施の検討
    2. 2. M&Aチームの立ち上げ、準備
    3. 3. 価格の算定、交渉
    4. 4. 買収後の経営
  11. 海外企業のクロスボーダーM&A事情
    1. 成功事例1:サントリーのビーム買収
    2. 成功事例2:ソフトバンクのアリババへの出資
    3. 失敗事例:丸紅のガビロン買収
  12. 売却先に海外企業を選ぶ、という選択肢も
  13. クロスボーダーM&Aを行う際は、まずは専門家に相談を
  14. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

クロスボーダーM&Aとは

まず、そもそもクロスボーダーM&Aとは何だろうか、簡単に説明しよう。

クロスボーダーM&Aは、「クロス(超える)」「ボーダー(国境)」の言葉通り、海外企業も対象としたM&Aのことである。世界はボーダーレスになりつつあり、よりビジネスのスピードは速くなっている。そういった中で、「お金を時間で買う」M&Aというのは、もはや企業の成長にとっては必要不可欠だと言ってよいだろう。

そして、M&Aを見る視線は、国内の企業だけとは限らない。成長の種が海外にもあるならば、海外でのM&Aも検討すべきなのだ。

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クロスボーダーM&Aの3つのタイプ

ひと言でクロスボーダーM&Aといっても、大きく分けると3つのタイプがある。

In-Out型M&A

一つ目は、国内(日本)の企業が海外企業を買う、「In-Out型」のM&Aだ。上記で説明したようなサントリーのビーム社買収などはIn-Out型M&Aに当てはまる。海外進出を目指すような企業が買収のためのM&Aをする場合に、検討されるクロスボーダーM&Aである。

Out-In型M&A

二つ目は、海外企業が日本の企業を買収する「Out-In型」のM&Aだ。代表的な事例は、鴻海がシャープを買収したクロスボーダーM&Aである。自身が日本企業の経営者で、企業本体や子会社の売却を考えているのであれば、Out-In型のM&Aは検討に値する方法である。

Out-Out型M&A

最後に紹介するのが、Out-Out型のM&Aだ。これは、海外の企業が海外の企業を買収するM&Aを指す。ソフトバンクの関連会社スプリントとTモバイルの合併などが、事例としてあげられるだろう。Out-Out型のM&Aは、日本の企業にはほとんど縁のない話かもしれないが、例えば海外子会社を使ったM&Aをする際は、このスキームを検討することになる。

クロスボーダーM&Aの特徴

クロスボーダーM&Aには、通常のM&Aとは異なる特徴がある。

手法が複雑化するケースが多い

海外の国の多くは、資本規制など、国外の企業に対して何らかの規制を行っていることが多い。そのため、三角合併を使うなど、取引そのものが長期化及び複雑化するケースも多い。最後までやりきる実行力が、日本企業のM&Aに比べても必要となってくるのだ。

検討すべきリスクが多い

また、クロスボーダーM&A で検討すべきなのは、その手法だけではない。例えば、文化の違いやカントリーリスク、訴訟リスク、環境リスク等の問題も、日本以上にセンシティブに対応しなければならない。このため、クロスボーダーM&A では、買収を行ってから軌道に乗せるまでに時間がかかるケースもあるだろう。

このように、クロスボーダーでのM&Aは、日本でのM&A以上に買収そのものに対して労力がかかるケースがほとんどだ。逆にいえば、こういったことを乗り越えられれば、企業としてより高いレベルに成長できるとも言えるだろう。

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増えている日本企業の海外M&A

今、多くの企業が海外への投資に積極的に取り組んでいる。実際、海外直接投資は2000年ごろから増加を続けており、2000年には約300億ドルだったのが、2018年には約1,600億ドルと、5倍くらいにまで増加している状況だ。特に、アジア圏への投資額が増加しており、2000年には20億ドルだったのが、2018年には500億ドルを超えている。このことから、多くの企業が日本の外に成長機会を求め、積極的に投資を行っている状況だといえるだろう。

直接投資には主に2種類あり、海外に新しく法人を設立する「グリーンフィールド投資」と、海外の企業に資本を入れて子会社化する「クロスボーダーM&A」がある。このうちグリーンフィールド投資については、ここ10年、金額、件数ともに横ばいで推移しているが、クロスボーダーM&Aは右肩上がりに成長が続いている状況だ。グリーンフィールド投資が1から事業を始めなければならないのに対し、クロスボーダーM&Aはすでに基盤がある企業を買収するため、短期間で成果を出せる。これが、クロスボーダーM&Aが増加要因といえるだろう。

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中小企業も海外M&Aに積極的?

クロスボーダーM&Aでいうと、ここ数年は大型の買収案件が目立っていた。武田薬品がシャイアーを約6.2兆円で買収し、JTがギャラハー社を約1.8兆円、サントリーがビーム社を約1.7兆円で買収したニュースは聞き覚えがある人も多いだろう。また、ソフトバンク社のARM社買収も記憶に新しい。このように、近年見られる象徴的なクロスボーダーM&Aは、金額が大きい大手企業によるものが中心のように思われる。

しかし、実際のところを見てみると、必ずしも大きい案件ばかりではないのだ。1件あたりのM&Aの金額は、2003年には約10億ドルだったものが年々減少しており、2016年には1件あたり3~4億ドルまで減少している。また、買い手の規模を見てみても、東証上場企業のみのデータで売上高 500 億円未満の企業の海外 M&Aの件数は、2013年の32件から2017年には74件に倍増している。さらに、案件全体に占める割合も、全体の約1割から約2割に増加するなど、規模が小さい企業のクロスボーダーM&Aのプレゼンスが上がっているといえるだろう。実際、非上場企業を含めても、中堅・中小企業のクロスボーダーM&Aが旺盛に行われていることが推察される。

海外M&Aが増えている3つの理由とは?

では、なぜ、クロスボーダーM&Aが増えているのだろうか。主な理由は以下の通りだ。

1. 魅力ある海外の高い成長率

まずは、やはり海外の成長率が高いことが魅力のひとつといえるだろう。現実問題として、日本は今後、人口の減少が予想されている。成長率はOECD平均と比べても低く、投資対象の魅力度は決して大きいとはいえない。

一方、海外に目を向けてみると、アジア諸国やアフリカなどを中心に現在もなお高い成長を続けており、今後も人口の増加などで大きな成長が期待できる国が多い。そういった国に投資を行うことで、将来的に高いリターンを得ることができるのは大きなメリットであると考える経営者が増えている。

2. 1から立ち上げなくてよいという安心感

2つめは、クロスボーダーM&Aはグリーンフィールド投資に比べて、成果が出るスピードが速いことにメリットを感じている経営者が多い点が挙げられる。グリーンフィールド投資の場合、1から立ち上げ、リソースを確保しながら事業展開をする必要がある。また、国や産業によっては外資に規制がかけられていることも多く、100%独資で出資するのは、特に新興国においては難しい側面もあるのだ。特定の産業の場合は政府の許認可などが必要になるケースも多いが、グリーンフィールド投資ではこの許認可を1から得ることが必要なのに対し、M&Aを利用した場合はすでに許認可がある状態でビジネスを行うことも可能になる。さらには、既存の企業を買収すれば、その企業が持つネットワークやリソースをそのまま活用できるのだ。確実で素早くリターンを上げるためにクロスボーダーM&Aを選択するケースは、今後も増えていくだろう。

3. 海外M&Aに対する知見が高まりつつある

最後の理由として、クロスボーダーM&Aの案件そのものが増えてきたことで、クロスボーダーM&Aに関する知見が高まっているため、以前よりもクロスボーダーM&Aが容易に行えることも考えられるだろう。

そもそも、M&Aというのは簡単に見えて非常に難しいことが多い。どういった企業を買収すべきかというM&A戦略の策定から、正しい企業価値の算定、企業価値が正しいかどうかの評価、買収交渉、買収資金の調達、そして買収後のPMIに至るまで、多くの専門家が関与する業務になる。そのため、クロスボーダーM&Aを行える人材は、そう多くはないのだ。しかし、クロスボーダーM&Aの件数が全体として増加することで知見が高まり、その結果、クロスボーダーM&Aが過去に比べて行いやすくなりつつある。今後も、全体的にクロスボーダーM&Aの知見が高まることで、さらにクロスボーダーM&Aの件数が増えていくことが予想される。

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中小企業におけるクロスボーダーM&Aのメリットとは?

では、実際に中堅・中小企業がクロスボーダーM&Aを行う際に、どのようなポイントに気を配ればいいのか、具体的なポイントを解説する。

まず、クロスボーダーM&Aを行うメリット・デメリットを整理しよう。今回は特に「中堅・中小企業がクロスボーダーM&Aを行う」という点にフォーカスして整理したい。

上記でも述べたように、1番のメリットは「海外には多くの成長機会がある」ことだ。特に今、日本企業のM&Aが増えているアジアの場合、今後の大きな人口成長、経済成長が期待できることが多い。経営者としては、より投資効率が高いところ、より将来の企業価値を高めるところに投資すべきであり、その観点から見ると、日本に比べ海外に投資するほうが、メリットが大きいと感じられるだろう。

また、M&Aを行うことで「時間を買う」といったメリットもある。中小企業の場合、海外市場に打って出ようとしても、それほど大きなリソースがあるわけではなく、人材の発見、現地でのコネクション作りなどで、大企業に比べて劣後する可能性も考えられる。一方で、M&Aを活用した場合、お金はかかるものの、そういったリソースの開発を大きく短縮することができるのだ。1から海外で拠点を作り、ビジネスをしようとすると、どうしても大企業優位になってしまうことは否めない。しかし、M&Aであれば、大企業にも負けないスピードで海外事業を立ち上げることも可能だ。

さらに、中小企業ならではのメリットとして、「M&Aの場合は損失が限定的である」という点も挙げられる。1から事業を立ち上げる場合、事業の立ち上げまでにかかる経費や時間などは、海外である分、見通しが立てづらく、もし事業がうまくいかない、または出遅れてしまった場合は損失が拡大する可能性がある。一方、M&Aでは、最初に投資さえしてしまえば追加での投資や資金援助をしない限り、損失は限定的に抑えられるといえるだろう。資金が決して潤沢とはいえない中小企業にとって、赤字幅の見通しが立たないということは、大きなリスクになるはずだ。そのリスクを限定的にできるという観点で見ても、クロスボーダーM&Aはむしろ中小企業に有効な手段であると考えられる。

クロスボーダーM&Aのデメリットとは?日本企業がなぜ海外M&Aに失敗するのか

しかし、もちろんデメリットも存在する。1番のデメリットは、現地での経営管理、ガバナンスの難しさだ。1から事業を立ち上げる場合は、ある程度自分たちの思い通りにビジネスを動かすことができる。しかしながら、M&Aの場合、すでに事業として動いているものを買うため、買収した企業の中にすでに経営方針やルールがあることが多いだろう。そのルールが自分たちの会社と合わないことで、思い通りに経営が進まないこともあるかもしれない。大企業の場合は人員を派遣することで経営のコントロールを行うことが可能かもしれないが、中堅・中小企業の場合はそもそも人員を送り込むことが困難であり、現地のガバナンスが利かないといったケースも想定できる。「買収したのはいいものの、経営管理がうまくいかない」という事態にならないように、きちんと対策をとる必要があるだろう。

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クロスボーダーM&Aを行う際の3つの注意点

では、実際、どのような点に注意をしてクロスボーダーM&Aを進めていけばよいのだろうか。特に、中堅・中小企業が陥りやすいポイントを出してみよう。

1.経営戦略や自社の目指す方向に合致しているか見極める

まず、最も注意したいのが「本当にクロスボーダーM&Aを進めるかどうか」ということだ。余剰資金が生まれ、大きな成長機会を見つけるために、クロスボーダーM&Aを進めたくなる気持ちは理解できる。しかし、それが経営戦略や自社の目指す方向に合致しているかどうかについては、よく検討すべきだ。クロスボーダーM&Aは、国内のM&Aに比べても多大なるコストと手間がかかることが多い。また、成功するかどうかについての確実性も、決して高くはないだろう。そのため、クロスボーダーM&Aを行うことは、本来であればより慎重に検討を重ねるべきなのだ。安易な紹介などの案件で進めるのではなく、本当に必要なM&Aかどうかをよく検討してほしい。

2.現地の法制度や規制がないかチェックする

次に注意したいのは、現地の法制度や規制などだ。日本企業である以上、日本の商慣習や法制度に則って経営をしている。しかし、海外では、日本の常識やルールがまったく通用しないというケースも多々あるのだ。

その最たるものが、外資規制といえる。例えば、代表的なところでいうと、インドでは小売業に対する外資規制があり、小売企業に外資が入ることが許されていなかった。このように、多くの国が自国の産業を保護するために、さまざまな規制を引いていたり、国ではなく州単位で規制していたりする国もある。このような規制をきちんと理解せずに投資を行おうとすると、処罰の対象になったり、思い描くような買収ができなかったりする。制度については、事前によく調べておくべきだろう。

3.実態に見合わない価格で購入しないようにする

また、「高値掴み」にも注意したい。M&Aにおける失敗の要因の多くは「企業の実態をよく把握できず、高値掴みしてしまった」というものだ。実際、クロスボーダー案件にかかわらず、M&Aにおける価格の算定は非常に難しいケースが多い。決算書に載らないような債務があったり、交渉の途中で価格が上がったりしてしまうようなケースもある。特に、クロスボーダーの場合、情報不足によりデューデリジェンスを行っても正しい企業価値が算定できるとは限らない。また、為替によっても買収価格が変わってくる。M&Aを始めると「買収しなければいけない」と思ってしまいがちだが、焦って高値掴みをすることがないよう、慎重に価格を判断すべきだろう。

最後に注意したいのが「統合後」だ。M&Aは買ったら終わりではなく、買った後のPMIまで含めて考えることが重要だ。人材の流出や、ガバナンスの低下などにも注意する必要がある。M&Aを検討する際には魅力的だった会社がM&A後に魅力のない会社に変わらないよう、慎重に注意深く進める必要があるだろう。

クロスボーダーM&Aの具体的な進め方は?

では、クロスボーダーを実際に推進するにあたり、どのように進めればよいのだろうか。大まかには、以下のステップを踏むことになる

1. M&A実施の検討

まずは、クロスボーダーM&Aを実施すべきかどうかの検討だ。先ほども述べたように、クロスボーダーM&Aは、魅力的に見える一方、リスクや注意すべきポイントも大きい。また、必ずしも成功が約束されているわけでもない。そのため、「本当にM&Aを行うべきか」「どれくらいまでならリスクに対応できるか」「そのM&Aは自社の戦略に合致しているか」などの検討を行う必要がある。

2. M&Aチームの立ち上げ、準備

M&Aを行うことが決まったら、専門家を含めたチームを作るべきだろう。M&Aは短期間で検討を行い、実施するほうが望ましい。また、クロスボーダーM&Aには迅速な意思決定が欠かせないため、必ず経営者がTOPに立ち、重要な判断を下すべきだ。

3. 価格の算定、交渉

実際にM&Aが始まったら、買収価格を売り手側と合意する必要がある。買収価格を算定するためにデューデリジェンスを行ったり、価格以外に経営陣の処遇や従業員の処遇などについても合意を行ったりすることが求められる。クロスボーダーM&Aの場合、1つでも抜け漏れがあると、それでM&A自体が失敗に傾くケースも少なくない。迅速な意思決定が必要な中ではあるものの、しっかりと時間とリソースをかけて、抜け漏れがないように交渉することが重要だ。

4. 買収後の経営

無事に買収が終わったとしても、それでM&Aが終わったわけではない。買収後の企業をしっかり管理、運営し、利益を出して初めてM&Aの成功であるといえるだろう。

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海外企業のクロスボーダーM&A事情

ここでは、過去に行われたクロスボーダーM&Aの主な事例を紹介する。

成功事例1:サントリーのビーム買収

まず、日本企業のクロスボーダーM&Aの成功事例としてよく挙がるのは、サントリーのビーム社買収ではないだろうか。買収金額約1兆6,000億円という金額の大きさは、M&Aに携わる人以外にも多く知られるニュースとなった。

サントリーは、それまでは世界10位の中堅酒造メーカーであったが、ビーム社の買収により、メーカーズマークやジム・ビームといった銘柄をポートフォリオに加えることとなり、蒸留酒で世界3位に躍り出ることができた。

また、ウイスキーの5大産地すべてに工場を持つ、世界唯一の企業になったのだ。2019年には日米合作の「リージェント」を販売するなど、世界でのプレゼンスも向上している。金額的にも「社運を賭けた」M&Aだったが、基本的には成功だったと言えるのではないだろうか。

成功事例2:ソフトバンクのアリババへの出資

M&Aという切り口ではあまり語られないが、ソフトバンクのアリババへの出資も、広義で言えばクロスボーダーM&Aの1つだと言えるだろう。ソフトバンクは、2000年にアリババに20億円出資している。2020年には、ソフトバンクが保有するアリババの資産価値は、15兆円近くとなっており、1,000倍以上のリターンを得ているのだ。

ソフトバンクグループといえば、WeWorkやソフトバンク・ビジョン・ファンドの問題が騒がれているが、他にもスプリントの買収など大型買収を何件も手掛けている。もちろん第二、第三のアリババを探すのは難しいかもしれないが、投資した1社が大きく成長することで、会社全体に大きく貢献した事例と言えるだろう。

失敗事例:丸紅のガビロン買収

クロスボーダーM&Aの失敗例としてよく知られているのは、丸紅のガビロン買収だ。

ガビロンは米国の穀物メーカーで、丸紅が2013年に約2,900億円で買収した企業だ。丸紅は、このガビロン買収によって、穀物メジャーに対抗できる商社への転換をもくろんでいた。

しかし、結果は散々たるものだった。当初計画していた中国での販売が、当局の意向もあって不振に終わるなどし、2015年には1,200億円もの減損を発表。2019年には、ガビロンを売却する動きを見せるなど、結局ガビロン買収は高いコストを支払っただけにすぎなかったのだ。

このように、クロスボーダーM&Aによる当初の目論みが、政治的要因やカントリーリスクなどで絵に描いた餅に終わってしまい、買収の意味がなかったというケースも存在する。丸紅によるガビロン買収は、まさにクロスボーダーM&A失敗の象徴的事例と言ってよいだろう。

売却先に海外企業を選ぶ、という選択肢も

これまで買い手としてのクロスボーダーM&Aについて解説してきたが、もしあなたが会社・事業の売却を考えている場合、売却先に海外企業を選ぶという選択肢を持ってもいいかもしれない。

海外企業が日本企業を買収するOut-In型のM&Aは、件数の増加こそ多くないものの、毎年確実に行われている案件だ。海外企業にとっては日本市場はいまだ大きく、また、日本の持つ技術力に期待している海外企業も多い。

特に、昨今の円安を受けて海外からの投資がしやすい状況にある現在、日本企業は海外から見ると割安に見えることも多く、より高い値段で売却することが可能かもしれない。海外企業の買収と同様に、海外企業に事業を売却するという選択肢を持っていても損はないだろう。

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クロスボーダーM&Aを行う際は、まずは専門家に相談を

クロスボーダーM&Aは、海外の成長を取り込むという点で非常に魅力的であるといえる。また、1から立ち上げるのとは異なり、既存のリソースを活用できる点、投資資金がある程度クリアになるという点で中堅・中小企業にとってもメリットが大きい。しかし、海外という観点から情報がとりづらく、リスクが大きいことも事実だ。もし、あなたの会社がクロスボーダーM&Aを行いたいと検討している場合は、闇雲に進めるのではなく、まずは信頼できる専門家に相談することをお勧めしたい。

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