不況による販売不振や、世界規模の経営危機などによって経営が傾き破綻に至ってしまった場合、企業はどのような手段で再生を図ればいいのだろうか。本記事では、具体的な手法としての「私的再生」「法的再生」を取り上げ、過去に国内外で起きた企業破綻とその後の再生についての事例も紹介しつつ解説する。
目次
実は、意外な著名企業も経営破綻の憂き目に!
企業の使命は利潤を追求することにあるが、それは何より、法人として存続するために不可欠だからだ。しかしながら、現実にはそれを果たせずに経営難に陥り、ついには破綻にまで追い込まれてしまうケースが少なくない。
2010年、JALが会社更生法を申請
しかも、著名な大手企業でさえもその憂き目に遭う可能性がある。たとえば、2010年1月にJAL(日本航空)が東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請して事実上の経営破綻となったことは比較的よく知られていることだろう。
同社は経営再建を進め、会社更生法の適用に伴う法人税の減免措置が2019年3月期でようやく終了した。2020年3月期からは、通常の会社と同様の税率となる法人税が課されることになり、ほぼ再建を果たしたと言えよう。
タカタ、京樽、そごう、ハウステンボス、吉野家HDなども
また、直近の例ではエアバッグのタカタが大規模な欠陥製品発生で経営に行き詰まり、2017年6月に民事再生法の適用を申請し、やはり事実上の倒産となった。もっと古い例を挙げれば、持ち帰り寿司の京樽が1997年1月に会社更生法、百貨店のそごうが2000年7月に民事再生法、長崎のハウステンボスが2003年2月に会社更生法の適用を申請し、それぞれ倒産している。
さらに、もはや今となっては意外と知られていないのが、大手牛丼チェーンを運営する吉野家ホールディングスの経営破綻だろう。1980年7月に同社は会社更生法を申請し、セゾングループの援助を受けながら再建を図った。そして、1987年には債務をすべて弁済して財務を健全化。そればかりか、前述したように京樽が破綻した際には再建支援に乗り出し、現在は持ち株会社の傘下に収めている。
必ずしも「経営破綻=ゲームオーバー」にあらず
ひょっとしたら多くの人は、「経営破綻=ゲームオーバー(万事休す)」というイメージを抱いているのではないだろうか? だが、先述した著名企業が現存しているように、経営破綻しても再起できるケースはけっして少なくない。
法人として存続できずに企業の歴史が途絶えてしまうのは、「清算」という手続きを行った場合に限られているのだ。そして、詳しくは後述するが、この「清算」には「破産」と「特別清算」という2つの選択肢がある。
これに対し、再建(企業再生)のための手段にも「私的再生」と「法的再生」という2つ選択肢が用意されている。さらに言えば、「法的再生」には、先程の実例にも出てきた民事再生法や会社更生法とともに、特定調停の申請という手段を選べる。
それぞれが具体的にどのような手続きで、どういったメリットやデメリットがあるのかについて、詳しく検証していくことにしよう。
企業再生には、「私的再生」と「法的再生」がある
まずは、企業が再生を果たすための方法から見ていきたい。企業再生には、「私的再生」と「法的再生」という2つの道がある。企業が経営難に追い込まれると、取引先への支払いが滞ったり、借入金の返済が遅れたりしがちで、経営陣と債権者の間で支払いを巡って話が紛糾するケースが多い。
「私的整理」は、当事者(債権者と経営陣)の間でこうした債務をどのように処理するくのかについて協議し、再生をめざしていくというものだ。一方、裁判所が債権者と経営陣の間に入り、その監督を受けながら債務整理を進めるのが「法的整理」である。
どちらにしても、経営が破綻して弁済に支障を来しているのだから、債権者としても「耳をそろえて支払え!」という要望を押し通すのは困難な可能性が高い。したがって、返済期間の猶予や適用金利の引き下げ、元本返還の一部免除などといった譲歩策が検討されることになる。
こうして資金繰りの悪化を緩和したうえで、その企業の構造改革(経営の合理化やコストカットの徹底)を進めて再生をめざしていくわけだ。
「私的再生」のメリットとデメリットとは?
「私的再建」のメリットは、内々(当事者の間)で粛々と手続きを進められることだ。大手企業の場合はそれでもニュースなどで報じられてしまう可能性があるものの、世間にさほど知られていない存在であれば、経営破綻や経営危機に至っているという事実が明るみにならずにすむケースも出てくる。
その点、会社更生法や民事再生法に基づく「法的整理」の場合はすべての債権者に対して裁判所からその通知が送られてくるし、マスコミでも報道されて世間に周知されやすい。それに伴って、社会的な信用が低下してしまうのは避けがたいだろう。
加えて、裁判所が介在する「法的整理」は手続きが煩雑で相応の時間も要するが、「私的整理」は当事者間で話がまとまれば、迅速に手続きを進められる。だが、実はこのメリットには、「あくまで話がまとまれば……」とのただし書きがつく。
なぜなら、「私的再生」ではそれぞれの債権者の合意を得ることが前提となっており、一人でも反対者が出れば交渉が成立しないケースもあるからだ。しかも、債権者が「抵当権の実行」による債権回収のような法的措置に踏み切った場合、経営陣がその対抗策を打てないことも「私的整理」のデメリットと言える。
・2009年にアイフルが事業再生ADR
「私的整理」という手段を選んだ具体例として挙げられるのがアイフルだ。かつて消費者金融業界は多重債務者問題が深刻化したことを受けて厳格化された改正貸金業法が施行されたことから、急激な経営難に苦しめられた。
利息制限法の適用を厳格化したことで、過去に融資を受けた利用者たちの間で、払いすぎた利息分を遡って請求できる「過払い金請求」の動きが活発化したのだ。アイフルも深刻な経営難に陥り、2009年12月に「私的整理」の一種である「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続き)」に関して、65社すべての金融機関から同意が得られた。
同社がADRを申請したのは前年の9月。その成立には債権者集会ですべての金融機関から賛同を得ることが不可欠で、ADRの対象となる債権残高は約2,800億円だった。
「法的再生」は「清算」と「再建」の二者択一
「法的再生」のメリットは「私的整理」と対照的に、債務の整理方法に関して反対する債権者が出てきても、多数決で話を前進させられることだ。その一方で、先に述べたように民事再生法や会社更生法の適用を申請すると経営破綻に至っているという事実が世の中に広く知れ渡りやすいのが難点と言えよう。
もう一つ、「再生」という言葉を用いていることから誤解が生じやすいのだが、「法的再生」には「清算」と「再建」という2つの選択肢がある。「清算」とは、企業が組織を解散して保有資産を売却したり、債権回収を行ったりして、可能な限り債務を弁済すること意味している。
つまり、企業は存続しないわけだ。債務免除などの支援策を受けても再生は不可能だと判断に至れば、おのずと選択肢は「清算」だけに絞られてくる。
ただし、「清算」の手続きを選択した場合でも、他社に事業譲渡を行うことでそのビジネスを存続させることは可能だ。たとえば、複数の飲食店ブランドを展開するグローバルダイニングの子会社だったグローバルダイニングマカオリミテッドはリーマンショック(2008年9月)後の世界的な低迷から経営が悪化し、2010年6月に解散と清算の手続きを進めることを決めた。
だが、マカオ特別行政区で同社が運営していたラグジュアリー複合飲食施設「フードコロシアム マカオ」については、同地区でインテグレートリゾートを展開する大手であるMelco Crown(COD)Hotels Limitedからの申し出に応じ、事業の営業権を譲渡した。また、倒産までに至らずとも、東芝のように経営難に陥った企業が一部の事業の営業権を譲渡するケースも増えている。
「清算」には「破産」と「特別清算」がある
解散に伴い、保有資産の売却や債権の回収などで債務をすべて弁済できれば、当然ながら債権者から不満が出ない。特に揉めることなく粛々と手続きが進められ、裁判所が介在する必要もなく、このパターンを「通常清算」と呼んでいる。
こうして完済できない場合には、「破産」か「特別清算」のいずれかを選択することになる。前者は、破産法という法律に基づいて裁判所に「破産の申立て」という手続きを行い、その監督下において「清算」を進めていくものだ。
「破産」を選ぶと、裁判所が「破産管財人」を選任する。そして、「破産管財人」が保有資産の現金化や債権者への分配などといった作業を担当することになる。
これに対し、会社法という法律に沿って手続きが行われるのが「特別清算」で、その適用は株式会社のみで、合同会社や合資会社、会社以外の法人格、個人は対象外だ。裁判所に「特別清算」の申立てを行い、その監督下で手続きが進められる。
「破産」における「破産管財人」には、債務者と利害関係のない第三者(実務的に弁護士に限定されるのが現実)が選ばれる。ところが、「特別清算」において裁判所が選任する「特別清算人」には、経営破綻に至っている企業の代表取締役が就任するケースが少なくない。
「破産」の場合は「破産管財人」が自らの判断で資産の売却や配分などを決められるのに対し、「特別清算」における「特別清算人」にはそういった権限がなく、債権者の同意を必要とするケースもある。こうした違いから、「特別清算」よりも「破産」を選ぶ企業のほうが多いようだ。
法的に再生を進める際には3つの選択肢がある
「法的再生」については、①民事再生法の適用、②会社更生法の適用、③特定調停のいずれかを申請するという手段が設けられていることは前述した通りだ。では、これらにはどのような違いがあるのだろうか?
メリットやデメリットが異なるからこそ、それぞれの企業で選択が違ってきているのだろう。次に、それぞれの仕組みや特徴について比較してみたい。
民事再生法による再生のメリットとデメリットとは?
民事再生とは、かつての「和議」に変わる再生手段として、2000年4月の民事再生法施行によって適用可能となったものだ。裁判所の監督下で再生のための手続きが進められ、債権者の同意を得られれば債務を大幅に減らすことが可能である。
株主の権利も守られるが、債権者が担保権の行使に踏み切る可能性があるのは難点と言えよう。法人のみならず、個人もその適用対象となるのも特色だ。
経営陣にとって民事再生の最大のメリットは、退陣を迫られることなく続投が可能なことだろう。欠陥エアバッグ問題が致命傷となって経営破綻したタカタもこの道を選んだ。
同社はエアバッグ部品の製造・販売を除く事業と資産を米自動車部品会社に譲渡し、その差額を弁済原資とした模様だ。ただ、巨額のリコール(無料の回収・修理)費用で実質債務超過に陥っており、株価はそれを反映して超低位の水準まで売り叩かれた。
2018年3月までに中国企業傘下の米自動車部品会社キー・セイフティー・システムズ(KSS)に全事業を譲渡し、同年4月からジョイソン・セイフティ・システムズが発足している。結局のところは、他社へタスキをつないでの事業存続となったわけである。
会社更生法による再生のメリットとデメリットとは?
会社更生法に基づく企業再生は、そのシナリオに反対する債権者が存在したとしても、多数決で可決すれば前進するという点では民事再生法適用のケースと同様だ。明確な違いは、担保権や優先債権を有する債権者に対しても、多数決を前提にそれらの権限発動を拘束しながら再生再建計画を前進できるというメリットがあることだ。
ただし、その代償として旧経営陣は退陣を余儀なくされる。また、裁判所に多額の予納金を納める必要が生じることも留意すべきだろう。会社更生法が適用されると、裁判所が選任した「更生管財人」が作成した更生計画が実行されるが、株主の権利は喪失することにもなり、その点は彼らにとってけっして看過できないポイントだろう。
冒頭で触れたJALのケースも然りで、同社の株主たちは煮え湯を飲まされた恰好だ。同社の負債総額は2兆3,221億円に達し、2010年2月には京セラ創業者の稲盛和夫氏が会長に就任し、再建策を主導することとなった。
その後はV字回復を遂げて株式の再上場を果たしたとはいえ、旧株主には許しがたかった状況であろう。なお、会社更生法が適用されると債権者は担保権の実行を行使できなくなるが、再生計画の可決を巡っては債権者、担保を有している者、株主それぞれの同意が求められる(民事再生は債権者のみの同意で可)。
特定調停による再生のメリットとデメリットとは?
法的な企業再生の道筋として「特定調停」という手段もあると説明したが、これを選択するケースはそう多くない模様である。「特定調停」とは、債務を返せなくなった経営者が申し立てることで、簡易裁判所が債権者との話し合いを仲裁し、条件の見直しに関して合意が成立するように促すものだ。
よく似た制度に「任意整理」と呼ばれるものがあるが、こちらは弁護士が仲裁役となる。「特定調停」のメリットは、弁護士に依頼しないで自力で手続きを進めるため、着手金や成功報酬などのコストを抑えられることにある。
調停委員会が取り仕切るので、法律のことがよくわからなくても手続きは進められる。ただ、書類の作成が煩雑であることも確かで、手続きに時間を要していると、その間は債権者からの督促が続くことになる。
弁護士が間に入った時点で債権者からの催促が止まる「任意整理」と比べれば、「特定調停」のデメリットの一つだと言えよう。また、「特定調停」の成立に伴って調停調書が作成されるが、その内容に沿った返済が不可能となった場合も要注意だ。
なぜなら、調停調書に基づいて債権者が所得の差押えなどといった強制執行を行えるからだ。法律のシロウトが自力だけで手続きを行うと、こうした落とし穴も見逃しがちである。
破綻を避けるために、日頃から心掛けるべきこと
どのようなビジネスにも好不調はつきものであるし、経営破綻まで追いつめられても再生の手段がいくつか用意されていることは、ここまで触れてきた通りだ。とはいえ、リカバリーを果たすまではイバラの道が続くのも現実であろう。
日本では、多くの企業経営者が「無借金経営」が最善と思い込みがちだが、リーマンショックのようなパニックは突然訪れる。そういった際に、まったく付き合いのなかった金融機関に融資を申し込んでも、首を縦に振ってもらえる可能性は低いだろう。
それほど資金に窮していなくてもあえて融資を受け、きちんと返済できる取引先であるとの信用を日頃から蓄積しておくことのほうが得策と言える。こうしてメインバンクと良好な関係を築いておけば、経営破綻のリスクもおのずと低くなってこよう。
困ってから初めて泣きつくのではなく、「転ばぬ先の杖」として、金融機関とのパイプを意識的に太くしておくわけだ。こうしたことも、経営者に求められている技量の一つである。
文・大西洋平(ジャーナリスト)