三菱食品 執行役員フードサービス本部長・佐藤達也氏
(画像=三菱食品 執行役員フードサービス本部長・佐藤達也氏)

――足元での環境変化、外食業界全体の見通しについて

2022年3月の中旬以降コロナ禍が一段落したとはいえ、4月~5月の業務用食品マーケットは平常年の需要までには戻りきれず、マーケットの回復には相当の時間を要するものと想定している。

チェーンとSMB(中小飲食店:Small to Medium Business)を比較するとSMBの方が需要の戻りが早いと感じている。大手チェーンはこの2年で相当数の店舗をスクラップしており、2022年度の新規出店計画については勇ましい数字を耳にしているが、22年度上半期の売上は19年比80%を割り込むのでは無いか。

一方で食品原料の高騰は留まることを知らず、各メーカーから業務用製品の値上げの申出を断続的に受けている状況だ。4月段階の感触としては全取扱製品の20%前後の値上げが完了し、秋口に向けては70%前後の製品が値上げになるものと想定している。

今回の値上げ製品の量と価格の上昇幅は外食ユーザーの企業努力によって吸収できるものではなく、メニューの単価への転嫁は必至であり、低価格を売りにしていた外食ユーザーは戦略の転換を余儀なくされる事になると想定している。

また、もう一つの課題は働き手不足である。外食事業に従事していた多くのアルバイト社員やパート社員はCVS(コンビニエンスストア)業態やスーパーマーケット業界へ流出し、食べ物の取扱いや衛生面の基礎的な知識がある貴重な人材として重宝されたと聞いている。

働き手不足の問題は2008年のリーマンショックの前後から顕在化してきたが、コロナにより加速した課題と言って良い。各都道府県の最低賃金周辺でアルバイトを集めていた時代は終焉し、相応の人件費を提示しなければ外食業界に働き手は戻ってこなくなってしまった。

あるホテルの経営者に聞いた話では、2021年末に相当数の離職者が出たということなのだが、ショックなのは離職者の多さではなく、離職者全員がホテル業界から離れたということだった。ホテルの仕事に憧れて入ってきた社員がホテルという業種自体から離れる事に心の底から寂しさを感じているという話だった。ホテルも外食マーケットの一翼を担う重要な消費場所であり、この話は外食業界全体の課題と捉えるべきだ。

業態開発やメニュー開発、マーケティング施策等、需要創造の手を打つことと併せて、働き手にとって魅力のある職場・業界に戻す為の努力が必要と考える。

――外食の食事提供手段の多様化について

コロナ禍に入ってフードデリバリー会社(FD)が急激に数を増やしたが、現段階で全国に60社程度のFDが存在しており、2021年以降は競争の激化によって合従連衡の機運が高まるほど、一つの業界として認識が為された。

FDは食事の提供手段の多様性を生み、外食の内食化という新たなライフスタイルを定着させたが、その実態は様々なイノベーションが積み重なって出来ている。地図データを高度活用し「生活者」「配送者」「飲食店」を瞬時に繋ぐ技術だけでなく、ネット上で「生活者」のポータルポジションを取り、大手EC事業者にも似た「外食ブランド」のショッピングモールを形成した。

課金の仕組みも「生活者」「飲食店」双方から得るというビジネスモデルが、コロナ禍のタイミングで何ら違和感なく受け入れられ、物流というリアルでフィジカルな機能とデジタルを融合した、新たな流通インフラが誕生したといってよいのではないか。

また、このインフラを活用したゴーストレストラン(GR)業界も活況を呈している。弊社が認識しているだけで、都内の飲食店の5千~1万店近くがGRに加入しており、GR運営会社も都内で20社程度になっていると思われる。

コロナ禍が始まった当初、客数が減った「飲食店」はテイクアウトのメニューを強化し店内飲食以外の収入獲得に向け努力をしていたが、いかんせん自店のホームページやSNS等のマーケティング施策を充実・強化しても簡単にテイクアウト需要が伸びないことを、身をもって経験した。そこに登場したのがGRである。

〈フードデリバリー、ゴーストレストランで外食提供手段が多様化〉
GRの本部はFD業者のサイト上に、仮想の飲食ブランド(例:インドカレー専門店 ネパール)を出店することを前提に「飲食店」に対しその飲食ブランドへの参加・加盟を呼び掛ける。

仕組みは殆どのGRがフランチャイズ型を採用しており、ブランド(例:ネパール)に加盟が決まれば、飲食店は一ブランド当たりの「加盟料」を本部に支払う。本部からはメニューレシピと原料調達手段(納入業者の指定、原料・資材の指定等)が提供され、システムの接続が終われば、あとはFDを介して消費者からの注文を待つだけである。

生活者は一度も店に訪問したことがない仮想ブランドであっても、FDの浸透によって気軽に注文するようになっており、まさか自宅近隣の居酒屋からネパールのカレーが出荷されているとは気が付かない。この仕組みにより「飲食店」は二毛作、三毛作を実現することが可能となり、「本部」はネット上の店舗開発・マーケティングと商品開発に注力する役割分担が機能することとなる。

現在では1店舗で複数の外食ブランドを手掛けることも多くなり、GRへの加盟店舗は更に拡大すると予測している。このように外食の食事提供手段は一挙に多様化し、生活者の食事の選択肢は大きく広がったが、コロナ後、飲食店に人が戻って来てもFD及びGRの需要が継続するのか注目をしていきたい。

――アフターコロナ、業務用卸の対応は

前述の通り、外食ユーザーは働き手不足により店内オペレーションの効率化を求められており、業務用卸はこの環境変化に即した対応が求められている。既に商品提案面では時短調理のニーズに応えるべく「下ごしらえ済み商品」や「キット商品」の提案、また、簡便調理品の提案等がスタンダード化しているが、今日は外食ユーザーの課題も解決しながら業務用卸のオペレーション自体を効率化させる取組を紹介したい。

秋口には食材・資材製品の値上げが出揃い、10月にはビール類の値上げも予定されていることを考えれば、それを受ける外食ユーザー側の負担も相当のものだが、業務用卸各社の業務ボリュームは想像を超えたものとなる。

各ユーザー向けの見積もり作成から、基幹システムの単価マスタの更新、外部発注システムを利用している場合は、外部システムの単価マスタの変更も必要(トリプルメンテナンスの問題)になり、これら業務はユーザーがチェーン企業であっても、中小飲食店であっても同じ工数がかかり、SMBを多数かかえる業務用卸には相当の負荷がかかることは想像に難くない。

また、この一連の業務が滞った場合、原価だけが上がりユーザーへの納入単価が上がらない不採算取引に陥るだろう。一方で、しっかりと説明し理解を得ない内に納品伝票の単価を上げるような事態となった場合、ユーザー側からの信頼を失い、取引自体の見直しを迫られることもあるだろう。SMBをターゲットにする卸では、どこまで丁寧に対応するのかが課題であり、値上げ業務をミスし商圏を失った話は枚挙にいとまがない。

弊社システムのコマーシャルになってしまうが、一つの事例としてお示ししたいのは、弊社で開発したスマホの発注システムだ。この仕組みは全国の業務用卸の皆様に導入が進んでおり、アクティブベースで1日約3万店の外食ユーザーが使用している。

スマホの特性であるポータビリティーにより、冷凍庫、冷蔵庫、常温のパントリー等に移動し、スマホに直接入力できる点、また、電車の中や自宅に持ち帰って発注ができる等、ユーザーにとっては使い勝手が良いことだけでなく、発注時間の削減に繋がっている事が普及してきた理由の一つと考えている。

一方で業務用卸側にも利点がある。このスマホ発注システムは業務用卸の基幹システムと簡易に連携が図れ、基幹システムの単価マスタをメンテナンスすれば、即時にスマホ発注システムの単価に連携する。また、品切れや品薄商品の代替品も画像付きで表現されるため、営業マンの代替え提案作業の業務工数と時間を相当に削減できる仕掛けになっており、1営業マン当たり200~500顧客を持つような業務用卸の皆様には大変好評だ。

また、見積もり作業やユーザーからの商品問合せ対応の効率化に向けてオリジナルのSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)を開発し、業務用卸の皆様に提供を開始した。細かな説明は省くが営業マンにモバイルのタブレットを持たせ、ユーザーの眼前で見積もり入力が可能だ。対象のユーザーが取扱っていない商品も簡単に検索することができるため、新規商品や代替品の見積もり提出も簡単だ。

〈業務用物流でドライアイス代替冷媒を導入、CO2を大幅削減〉 提出方法もシンプルでタブレットに入力した見積もりは即時に「見積書」としてPDF化され、その場でユーザーの担当者宛てメール送信が可能だ。併せてタブレットに入力した見積もりは基幹システムの単価マスタに即時に反映され、併せてスマホの発注システムにまでシームレスに連携する、つまり、見積もり入力=各種システムのマスタメンテナンスとなる(トリプルメンテナンスの解決)。これにより外出した営業マンが帰社しなくてもお客様の眼前で見積もり業務が完結することになる。

コマーシャルが少し長くなったが、要すれば業務用卸の業務プロセスに即したシステム構築ができれば、一営業マン当たり相当数のユーザーを抱えることができるということである。卸の基幹システムや周辺システムに求められる「売掛(受注)」「買掛(発注)」「在庫の受払」3つの要素を正確に運用していくことも重要だが、ビジネスプロセスを動画のように捉え、プロセス全体をデジタルに乗せる発想が必要だ。

これができれば「営業」「受発注」「倉庫・在庫管理」「経理」の各セクションで「時間」を創出することが可能となる。この「時間」を働き方改革に使うのも良し、新規事業の開発に使うのも良い。コロナで需要が下がったからといって、社員のリストラや顧客の絞り込み(顧客サービスの絞り込み)等、ディフェンシブな施策だけでは事業成長は望めないと考えている。

――業務用卸のSDGs、地方支援の取組

弊社は2022年3月に「サステナビリティ重点課題と2030年目標の見直し」についてリリースをしているが、業務用分野としては特にCO2の排出量を徹底的に削減したいと考えている。

業務用の物流センターは冷凍品・冷蔵品・常温品ともにバラ出庫する為、冷凍品は納品什器内にドライアイスを入れて保冷する運用がスタンダードとなっており、弊社業務用事業で運用している130の物流センターでも相当量のドライアイスを使用している。

ドライアイスはまさにCO2を個体にしたものであり、これを削減することがCO2削減に直結する為、2019年からドライアイスの代用となる「代替冷媒」の研究を進めた。しかし、ドライアイスと同等の保冷効果のある代替冷媒は中々発見できず1年が経過、20年に入り蓄冷材の中に急速凍結をすれば、ドライアイスと同等の保冷効果が出る製品を見つけ、約半年をかけて実証実験を繰り返し、2年がかりで蓄冷材の導入に漕ぎ着けた。

まずは2021年10月より首都圏の2センターから導入を開始、この2センターの取組では年間約50トンのCO2を削減できるとシミュレーションしており、この数字は日本人の500人が年間で排出するCO2の量に相当する。また、この代替冷媒の取組は急速凍結装置等の初期投資は必要だが、償却費の方がドライアイスのコストよりも圧倒的に安価の為、投資対効果も十分見込める。現在、この仕組みを弊社の各物流センターへ横展開することと併せて、業務用卸の皆様に紹介をする取組も開始している。

また、サステナビリティ重点課題の内、地域貢献に資する商品・サービスの創出という課題についても、積極的に取り組んでいる。対象の地域でしか手に入らない商品を業務用マーケットで販売すると言えば聞こえは良いが、スーパーマーケットのように「売場」を持たない業務用卸が自社の顧客に1品1品紹介していくことは大変パワーのかかることだ。そこで弊社では対象商品のミニカタログを作成し一挙に引き合いを取る取組を開始した。

直近では5月から五島列島の鮮魚の販売を開始、続いて東京の奥多摩町の産品である「奥多摩わさび」の販売を開始した。今後も地域産品紹介のボリュームを広げて行きたいと考えている。

お客様が欲しいという商品を調達する購買代理機能(御用聞き型)も重要だが、生産者の販売代理機能こそ、今後卸が求められる機能であり、SMBを多数持つ自販力のある卸こそが、食のサステナビリティに貢献できるものと考えている。弊社が表明しているパーパス(存在意義)は「食のビジネスを通じて持続可能な社会の実現に貢献する」であり、日本の外食産業の発展と地域貢献にその役割を果たしていきたい。

〈冷食日報2022年6月8日付〉