矢野経済研究所
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電池との併用での実績化こそ普及に向けた近道

~環境負荷低減やIoT機器の普及拡大を背景に、2030年のエネルギーハーベスティングデバイス世界出荷量は95億4,750万個へ成長予測~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、エネルギーハーベスティングデバイス世界市場を調査し、現状と今後の展望を明らかにした。

エネルギーハーベスティングデバイス市場規模推移・予測

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1.市場概況

エネルギーハーベスティング(環境発電)とは、周辺環境のわずかなエネルギー(振動や熱、光、風、電磁波など)を電力エネルギーに変換し発電する技術である。発電原理は昔から知られていたが、そうした微少な電力で動作するデバイス等の開発が進んだことで、実用化の道が開かれてきた。
エネルギーハーベスティングデバイスの現在までの状況を俯瞰してみる。2010年には日本でエネルギーハーベスティングコンソーシアムが立ち上がり、業界は活気づくこととなった。
その後、一時流行は落ち着いたものの、2014年頃に莫大な数のセンサーが使用される社会である「トリリオンセンサー」が提唱され、エネルギーハーベスティングデバイスはセンシング機能を兼ね備えた場合も多くあり、親和性が高いことからその電源供給手段の一つとして白羽の矢が立った。しかし、実際にはトリリオンセンサーの普及は進まず、センサー業界のトーンダウンと共にエネルギーハーベスティングの勢いも失われた。
2015年頃からは、「IoT」(Internet of Things)の盛り上がりと共に、エネルギーハーベスティングデバイスは再び電源供給手段の一つとして取り上げられている。トリリオンセンサーと異なり、従来センサーではなかった全てのモノがインターネット接続するため、系統電源などが無い場合でも重宝されるエネルギーハーベスティングデバイスとの相性が良いとされる。

エネルギーハーベスティングデバイスは発電方式により様々な特徴があり、使用環境や用途に合わせた細かい設定・制御が必要となるため、採用には作り込みが必要となる場合が多い。一方、稀に機構は複雑だが、温水便座のエコリモコンのようにボタンを押すだけ等といったシンプルな既製品として販売され続けている。特に電池を使用しないため、電池交換や廃棄が発生しないことや、配線が無いために装置設置や除去が簡単であることなどが採用の決め手となる場合が多い。

本調査におけるエネルギーハーベスティングデバイスとは、発電素子に加えて、認識(=センシング)や制御、通信それぞれの機能を持った、主にμW、mW レベルの発電を行うデバイスを対象とした。現在はIoT機器を中心に普及しており、2021年のエネルギーハーベスティングデバイス世界市場(メーカー出荷数量ベース)は5億8,520万個と推計した。

2.注目トピック

消費電力と可搬性がキーとなる電源選択

電子機器の使用には電源の確保が必須だが、電源の選択にあたり条件が発生する場合がある。基本的にはコンセントにプラグを差し込むだけで使用可能で、最も安価で安定した系統電源が選択されることになる。また、コンセントにプラグを差し込まない低消費電力の可搬機器には電池が使用されることとなる。
こうした電子機器の一部には、系統電源による無線給電が可能な仕様の機器が存在する。現在では一部のスマートフォンやウェアラブル機器に限定されるが、将来的にはドローンや電気自動車など電力消費が大きな機器にも使用されることが期待されている。

このように電子機器の電源選択がされる中で、エネルギーハーベスティングデバイスが採用される分野は、電池需要の一部または系統電源の一部だと考えられる。
電池の中でも特にエネルギーハーベスティングデバイスの代替可能性が高い一次電池は、微少電力から数Wまでがメインターゲットであり、小型携帯機器などに重宝されている。主な用途は各種リモコンや照明器具、玩具、時計、補聴器、ラジオ、雑貨、計測機器、一部のカメラ、IC レコーダー、電動歯ブラシ、電動シェーバー、インターホン、ドアチャイム、防犯カメラ、無線機器、美容機器、電子辞書、電卓など様々である。この中の一部分をエネルギーハーベスティングデバイスが代替していくこととなる。
また、系統電源の一部においても、ビルなどの既存設備に追加する機器の設置時に、追加の工事などが不要になるため採用されるケースや、新規設備設置時においても工期短縮などのメリットが大きいケースで採用されている。

3.将来展望

一般的に電源を確保する際、コストや信頼性などを優先して、電池を使用することで難しいことや複雑なことは全て排除したいというケースも存在する。また、コンセントにプラグを挿すことは安定した電源供給体制として長年採用され続けている方法である。そうした事例では、エネルギーハーベスティングデバイスを使用する意義や意味を見出せないことで採用されない場合も多い。
こうした事情もあり、エネルギーハーベスティングデバイスは、環境負荷低減を優先するユーザーなど、普遍的な電源供給方法と同等なプレゼンスを感じるユーザーにより採用されていくと考える。

上記の理由やIoT機器の普及拡大を背景に、2030年のエネルギーハーベスティングデバイス世界市場は95億4,750万個へ成長すると予測する。
なお、エネルギーハーベスティングデバイスは主に一次電池を代替した電源として普及するが、一次電池の販売・出荷状況からは新規デバイス向けか既存デバイスの買い替え需要かはわからないため、一次電池の市場推移から類推することは難しい。

調査要綱

1.調査期間: 2021年11月~2022年4月
2.調査対象: エネルギーハーベスティングデバイスメーカー及び関連組織等
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)
<エネルギーハーベスティングデバイス市場とは>
本調査におけるエネルギーハーベスティングデバイスとは、発電素子に加えて認識(=センシング)や制御、通信それぞれの機能を持った、主にμW、mW レベルの発電を行うデバイスを対象とし、メーカー出荷数量ベースで算出した。
また、採用用途に合わせて搭載される蓄電機能の有無は加味せず、発光や表示のみで通信機能が無いデバイスも、対象から除外している。
<市場に含まれる商品・サービス>
発電素子だけでなく、認識や制御、通信それぞれの機能を持ったデバイス

出典資料について

資料名2022年版 エネルギーハーベスティングデバイス市場の現状と展望
発刊日2022年04月28日
体裁A4 99ページ
価格(税込)165,000円 (本体価格 150,000円)

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