日本企業がアジア諸国に進出するにあたっては、進出(会社設立・M&Aを含む)のみならず、その後の事業展開や撤退を含む、事業のあらゆる場面に関する現地法制の検討が必要となる。多岐にわたり事案によって異なるが、紙面の都合上、検討点の概要のみを述べる。

進出の方法と考慮すべき規制

法務面での留意点
(画像=Anikin Denis/Shutterstock.com)

企業が海外に進出する方法は、事業内容、進出目的、進出先での会社法規による規制(※1)や外国投資規制(※2)等を勘案し、100%子会社(独資)や合弁会社等の方法から選択される。

※1 例えば、ミャンマーでは、合併その他の組織再編に関する法規定 が存在せず、M&Aの手法としては、株式譲渡、株式割当、事業譲渡に限定されている。

※2 外国投資家が投資を行う際に遵守すべきルールや得られる優遇策等を定めたもの。例えば、ミャンマ ーでも、2012年11月に新外国投資法が、2013年1月にその施行細則が、それぞれ制定されている。

外資による出資や外資への株式譲渡には、行政当局の承認が要件とされることもある(※3)。

※3 例えば、ミャンマーでも、外国投資法に基づくミャンマー投資委員会の許可を取得している外資会社の株式を外国人に譲渡するには、同委員会の許可を要する。

このような手続面や、税務上の観点、あるいは、後述する撤退の場面等を考え、現地法人の株式を保有するSPCの株式を取得する手法によってアジア諸国への進出を行うことも考えられる。

この他、進出に際しては現地の競争法(独占禁止法)や証券市場に関する規制の検討を要する事案もある。アジア諸国への進出にあたっては、各国に特有の規制 等にも配慮を要する(※4) 。

※4 例えば、ミャンマーヘの進出では各国の経済制裁の影響の検討が必要になることもある。

事業展開·撤退で留意すべき規制

日本企業は、アジア諸国への進出の際、現地での事業運営のノウハウ・事業展開や外国投資規制等の関係から、現地のパートナーや現地での事業運営経験のある日系企業との合弁会社を形成することが多い。合弁会社の運営は、基本的には、現地の会社法規の定めに従い、各機関がその決議事項について決議要件に従った議決をして進めることになる。ただし、会社法規の定めは、構成員が真に希望するところを必ずしも反映しきれていない。そのため、合弁会社の形成にあたっては、機関設計、運営(決議事項や決議要件)、財務の管理、追加出資や貸付の条件等、日常的に生じ得る事項について、構成員間でお互いの意思をよく確認し、合弁契約書等の合意書面を作成し、その内容を実行することが望ましい。

合弁会社については、形成段階において、事業の撤退(解散・清算)についても、一定の合意をしておくことが望ましいと思われる。合弁会社の構成員の意思が対立して運営に支障を来す場合(デッド・ロック)等、合弁会社による事業遂行が困難になる事例も実際に珍しくなしヽ。

・どのような場合を「デッド・ロック」とするか
・そのような事態が生じた場合にどのような解決をするか(協議手続の流れや、株式の買取や解散の条件)
・清算手続をどのようにするか

このような取り決めが構成員間でなされていることによって、かえって深刻な対立を避けることにつながったり、デッド・ロックが生じた場合にスムースな解決がなされたりすることで、結果的に事業への影響を少なくすることも可能になる。また、このような撤退の場面を想定し、清算等に関する現地の法制を踏まえた上で、より撤退が容易な方法での進出を検討することも考えられる。

上記の点以外に、海外に拠点をもつ企業が現地法人に関して抱えることが多い課題とその対応の要点を別表に挙げた。

法務面での留意点
(画像=Futureより)

このうち、労働に関する事項は、法務の観点からも特に重要な検討点である(※5)。

※5 例えば、ミャンマーでは、労働法規が多数存在し、規制が業種毎に異なる法律でなされている点もある。

適切な労務管理を行うには、現地の文化・習慣への理解は勿論のこと、労働法制の正確な理解が求められる。また、現地法人に関する紛争については、現地での執行が可能な手段を採用して実効的な解決を図る必要がある。現地の司法・行政の状況も踏まえ、最終的な執行の場面を想定した検討が求められる。

なお、例えば、工場を運営する場合であれば不動産関連の法規を、知的財産に関する事業を行ったり商標をはじめとする知的財産を使用するのであれば知的 財産関連の法規を、といったように、それぞれ事の業に関連する主要な法規制の調査・検討も必須である。

現地法規制の確認方法

アジア諸国においては前述のような法制度の整備が進行中であることも少なくなく、最新の情報の確認・検討を適時に行う必要があることにも留意が必要である。また、規制に関する法律には明記されていない実務上の解釈・運用も存在する。具体的な 情報については、現地の法律事務所に確認をすることが確実だと思われる。しかし、アジア諸国の法律事務所にはコネクションを有しない企業も多い。また費用面での懸念から、現地の法律事務所への照会を躊躇することもある。そのような場合には、日本の法律事務所を通じ、必要に応じて現地の法規制を予算内で確認するということも検討に値する。

結び

アジア諸国をはじめとする海外では、文化や価値観が日本とは大きく異なることが少なくない。アジア諸国には、海外の企業も既に多く進出しており、社会が大きく変容していく中で、協議・交渉・合意のプロセスの重要性は更に高まっている。それぞれにとって大切なものを尊重しつつも、事業上必要な事項については率直に協議を行い、望ましくない想定についても相互の認識を確認しておく必要性も、また高まっているものと思われる。

篠田憲明(弁護士 三宅坂総合法律事務所)

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