失敗したら大惨事……経営者が知っておくべき「謝罪会見」基本の基
(画像=OneDragon/stock.adobe.com)

テレビに流れる、頭を深々と下げる経営者の映像。あなたも経営者なら、他人事ではないかもしれない。事業を運営している限り、自社の製品やサービスが、予期せぬトラブルで世間に迷惑をかけてしまうリスクが存在するからだ。急きょ開く「謝罪会見」で、会見者はどう振る舞うべきなのか。

そもそも謝罪会見は必要か?

謝罪会見ではマスコミ各社に開催を案内し、記者やカメラマンに指定の場所へ集まってもらい、トラブルの顛末を説明するとともに、誠意を見せるために謝罪する。新聞やテレビ番組では、会見の説明とともに会見者がそろって立ちあがり、「申し訳ございませんでした」と頭を下げる場面が使用される。

謝罪会見は、カメラを通して大勢の人々に向けて謝る場であり、基本的にはネガティブな印象で受け取られやすい。もっとも大前提として、会見は必ず開かなければならないものではない。

例えば、自社がBtoBの製品やサービスを提供している場合を考えてみる。会見に詰め掛けるのは第三者の報道陣であり、自社のビジネスとは直接関係がないケースが多い。さらに、マスコミ発の情報の受け手は多くが一般消費者であり、消費者自身がなじみのない製品・サービスに関するトラブルを謝られても理解が及ばないこともある。

こうしたケースでは、意を決して会見を開いても、いたずらに自社の信用を傷つけるだけであろう。わざわざ大がかりな会見を開かなくても、プレスリリースや自社のホームページで事実関係を公表すれば十分という場合もある。

SNS時代の今、悪いウワサはすぐに広がるものだが、事案の性質により「積極的には公表しない」という選択肢もあり得る。まずは、謝罪会見が最適解なのか検討することが肝心だ。

謝罪会見は早めに開催して役員がわかりやすく説明する

謝罪会見がもっぱら誠意を示す場であると考えると、開催はトラブルが発覚してからなるべく早い時期がいい。そして、会見する側の本気度を社外に広く示すために、会見者として登壇する人物は役員以上が望ましい。

さらに気をつけたいのは、説明や開示する資料のわかりやすさだ。企業が謝罪会見を開くと、普段から付き合いがあって自社のことを知る経済担当記者だけでなく、事件や事故を扱う社会部記者が会見場に来ることもある。

初顔合わせの記者は、自社について無知であることも想定される。それにもかかわらず「これくらいの予備知識はあって当然」という態度や内容で説明すると、記者側の心証を悪くしかねない。記事の書き手の機嫌を損ねることに、なんらメリットはない。

説明の中で複数の日時が登場するなら、時系列に沿って資料をまとめ、専門用語は注釈を付けるなど、自社のビジネスを知らない人にも理解してもらうための工夫が必要だ。

謝罪会見は事前の準備が大切

まだテレビがなかった時代、企業が製品・サービスのトラブルで消費者に謝るためには、新聞での広告欄を活用するのが一般的だった。それがなぜ、今日のように会見者と報道陣が向かい合う形式が普及したのだろうか。

一節には、山一證券の経営破綻や雪印乳業の食中毒事件などに関する謝罪会見で、会見者と報道陣におけるやり取りから、人間性がにじみ出る一言や本音が垣間見える失言が飛び出した経緯があったからとされている。山一證券の会見では「社員は悪くない」と泣き崩れる姿、雪印乳業の会見では「私だって寝てないんだ」と開き直る姿が映しだされた。

謝罪会見での報道陣による質問は、トラブルの原因や過去の経緯、トラブルの影響の範囲、今後の対応など、決まりきった内容が多い。しかし、まれに揚げ足をとって会見者を怒らせる意図の質問もある。そのような状況にうまく対応するために、会見者は可能な限り事前に想定問答を確認するとともに、冷静に受け答えするためのシミュレーションを繰り返すべきだろう。

謝る相手を間違えない

謝罪する際に注意したいのは、「謝る相手を間違えない」ことである。謝罪会見では、会見者が第三者である報道陣に頭を下げているような構図になる。しかし会見者は、謝罪する相手があくまで報道陣の向こうの視聴者や読者だということを忘れてはならない。

これを履き違えていたのが2022年4月、北海道の知床半島沖で26人が乗る観光船の遭難事故を起こした会社「知床遊覧船」による会見だった。

同社の社長は、謝罪会見の冒頭で「お騒がせして大変申し訳ございません」と言って土下座した。事故では何人も乗客が亡くなり、それぞれに遺族がいる。その中でようやく開いた会見で開口一番、「お騒がせしたこと」を真っ先に謝るのは論外だ。いきなりの土下座も、単なるパフォーマンスとしか映らなかった。

謝罪会見は、1歩間違えれば自らをより窮地に追い込むこともある。想定問答やシミュレーションの事前準備はもちろん大切だが、最も重要なのは「誰に対して何を謝るのか」を明確にし、的確な言葉と態度を貫き通すための心の準備と言えるかもしれない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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