テラショックで7兆円が消滅 「汝矣島(ヨイド)の死神」が捜査開始で暗号資産どうなる?
(画像=MIAStudio/stock.adobe.com)

韓国発の暗号資産、テラ(Terra)USDとその姉妹トークン、ルナ(Luna)の価格大崩壊により、一夜にして600億ドル相当の価値が市場から消え去った。2022年5月20日には同国の検察が「詐欺罪」の適用を視野に入れ捜査を開始するなど、暗号資産業界に大きな波紋を広げている。

預り金が数日で9分の1に縮小

2022年5月7日、130円の最高値を付けた直後に急下降したテラUSDは、5月26日現在12円ほどで推移している。時価総額は2兆4,400億円から768億5,000円へ、暗号資産の時価総額ランキングは3位から72位へと大幅に後退した。

5月上旬には誰の目から見ても、大崩壊が目前に迫っていることは明白だった。最大19.5%の利回りで投資家を魅了していたテラのDeFi(分散型金融)プロジェクト「アンカー(Anchor)」の預り金が、わずか数日間で140億ドルから87億ドル(約17.8兆円から1.7兆円)へ急減したのだ。アンカーの預り金の大半はテラUSDが占めている。

5月9日には、これまで投資家の安心材料となっていたペッグ(裏付け)が外れ、1ドルを切った。アンカーの利回りは18%へ低下した。

テラの開発元テラフォームラボ(Terraform Labs)のドー・クォン代表は、テラフォームラボが分散型取引所カーブファイナンス(CurveFinance)から1億5,000万ドル(約191億万円)相当のテラUSDを引き出し、取引所で稼働する新しい「流動性プール」を準備するという救済策を講じた。

しかし、その発表とほぼ同時に、未確認の投資家が約8,400万ドル(約107億円)相当のテラUSDをUSD Coinに交換するという「不運」が起きた。この動きにより米ドルに換金できなくなることを恐れた投資家間でテラUSDとルナのパニック売りを引き起こし、瞬く間に市場から総額600億ドル(約7.6兆円)が消滅した。

アルゴリズム型無担保ステーブルの盲点

そもそもステーブルコインは、乱高下が激しいという仮想通貨の弱点を補う意図で開発された暗号資産だ。法定通貨と連動させることで価格の安定を狙うという仕組みが投資家を魅了し、急成長を遂げた背景がある。テラUSDとルナの大崩壊は、このようなステーブルコイン神話を根底から覆す出来事となった。

「ステーブルコイン最強」とも呼ばれたテラが、成すすべもなく紙屑同然となった原因は何なのか。

テラUSDは2018年、ソウルで設立されたテラフォームラボがローンチしたアルゴリズム無担保型ステーブルコインだ。法定通貨建ての資産やゴールド(金)、コモディティなどにペッグされた担保型と異なり、アルゴリズム型ステーブルコインは自動的に法定通貨の価格と連動させるアルゴリズムが組み込まれており、それが裏付けとなる。

このアルゴリズムは、ステーブルコインを同等の価値のあるトークンとリンクさせ、需要供給量の変動に応じてトークンの発行・償却を行うことで価格を安定させるようプログラムされている。テラUSDの場合はルナがその役割を果たしていた。

今回の騒動では、この仕組みが裏目に出た。なぜならば、市場からテラが大量に引き出されたことによりルナの供給量が大幅に拡大し、市場の不安感からすでに価値が下落していたルナの価値をさらに押し下げたのだ。

「準備金が最短1ヵ月で枯渇する」と警鐘

理論上は画期的な試みのように見えたテラだが、持続性を維持するためには基盤があまりにも脆弱過ぎた。

繰り返しになるが、テラUSDはアルゴリズムに依存する無担保型だ。乱暴な言い方をすると、すべては価格の安定性に対する投資家の信頼にかかっている。カルガリー大学のライアン・クレメンツ教授は「投資家間で不安感が広がればドルペッグが崩れ、デススパイラル(下落の悪循環)に陥る」と、アルゴリズム型ステーブルコインの本質的な脆弱性を指摘していた。

高利回りをウリにしたのも大崩壊の要因の一つとなった。多数の投資家がアンカーの高利回りに惹かれて群がった結果、テラUSDの流通供給量は過去1年間で9倍以上の185億ドル(約2.3兆円)相当に膨れあがった。これによりアンカーの高利回りの支払いが金利収益を上回り、利回り準備金が急激に縮小した。

5月上旬にはDeFiアセットモニター、ミラートラッカーが、過去30日で準備金がほぼ半分の1億7,600万ドル(約224億万円)へ減少したと指摘し、「最短1ヵ月で枯渇する勢いだ」と警鐘を鳴らした。

消えた巨額のビットコイン、投資家5人が告訴

追い打ちをかけるかのように、もう一つの問題が浮上した。裏付けの一部となるはずだった準備金、すなわち35億ドル(約4,458億円)相当のビットコインが使途不明のまま消えたのだ。これは非営利団体ルナファウンデーションガード(LFG)が保有していたビットコイン約8万枚で、救済策として急遽貸し出されたものだった。

ドヒョン氏による苦肉の策として5月16日、「テラの生態系とその共同体は保存する価値がある」として、テラのブロックチェーンを使用して新たなネットワークを構築するという復興計画を提案した。ルナトークン保有者を対象に実施された投票では約7割が賛成票を投じたが、実現のためには数々の難問を超える必要性に迫られるだろう。

韓国メディアの東亜日報は5月20日、「総額14億3,000万ウォン(約1.4億円)の損失を被った」という投資家5人の告訴を受け、「汝矣島(ヨイド)の死神」と言われる証券犯罪合同捜査団が捜査に乗り出したと報じた。新規投資家の投資金を受け取り、既存投資家に利子や配当を与えるというテラの手法とポンジスキーム(詐欺)の類似点が指摘されている。

暗号資産イーサリアムの開発者ビタリック・ブテリン氏も「暗号資産実験を中断すべき」と、同様の見解を示した。

暗号資産の重要課題が改めて浮き彫りに

一方、米連邦準備制度理事会(FRB)は5月9日に発表した報告書で、「暴落に弱い」「資産に関する透明性が欠けている」などのステーブルコインの弱点を指摘。また、イエレン米財務長官はテラが引き起こしたような大混乱の防止策として、年内にも法律を制定することが「極めて適切」であると述べた。

テラ騒動が社会に投げかけた波紋は、暗号資産に対する適切な規制強化や投資家の保護対策が最重要課題の一つであることを改めて浮き彫りにした。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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