日本M&Aセンターの中で特に業界での経験豊富な二人のスペシャリストが、世の中の企業のM&Aの動き、プレスリリースを中心に解説する「M&Aニュースサテライト」。 今回は日立製作所の子会社、日立物流の売却をテーマに解説します。(本記事ではYouTube動画の概要をご紹介します。)※撮影は2022年4月下旬に行われました。
日立製作所が日立物流を売却へ、その背景とは?
西川:このところ大きなM&Aリリースはなかったのですが、 久しぶりに取り上げたい案件の報道がありました。日立製作所が約4割の株式を保有する持分法適用会社に「日立物流」という会社がありますけれども、この日立物流の株式の3割程度を売却し、残り1割程まで引き下げる。そしてこの相手方が米国の大手投資ファンドであるということが日経新聞をはじめ一部メディアから報じられました。
撮影を行ってる現時点では、日立製作所さんのホームページ上では「特に決定した事実はありません」と発表されているものの、検討自体は認められているようなので、案件として交渉が進んでいるとみられます(※)。今回は、本件を取り上げていきたいと思います。
※2022年4月28日、日立製作所より「日立物流株式の譲渡による個別決算における特別利益の計上に関するお知らせ」が発信されました
早速ですが臼井さん、この背景について教えてください。
臼井: はい。全体的な流れで見ると、大きな驚きがあるというわけではなく、「来たか!」という感じですね。
西川: 来た!と(笑)
臼井: ご存じの通り、日立製作所は日本を代表するような巨大企業グループです。グループの中で昔は子会社の自主独立、制作、それにともなう各社自前でビジネスを立ててどんどん上場していきなさい、という方針で一時期は約30社近く上場子会社を抱えていたといわれています。今回の日立物流で、上場子会社はほとんど無くなるという。(日立物流は)最後の砦に近いなと思っています。 かつてグループにあった上場子会社が現在どうなっているのかをまとめるだけで、このYouTube動画は5.6本作れるほど大きなテーマです。その中でも最後の大物、日立物流がようやく動いたというところですね。
西川: ようやく動いたと。
臼井: 今回の案件自体はいろいろな角度から一つのディールを考えることができます。たとえば日立グループのグループ戦略、あるいは親子上場をどうしていくのか。いわゆる「選択と集中」をたくさんやっている会社ですからね。
一方、今回「日立物流」ということで物流業界の話と捉えた時に、いま物流業界ではどのような再編が起こっているのか。もうひとつは、今回のディールの相手、現状はまだ買い手候補ですが KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)というPEファンド。実はKKRにとって日立グループの子会社は今回で3件目になると思います。そうしたことも含めてPEファンド目線から見た動きはどうなるのか。ざっと考えただけでこれくらいのテーマが出てくるので、1つひとつの事象にフォーカスしてお届けしたいと思います。
日立グループの「事業ポートフォリオ変革」の歴史
西川: テーマを複数に分けてシリーズものとしてお届けしていきたいと思います。現段階(※2022年4月27日)では正式な発表ではないので、周辺の状況について話をしていきたいなと思います。日立グループの直近の四半期報告書によると、連結子会社865社、持ち分適用会社290社、あわせると1,155社と非常にが規模が大きいグループです。日本を代表するグループ企業集団であり、日立製作所グループよりも企業数が多いグループでいうとソニーグループ、野村ホールディングス、NTTグループ、近いところで言うとオリックスなど超優良企業と同じくらいのグループ企業集団を形成しています。
直近の中期経営計画をみると「デジタルプラットフォームの構築」「社会のイノベーション事業への注力」「グローバルオペレーション基盤の強化」という大きく3つの重要なテーマを挙げています。
これらに合わせて、もうひとつ大きなテーマとして挙げられているのが「事業ポートフォリオの変革」。
中計の発表、決算説明会の度にこのキーワード「事業ポートフォリオの変革」が登場します。そういった意味において直近日立グループ内での売却についてどんな事例があったのでしょうか。
臼井: かつて、日立御三家と呼ばれる「日立化成」「日立金属」「日立電線」という3社がありました。この3社は現在グループの外にあります。 日立化成さんは昭和電工と経営統合してグループから離れていきました。 残りの日立金属、日立電線ですが2社が経営統合した後で、最終的には日立金属はPEファンドのベインキャピタルが引き受けました。 そのほかの「日立工機」や「日立建機」はKKRが引き受けましたし、それからご存じの通りこれは子会社ではないですけど、日立のメモリー事業もあります。 日本が半導体で世界一だった時代、日立もその中で有力な一角だったのですが、その中のメモリー事業はNECと一緒になって、最終的にはアメリカのマイクロンの子会社になっています。
このように驚くほどグループの姿が変わってきているといえます。インパクトが大きいものでいえば、日立化成の売却、日立金属の売却、日立建機の売却が挙げられ、それらに続くのが今回の日立物湯であるといえるのではないでしょうか。
西川: 4件連続でビックディールが続いているんですね。こうした背景として思い返すと2009年3月期の決算で日立グループさんは連結で大赤字を出されているんですよね。 8,000億円近い最終赤字を計上しているのですが、そこからずいぶんと徹底的に事業ポートフォリオを入れ替えてきたということですね。
臼井さんのほうから過去のグループ内における売却事例を取り上げてきましたけど、一方で「ポートフォリオの変革」という意味でより強化していく観点でのM&Aもあったと思うんですが、日立ハイテクノロジーズさんですかね、 2020年に日立製作所が完全子会社化しました。そういう取り組みもされて事業の転換を図ってきたことで、いまや産業を代表する企業に名実ともになり、過去の赤字を完全払拭できたわけですね。
日本M&Aセンターでは上場企業の成長を実現するM&Aのサポートも行っております。戦略実現のためのプロアクティブサーチや企業組織再編など、高度なスキーム提案を上場企業専門チームが行います。
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プロフィール
1991年に山一證券株式会社に入社、M&A部門に配属。同社自主廃業後、大手証券会社M&A部門を経て2009年に日本M&Aセンター入社。27年間にわたり一貫して国内外のM&A仲介アドバイザリー業務の第一線に従事。上場企業同士の経営統合から中小企業の事業承継案件まで、規模の大小を問わず幅広い業界にて200件超のM&A成約実績がある。
大手プラントエンジニアリング会社(海外プラント建設)、Big4系コンサルティングファーム(PMI等)、大手証券会社(M&Aアドバイザリー)を経て、2010年に当社に入社。通算20年近いM&A実務経験に強み。現在、上場会社グループに特化してM&Aサービスを提供する部門を率いる。事業ポートフォリオ再構築プランやM&A戦略の立案サポートから、クライアント毎のオーダーに基づく案件オリジネーション、交渉・実行サポートを行う。弊社において、大型案件、複雑案件、及びノンコア切離し案件をリードする。