楽天グループがドローン事業に本腰を入れる。ドローンビジネスを展開する国内の有力ベンチャーの完全子会社化を発表し、これを契機にこれまでに取り組んできた関連事業をスピードアップさせる狙いがあるようだ。
買収の狙い:技術を獲得して関連事業を強化
楽天グループは2022年4月20日、ドローンパイロットの派遣や育成など、さまざまなドローンビジネスを展開するSKY ESTATE株式会社の全株式を対象とした株式譲渡契約を締結し、同社を完全子会社化すると発表した。
楽天グループは1997年の設立以降、「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」というミッションのもと、国内外問わず数々の企業を子会社化し、それぞれが持つ専門的なノウハウを取り入れながら独自の事業を展開してきた。
楽天グループが買収したSKY ESTATEは2016年創業で、「“空”に『未来』を」をミッションに掲げ、ドローンスクールの運営やドローンを利用した外壁調査、太陽光パネル調査、空撮、マイクロドローンによる撮影や映像制作、ドローン活用コンサルティングなど幅広い事業を手掛ける。
プレスリリースによると、「楽天が有するビジョンや実績と、SKY ESTATEが有する各種ノウハウを掛け合わせることで、ドローン業界のさらなる発展に貢献できるとの両社の思いから実現しました。楽天とSKY ESTATEは、今後もドローンの利活用を促進し、イノベーションの実現および新たなサービスの提供に取り組んでまいります」とある。
両社が事業をともにすることによる効果は?
楽天グループはこれまでもドローンを活用した配送プロジェクトを進めてきたほか、ドローンパイロットを育成するための「楽天ドローンアカデミー」の開設や、楽天損保が行う火災保険の鑑定業務におけるドローン調査などに取り組んできた。
今回の子会社化で、SKY ESTATEが持つ高度な技術やノウハウを吸収し、これまで取り組んできた無人ソリューション事業の勢いを加速させるのが目的だ。それだけでなく、事業を担う人材の輩出やクラウドソーシングによるマッチングなど、ドローン事業の裾野を広げ、独自のサービスに結びつける狙いがあると言えるだろう。
ドローン市場は2025年度に約6,500億円に
市場調査を手掛けるインプレス総合研究所が実施した2021年の調査報告書によれば、2020年度の国内ドローンビジネスの市場規模は約1,841億円に上り、2025年度には6,468億円に達するという。
ドローンの活用がさらに拡大するシーンは?
今後さらにドローンの活用が拡大すると考えられるシーンは、以下などが挙げられる。
・農業分野での農薬散布
・鉄塔、発電施設、ビルなど、インフラ施設における点検
・天井や屋根裏部屋など、人による点検が困難な建築現場での点検
そして、ドローンの活躍が最も期待されるのは荷物の配送だ。国土交通省によると、宅配便の取り扱い個数は年々増加傾向にある。
新型コロナウイルスの感染拡大による外出制限で、オンラインショッピングの需要はますます高まった。その一方、宅配ドライバー不足が深刻な問題として取りあげられている。
楽天グループは2016年、ドローン配送サービスプロジェクトを開始した。第1弾として、千葉県御宿町のキャメルゴルフリゾートでゴルフ用品や飲食料をドローンが届けるサービスを実施し、注目を浴びた。
その後も、東日本大震災で避難指示区域に指定された福島県南相馬市での配送サービスや、国内初となる離島への配送サービスなどを成功させ、実用化に着々と近づいている。
荷物をスムーズかつ安全に届けるために、全自動のオリジナルドローン「天空」を開発したが、SKY ESTATEの技術を手に入れたことにより、今後さらに高性能なドローンの開発が期待できるだろう。
ドローンパイロットの育成による雇用創出も強化
ドローン需要が拡大することに伴い、ドローンパイロットなどの人材も求められ、人材育成事業も拡大していくことが予想される。
雇用創出にも力を入れているSKY ESTATEは、国土交通省認定カリキュラムを採用したドローンスクールを開校しており、これまでのパイロット育成人数は1,500人、受講満足度は96.3%という実績を誇っている。
楽天グループも2021年12月、群馬県みなかみ町に「楽天ドローンアカデミーみなかみ校」を開校し、ドローンパイロット育成事業をスタートしたばかりだ。SKY ESTATEの持つノウハウを活かした雇用創出事業の拡大も子会社化の狙いであったと考えられる。
SKY ESTATEの子会社化により、楽天グループはドローン事業をさらに強固なものにしていくだろう。ドローンの実用化で、社会問題の解決やさらなる地域発展に結びつけられるか期待したい。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)