東京証券取引所の市場区分が再編され、2022年4月4日から「プライム市場」など新たな3つの市場区分が始動した。そんな中で波紋を呼んだのが、それぞれの市場区分の株価動向を示す指数が1日に一度しか更新されないことだ。「実用性に欠ける」といった批判が起きた。
1日に一度しか更新されない指数
一般的に「株価指数」と呼ばれるものは、市場が開いている時間はリアルタイムに更新される。
日本で代表的な株価指数といえば、「東証株価指数」(TOPIX)や「日経平均株価」だ。それぞれ構成銘柄が決まっており、全ての構成銘柄の株価の変動に合わせてリアルタイムに指数が更新されている。その状況を見て株式投資家は、その日の相場の流れを読む。
しかし、もし指数が1日に一度しか更新されなければ、どうなるだろう。東証株価指数や日経平均株価の動きが「線」だとすれば、1日に一度しか更新されない指数は「点」の情報だ。投資家にとってどちらが実用的かは明白だろう。
それなのに、新たな市場区分に合わせて新設された「東証プライム市場指数」「東証スタンダード市場指数」「東証グロース市場指数」は、いずれも1日に一度しか更新されない指数だった。具体的には、指数の終値だけが取引時間終了後に更新される仕組みとなっている。
日経平均株価と東証プライム市場指数の推移を比較すると……
日経平均株価の推移と東証プライム市場指数の推移を時間軸で比較すると、いかに東証プライム市場指数が使いにくいかがよく分かる。
日経平均株価は取引時間中(午前9時~午前11時半/午後0時半~午後3時)に5秒ごとに変動するが、東証プライム市場指数はその日の取引を終えたあと、午後4時にならないと更新されない。
そのため、取引時間中の30分ごとの指数の推移をみてみると、以下の通りとなる。(2022年4月28日の取引時間中における日経平均株価と東証プライム市場指数の推移を比較した)
日経平均株価は刻々と変化しているが、東証プライム市場指数は取引時間中には一切変動がない。前日(2022年4月27日)の午後4時に発表された数字がずっと変わらないままだ。ちなみに、4月28日の午後4時にこの日の東証プライム市場指数の終値が977.08と発表されている。
批判を受けて「随時更新」に切り替えへ
このような新たな指数の使い勝手の悪さに対しては、日本人投資家、そして海外の市場関係者からも厳しい声が挙がり、日本経済新聞の報道などによれば、2022年内にも指数の変動を随時更新する形式に切り替えるようだ。
ただし、今回のこの指数の騒動については、東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループを一方的に攻めるのはやや気が引ける面もある。
そもそも、東証プライム市場指数などは統計目的の「参考値」として算出することを目的としており、投資家に情報をリアルタイムに提供するという狙いで設計された指数ではないのだ。しかし、リアルタイムに変動する株価指数に慣れた市場関係者から批判が上がることになった。
「経過措置」に関しての批判の声も
今回の東京証券取引所の市場区分の再編に関しては、ほかにも市場関係者から批判を受けている点がある。
市場区分の再編では、東証の最上位に位置していた「東証一部」の上場企業の約8割が「プライム」に移行したが、実情を書くとプライム市場の条件を満たしていない上場企業も東証一部からプライムに移行できてしまっている。
その理由は、「経過措置」が設けられたからだ。条件を満たしていなくても、条件を満たすための計画書を提出することで、経過措置としてプライム市場に移行することが認められた。しかも、この経過措置の期限は設けられていない。
上場基準を厳しくした市場に上場している企業は、通常は投資家から高い評価を受けやすい。しかし、この期限が設けられていない経過措置が存在していることにより、市場再編の意義があいまいになってしまった。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)