激化する動画配信市場のシェア争い、Netflixが過去10年間で初の会員減少
(画像=tanaonte/stock.adobe.com)

インフレやロシア・ウクライナ情勢、壮絶な顧客獲得争いの影響により、動画配信サービスが苦戦を強いられている。

コロナの巣ごもり需要で3,600万人の新規加入者を獲得した2020年から一転、Netflixの2022年第1四半期の会員数は20万人減と過去10年間で初めて減少した。さらに会員減少数は「次の四半期には10倍にふくれ上がる」との暗い見通しだ。ディズニーなどの競合ストリーミング株も下落基調にある。

四半期発表後に株価急落、時価総額は3分の1以下に

成長の鈍化は2021年後半から顕著に現れており、Netflixが低迷期に突入することは想定されていた。とはいうものの、2022年4月19日に発表された四半期報告は市場を大きく動揺させる散々な結果だった。

売上高は、前年同期比9.8%増の78億6,800万ドル(約1兆54億円)と過去最高を記録したが、アナリストの予想をわずかに下回った。純利益は6%減の15億9,700万ドル(約2,040億7,477万円)だ。1株当たりの利益(EPS)は3.53ドル(約451円)と予想を大幅に上回ったが、前年同期比は5.9%減と1年以上ぶりに減少した。

会員数は250万人増加という予想とはほど遠い、20万人減の2億2,164万人だった。四半期の新規加入数が解約件数を下回ったのは、2011年第3四半期以来で初めてである。ウクライナ侵攻後、ロシアへのサービスを停止したことで会員が70万人減少したことも痛手となった。さらに「今春四半期には解約件数が200万人に達する」との見通しも明らかにした。

決算報告後、同社の株価は26%下落し、株式市場価格は400億ドル(約5兆1,128億円)減少した。2022年4月26日時点の時価総額は894億5,000万ドル(約10兆8,618億円)と、昨年10月のピーク時の3分の1以下に落ちこんでいる。

インフレや市場の激化などが成長の足かせに

ロイターによると、Netflixは苦境に立たされている原因について、インフレや競合他社の増加、ロシア・ウクライナ情勢などが重なったことを挙げている。

可処分所得が世界規模で縮小傾向にある現在、多くの消費者がエンターテイメント系のサブスクリプションを真っ先に切り捨てるのは自然な流れだ。それならばインフレが抑制されれば、加入者数の伸びが期待できるだろう。

しかし、投資家を最も不安にさせているのは消費者の急速なストリーミング離れだ。問題の根底にあるものが飽和感である場合、Netflixは景気や情勢に関係なく苦戦を強いられることになる。

インフレが顕著になる前の2021年のデータによると、世界の新規加入者数は過去5年間で最低水準の1820万人に留まった。同社の主要市場である米国の有料サービス加入者数も、第2~3四半期にわたり低迷した。第4四半期には若干の伸びを示したものの、2022年第1四半期には前四半期から0.8%減少している。

これらのデータを見る限り、低迷の原因が景気や情勢以外にもあることは明白だ。

若年層がTikTokやYouTubeへ流出

AmazonプライムビデオやDisney+、HBO Max(日本ではU-NEXTで配信)、Hulu、Rokuなど、動画配信市場は魅力的かつ低価格で利用できるサービスが次々と登場し、激戦区と化している。

英市場調査企業アンペア・アナライシスによると、ストリーミングサービスを展開する企業は顧客獲得に向けて、2021年の新規コンテンツ制作に総額500億ドル(約6兆3,928億円)を投じたそうだ。それにもかかわらず、消費者の動画ストリーミングへの関心は薄れつつあり、各社の株価は軒並み大幅に下落している。

潮流の変化は若い層で目立つ。国際コンサル企業デロイトのデジタル部門が3月に実施した調査では、Z世代とミレニアル世代の消費者の大多数はストリーミングサービスで映画や番組を鑑賞するより、TikTokやYouTubeなどで他のユーザーが作成した短編動画を鑑賞することに多くの時間を費やしていることが明らかになった。

各社は既存顧客にアピールするコンテンツやサービスを提供する一方で、次世代を担う若年層を取りこむ戦略を展開する必要がある。世代間における消費行動や価値観のギャップへの配慮が、成長のキーワードとなるだろう。

アカウントの不正共有取り締まりや低価格プランも検討

もう1つ、アカウント及びパスワードの不正共有という問題もある。

現在、世界中で1億世帯が共有アカウントでNetflixを利用しているが、契約世帯以外のユーザーにパスワードを共有され、料金が払われずにサービスが利用されるケースも多い。Netflixはこのような不正行為が加入者減少の一因だと見ており、不正共有を防止すると同時に収益を得る方法を探っている。

対応策として、世帯外のユーザーとアカウントを共有する場合、追加料金を支払うシステムをチリやコスタリカ、ペルーで試験的に導入中だ。

その一方でリード・ヘイスティングスCEOは、 HBOMaxやDisney+のような低価格の広告付きプランの提供を検討していることを明らかにした。また、ボスファイト・エンターテインメントを含む米ゲーム企業3社を買収し、会員に無料でモバイルゲームを提供するなど、モバイルゲーム世代の獲得にも注力している。

動画配信市場の転換期

コロナ禍での急激な需要拡大を経て、動画配信市場は転換期に差しかかっている。各社が火花を散らし合うシェア争いの行方は、新たなマーケティング戦略やコンテンツ獲得戦略を展開し、経済的圧力下にある飽和状態の市場に新風を吹きこむことができるかどうかに懸かっている。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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