2013年3月21日、ユニ・チャームはタイの子会社 Uni-Charm (Thailand) Co.,Ltdを通じて、ミャンマーの大手衛生用品製造販売会社 Myanmar Care Products Limited( 本社ヤンゴン。以下、マイケア社という)のほぼ全株式を取得した。
ご承知のとおりミャンマーは民主化の進展に伴い所得水準を急速に向上させつつある 。マイケア社はそのミャンマーにおける女性用生理用品市場でトップシェア、幼児用おむつ市場ではユニ・チャームに次ぐ第2位のシェアを有する企業であり、今回の買収によりユニ・チャーム・グループは黎明期におけるミャンマー市場において圧倒的な競争優位を確立することとなる。
今、内需の成長力が鈍化した日本企業にとって、"アジアを取り込む" ことは成長戦略と同義である。しかし、多くの日本企業が採用してきた富裕層向け戦略は、高級品市場で欧米ラグジュアリーブランドの後塵を拝し、また、中間層を含む新興市場全体においてはユニリーバやP&Gといったグローバル企業に大きく水をあけられてきたのが実態だ。
こうした状況にあって、中国市場で苦戦を続けてきた花王はこの1月から安徽省工場で生産した幼児用紙おむつを中間層向けに投入、アジア事業を前年比3割増へ押し上げるなど、ここへきてようやく日本企業も中間層に対する取り組みに本腰を入れてきたと言える。
これに対してユニ・チャームはアジアで大きく先行する。同社は90年代後半 からアジアを重点市場と位置づけ、インドネシア・マレーシア・中国・フィリピン・ベトナム・インドなどへ進出してきた。中国では沿岸部から中間層の需要拡大が見込める内陸部への展開を加速させつつあり、 201 3年12月までに1000都市へと商圏を拡大させる 。また、中国国内第5工場の建設に着手するとともに、ハノイ(ベトナム)からの供給体制の構築も視野に入れる 。図表はいずれも同社「投資家情報 」からの抜粋であるが、同社の海外事業の成果を端的に表している 。
ただ、ユニ・チャームの成長戦略を理解するうえで見落としてはならないことは、同社の主力商品群のそれぞれが“国家の経済発展のレベル”に呼応 しているという点である 。一般に一人当たり GDP が1千ドルを越えると女性用生理用品、3千ドルで幼児用紙おむつ、1万ドルを越えると大人用紙おむつ市場やペット市場が拡大するという(同社IR資料より)。因みにミャンマーは835ドル(20 12年)、中国6,076ドル(同)、日本46,736ドル(同)である。すなわち、同社製品群の各国における経済発展のレベルによって異なることから、新興国・先進国のいずれにおいても主力商品が成長機会を見出し得る。
そして、特定国において世代を超えた競争優位を 実現するためには流通業者と消費者との長期的な信頼関係の醸成が必須であり、この意味において M&Aを活用した市場黎明期における寡占化戦略は極めて効率 的な投資であると言えよう。
水越孝(代表取締役 株式会社矢野経済研究所)