グローバル化や人口減少が加速する中、これまで以上に中小企業には「生産性向上」が求められている。この記事では、生産性向上が必要な背景や取り組み方、生産性向上の具体例や指標について解説する。生産性向上を実現したい経営者はぜひ参考にしてほしい。
目次
生産性向上とは何か? なぜ必要とされるのか?
「生産性」とは、ヒト・モノ・カネをはじめとした経営資源の投入量と、それによって生み出された産出量の比率のことだ。インプットに対するアウトプットの比率と言い換えることもできる。
生産性向上とは、この比率を改善し、最小のインプットで最大のアウトプットを目指すことをいう。生産性向上を実現するには、「インプットを減らす」「アウトプットを増やす」という2つの方法がある。もちろん、どちらも実現させられるに越したことはない。
生産性向上と混同されがちな言葉に「業務効率化」がある。しかし、生産性向上と業務効率化はまったく異なる概念だ。業務効率化とは、業務の無駄や非効率なやり方を見直すことで、業務改善を図ることである。生産性向上を実現するための方法のひとつとして、業務効率化があると考えれば分かりやすい。
日本は2008年をピークに人口減少社会に突入した。労働力の減少に歯止めがかからない以上、生産性向上は、どの企業でも「待ったなし」の課題と言える。生産性向上に取り組み、人材不足に備えるようにしたい。
生産性向上を実現するメリット4つ
生産性向上の実現によって、企業にはどういったメリットがあるのだろうか。ここでは、メリットを4つ紹介する。
1.コストを削減できる
生産性向上は、コスト削減につながることが多い。業務効率化等を通じて、廃棄量を減らしたり残業時間を減らしたりできれば、材料費や人件費を削減できる。コスト削減によって安定的に利益を確保できるようになれば、さらなる生産性向上に向けて資金を投入しやすくなるだろう。
2.顧客満足につながる
生産性向上が実現すると、顧客満足につながる可能性がある。たとえば、商品やサービスを適正な価格で提供できるようになったり、これまでにない新たな価値を提供できるようになったりということが考えられる。顧客の満足度が向上すれば、商品・サービスのブランド力が向上し、さらなる売上増もねらえるだろう。
3.競争力が向上する
価格の適性化や新たな価値の提供によって、商品・サービスの競争力は自然と上昇する。競合他社と比べて優位に立つことができれば、一気にシェアを拡大できる可能性もある。
4.従業員にやる気が生まれる
非効率な業務や長時間労働は、従業員のやる気を失わせる要因であり、ミス発生の温床にもなる。生産性向上に成功すれば、従業員のモチベーションが上がり、商品・サービスの品質が向上することが期待できる。
生産性向上の基本方針4つ
生産性向上による企業のメリットは、それぞれが密接に関連し合っている。相乗効果を生むためにも、しっかり方針を立てて生産性向上に取り組むようにしたい。
生産性には、インプットとアウトプットという2つの要素があると説明した。インプットとアウトプットへのアプローチのし方によって、生産性向上の基本方針は4つに分けられる。
1.資源縮小型
アウトプットを維持しながら、インプットを減らすことを目指すのが資源縮小型だ。たとえば、業務効率化によって残業を減らし、人件費を削減するといった取り組みがある。
2.資源・産出量縮小型
アウトプットが減る覚悟で、インプットを大幅に減らすことを目指すのが資源・産出量縮小型だ。たとえば、赤字改善のために営業時間を短縮して配置する人材を減らし、人件費を削減するといった取り組みがある。
3.産出量拡大型
インプットを維持しながら、アウトプットを増やすことを目指すのが産出量拡大型だ。たとえば、営業目標の見える化によって、従業員1人あたりの売上アップを目指すといった取り組みがある。
4.資源・産出量拡大型
インプットが増える覚悟で、アウトプットを大幅に増やすことを目指すのが資源・産出量拡大型だ。たとえば、新たな人材を採用してエリアを拡大し、既存のノウハウを活かしながら売上の大幅アップをねらうといった取り組みがある。
生産性向上を実現するための5ステップ
生産性向上の基本方針を決めたら、続いては具体的に生産性向上を進めていく必要がある。生産性向上を実現するための具体的な方法を、5つのステップに分けて解説していく。
ステップ1.現状の課題を整理・分析する
まず、自社の現状の課題を整理・分析することが大切だ。
インプットに関しては、ヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源を切り口に、縮小する余地があるかを検討する。アウトプットに関しては、売上高・利益・商品販売数・新規契約数などをベースに、拡大する余地があるかを検討する。
事業が好調で比較的資金に余裕があるなら、インプットを増やすことでアウトプットを大幅に増やす方法にも目を向けたい。事業が不調で赤字を回避したい場合は、アウトプットを減らしてでもインプットを大幅に減らせる可能性がないか検討する必要がある。
ステップ2.理想的な状態を具体化する
現状の課題を整理・分析したら、4つの基本方針を参考にしながら、生産性向上が実現した後の理想の状態を具体化する。ここでは、具体的に数字の目標を立てることが大切だ。労働時間の削減や売上アップなど、数値目標に落とし込むことで、生産性向上に取り組んだ後の効果測定もしやすくなる。
ステップ3.理想と現状のギャップを埋める方法を考える
現状と理想を整理したら、2つのギャップを埋めるための具体的な方法を考える必要がある。後ほど紹介する生産性向上の具体例も参考にしつつ、設備投資やアウトソーシング、評価制度・表彰制度の導入などを検討してみてほしい。生産性向上の方法論を考える際には、従業員にも協力を仰ぎ、全員でブレインストーミングするのもおすすめだ。
ステップ4.計画に沿って実行する
生産性向上のアイデアを出したら、具体的な計画を立てて実行していく。経営者1人ですべてを実行するのは難しいため、プロジェクトチームを立ち上げるのもいいだろう。計画を立てる時は、期日を決め、スケジュールを具体化することが大切だ。
ステップ5.実行した結果を振り返る
生産性向上の取り組みを終えたら、忘れずに効果測定しよう。「やりっぱなし」で終わってしまうと、結局のところ生産性向上が実現したかどうかが分からず、中途半端な状態になってしまう。
理想の数字に達したか否かしっかり効果測定を行い、目標達成できなかった時は振り返ることが大切だ。振り返りをした上で再度目標を修正し、計画を立てて取り組む。この繰り返しによって、目標達成が可能となり、生産性向上が実現するだろう。
生産性向上の具体例7つ
生産性向上に向けてどんなことに取り組むべきかについては、多くの経営者が悩む部分だろう。ここでは、生産性向上の具体例を7つ紹介する。自社で取り組んだ場合、どんな効果があるかを想定しながら読んでほしい。
1.テクノロジーの導入
業務用チャットツールやタブレット端末など、テクノロジーの導入によって生産性向上を図る方法がある。ペーパーレス化を実現できれば、大幅なコスト削減も見込めるだろう。
テクノロジーを導入する際に注意したいのが、従業員のITスキルを十分考慮することだ。従業員が使いこなせない状況では、導入したテクノロジーが効果を発揮することはない。ITスキルに不安がある場合は、研修などもあわせて実施するようにしたい。
2.業務の可視化・標準化
業務の全体像を把握できていないことで、非効率が生じることがある。最近では業務を可視化できるソフト等も開発されているため、積極的に検討したい。業務を可視化することで、不必要な手順をカットしたりミスが起きにくい仕組みを作ったりでき、業務フローを見直すことが可能だ。
また、業務を標準化することで、一人ひとりの従業員の労働時間を大幅に削減できるケースも多い。これまで蓄積されてきたノウハウを活用しながら業務を標準化することで、商品・サービスの品質向上も見込める。また、新入社員の育成においても標準化は効果を発揮するだろう。
3.従業員のモチベーション向上
従業員のモチベーション向上は、インプットの削減とアウトプットの増加をもたらすことが多い。従業員がやりがいを持って働けるように、自社に合った形で評価制度や表彰制度を整備するようにしたい。
また、営業成績や商品の販売数、各部署のコストなどを見える化するのもおすすめだ。成果を出している従業員に報い、成果の出ていない従業員には適切なサポートを提供するようにしたい。
4.人材配置の見直し
適材適所な人材配置は、生産性向上に大きく貢献する。従業員の強みや個性を把握した上で、柔軟な配置転換ができる体制を整えておきたい。ジョブローテーションなどを実施して、従業員が自分自身の適性を知る機会を与えるのもいいだろう。
5.コア業務への集中
従業員の業務内容を精査し、本来注力すべき業務に集中できる体制を整えるのも効果的な方法だ。
まずは、職種や部署ごとに、本来注力すべきコア業務とそれ以外のノンコア業務を洗い出す。ノンコア業務の例としては、社内連絡、社内の申請手続き、書類や備品の管理などがある。職種によっては、資料作成等もノンコア業務に分類してもいいかもしれない。
その上で、1ヵ月から数ヵ月程度、コア業務とノンコア業務にそれぞれどのくらいの時間がかかっているかを計測する。実際に計測してみると、想像以上にノンコア業務の負担が大きく、残業につながっているケースも多い。
コア業務とノンコア業務を整理し、従業員がコア業務に集中できるようにすれば、生産性向上を実現できる。
6.アウトソーシング
ノンコア業務に関しては、パートやアルバイト等を活用するのも1つだが、アウトソーシング(外注)も積極的に検討したい。アウトソーシングなら採用コストがかからず、離職時の引き継ぎ不足による混乱なども生じにくい。また、人を雇う場合と比べて、業務量に応じて依頼しやすいのもメリットだ。
7.不採算事業からの撤退
生産性向上というと、労働時間の短縮や商品販売数の増加をイメージする経営者が多いだろう。しかし、事業別の売上や利益を把握して不採算事業からの撤退を選択するのも、インプットに対するアウトプットの比率を改善することにつながる。
赤字続きの不採算事業がある場合、撤退する勇気を持つことも大切だ。なお、撤退を決める前には、今後の市場の成長可能性や他の事業への影響なども十分考慮しておく必要がある。
生産性向上を成功に導くポイント2つ
生産性向上を実現させるためには、どのような点に気を付ける必要があるだろうか。ここでは、押さえておきたい2つのポイントを紹介する。
1.周りを巻き込む
生産性向上を成功に導くには、経営者や管理職が率先して動くことが大切だ。しかし、1人で孤軍奮闘しても、生産性向上は実現しない。周りを巻き込みながら、チームで生産性向上に取り組む意識を大切にしたい。
たとえば従業員に、現在の業務で「ムダ」と感じていることの洗い出しと改善策の提案をしてもらうといった方法が考えられる。従業員は、意見を求められることで当事者意識が芽生えるため、生産性向上という目標を共有しやすくなる。
ただし、意見を募るだけで実行が伴わず、改善につながらなければ、従業員のモチベーションはかえって下がってしまう。意見を募ったら、意見を出してくれた従業員を中心にプロジェクトチームを作り、期日を決めて改善に向けて具体的に動き出せるようにしたい。
2.成果は数字でチェックする
生産性向上を目指したとしても、実現したかどうかを判断する指標がないと取り組みが具体化しにくく、チームメンバーのモチベーションも上がらない。生産性向上を目指すなら、数字で成果を確認できるようにしておきたい。
あらかじめ、取り組み内容をもとに、計測する数字や生産性向上の効果測定方法を決めておくことが大切だ。
生産性向上を判断する指標2つ
生産性向上の効果判断には、判断指標が欠かせない。ここでは、役立つ2つの指標について解説する。
1.物的労働生産性
物的労働生産性は、「労働者1人あたりの生産量はどのくらいか」「労働時間に対して生産量はどのくらいか」を表す指標だ。「生産量」とは、生産するものの個数や重さなどの物量を表す。
物的労働生産性の計算式は次の通りだ。
労働者1人あたりの物的労働生産性=生産量/労働者数
労働時間に対する物的労働生産性=生産量/全労働者の労働時間
2.付加価値労働生産性
付加価値労働生産性は、「労働者1人あたりでいくらの付加価値を生み出せたか」「労働時間に対していくらの付加価値を生み出せたか」を表す指標だ。「付加価値」とは、売上高から原材料費や外注加工費、修繕費等を差し引いた値だ。粗利益と考えると分かりやすい。
付加価値労働生産性の計算式は次の通りだ。
労働者1人あたりの付加価値労働生産性=付加価値額/労働者数
労働時間に対する付加価値労働生産性=付加価値額/全労働者の労働時間
生産性向上を成功させた取り組み事例
生産性向上の取り組みについては、他社の事例が参考になる。ここでは、経済産業省の「中小サービス事業者の生産性向上のためのガイドライン」を参考に、実際に生産性向上に成功した中小企業の事例をピックアップして紹介する。
高齢者への「おもてなし」で売上増加に成功
大手量販店の進出で価格競争では勝ち残れない状況を打破するため、商圏を狭め、高齢者をターゲットにした。高齢者の「お困りごと(お使い、戸締り、洗濯物の取り込み、留守番など)」にきめ細かく対応することで、高価格でも納得して購入できるようブランディングした。
ユニークな買取方法と販売方法で集客と業務効率化を実現
古着ショップでブランド品は単品査定を行う一方、ノーブランド品は「販売しやすい商品・シーズン商品は1kg500円」など簡素化し、業務効率化に成功。毎週水曜に値下げする「逆オークション方式」によって、集客にも成功した。
ノウハウをe-ラーニングにして100拠点超の他地域展開
そろばんの独自カリキュラムをe-ラーニングシステムにし、直営教室・フランチャイズ教室103拠点を展開。引っ越しても他地域で同じ方式で学習を継続できるようにした。講師育成カリキュラム等も実施し、5年間で売上を1.7倍に伸ばした。
生産性向上で活用できる補助金や助成金
生産性向上に取り組むにあたっては、資金も必要になる。ここでは、中小企業が活用できる補助金や助成金を紹介する。いずれも、時期によっては終了している可能性があるため、公式ページを参考にしてもらいたい。
業務改善助成金:30~600万円
生産性向上のための設備投資等(機械設備、コンサルティング導入、人材育成・教育訓練など)を行い、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合、設備投資等にかかった費用の一部を助成。引き上げ額や引き上げ対象となる労働者数によって助成額は変動。
IT導入補助金:最大350万円
中小企業・小規模事業者が自社の課題やニーズに合ったITツールを導入した際に、導入経費の一部を補助。会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフト、ECソフト、PC・タブレット等、幅広いITツールが対象となる。ITツールによって、補助率は「2分の1、3分の1、4分の3」の3パターンがある。
生産性向上は企業価値を高める
企業として事業を継続し、変化の激しい時代を生き残るためには、常に企業価値の向上を目指す必要がある。生産性向上によって、少ないインプットでより多くのアウトプットを得られるようになれば、企業価値は向上するだろう。経営者として、生産性向上の視点は常に持っておくようにしたい。
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文・木崎涼