円安が止まらない。本来、円安は輸出を増やすため、企業の国内生産が活発になり日本経済にはプラスになると考えられている。しかし2022年3月から4月にかけて連日のように円安更新のニュースが流れ急速に進む今回の円安は、「景気悪化を招きかねない悪い円安」と言われている。
20年ぶりの円安で1米ドル128円台(4月25日現在)
2022年3月中旬から急速な円安・ドル高が進んでいる。同年4月13日には、1米ドル=126円台となり約20年ぶりの円安と報道された。しかしその後も円安は進み続け127円台、128円台、そして同年4月20日には一時1米ドル=129円台前半と2002年4月以来の円安水準まで下落。その後、急速に値上がりした米ドルの利益確定売りをして円を買い戻す動きも出た。
それにより1米ドル=128円台前半まで戻り、同年4月25日時点では128円前後を保っている。しかしこのところ円の値動きは大きい。2022年3月から4月の約1ヵ月半の間に10円以上値下がりする急速な円安が進んでいるのだ。これは、日米間における金融政策の方向性の違いによるものだろう。米国は、インフレ抑制のため金融引き締めを急ぎ、利上げの加速が見込まれている。
一方、日本は「コロナ禍から回復途上にある景気を下支えする必要がある」として、日本銀行が強力な金融緩和を粘り強く続ける。これが金利上昇を抑えこんでいる。1米ドル=128円台となった後の4月22日のニューヨーク市内での講演でも黒田日銀総裁は「2%の物価目標の達成には依然として距離がある」として、強力な金融緩和を続けていく方針を示した。
こうした違いは、日米の金利差のさらなる拡大を生じさせる。円を売ってより高い利回りが見込める米ドルを買う動きを増長するというわけだ。
円安で儲かる企業は?
円安は、エネルギーなど原材料の輸入コストを引き上げ企業収益や家計を圧迫するデメリットがある。価格高騰と合わせて、さらなる価格上昇を歓迎しない人は多いはずだ。一方で円安は、輸出企業の収益を押し上げるメリットもある。円安の恩恵を受ける企業の従業員は、賃金の増額などに期待が持てるだろう。ここからは、円安で儲かる企業の一例を紹介していく。
トヨタ自動車
2022年2月に発表した2022年3月期第3四半期(2021年4月から12月)決算では、サプライチェーン(供給網)の混乱により生産台数の計画を引きさげた。しかし営業利益は、為替変動の影響による増益分が4,450億円と円安が追い風となっている。2022年3月期通期の見通しでは、想定為替レートを110円から111円へと円安方向に見直した。
供給面や資源高騰などで先行きは予断を許さない状況だが、為替を円安に見直したことによる増益により販売台数の減少分をカバーし、約2兆8,000億円の営業利益を見込んでいる。
村田製作所
2022年2月1日、2022年3月期通期連結累計期間の業績予想数値を発表した。2022年3月期の連結売上高は、前回予想の1兆7,300億円から1兆7,700億円へと+2.3%、同純利益は2,710億円から3,020億円へと+11.4%の上方修正となった。家電やパソコン関連機器向けの電子部品で高水準な需要が続くことも見込むが、円安効果による利益の押し上げが大きい。
任天堂
任天堂も円安の追い風を受け2022年3月期通期連結累計期間の業績予想数値を上方修正した。半導体部品などの供給不足によるNintendo Switchハード生産への影響はある。しかし売上高は、前回予想の1兆6,000億円から1兆6,500億円へと+3.1%、同純利益(米国会計基準)は3,500億円から4,000億円へと+14.3%の上方修正。合わせて対米ドルでの想定為替レートを105円から110円に変更している。
ユニクロ柳井社長は円安のメリットはないと言及
自動車・鉄鋼・精密機器などでは、円安による恩恵を受けているが経済界では円安の行方を心配する声も多い。ユニクロの柳井社長は「円安のメリットは全くなく日本全国にとってデメリットばかり」と言及した。ユニクロ自体、海外の売上高が大きいため、円安は業績を押し上げる効果がある。しかし資源を輸入に頼る日本では、仕入れた原材料を加工し付加価値をつけて売るに過ぎない。
進む円安と原材料の高騰で様々な製品の値上げラッシュが続く。消費者の購買力が下がれば企業業績にも影響する。
この円安は悪い円安なのか
1米ドル=126円台となった後の2022年4月15日、鈴木俊一財務相は、現状の円安を「悪い円安と言える」と述べた。資源価格の高騰に伴う輸入物価の上昇に円安が拍車をかけているが、原材料価格の高騰による価格転嫁や賃上げが不十分な状況の中で円安が進んでいるとの見解だ。しかし本当に「悪い円安」なのだろうか。
繰り返しになるが本来円安は、製造・輸出の多い日本経済にとってプラスのはずだ。価格転嫁や賃上げが不十分というのは、日本が1990年代後半から続くデフレから抜け出せていないことが影響している。デフレ圧力が高まって内需が萎縮している状況では、内需に依存する業種はもとより国内外の需要をにらむ自動車業界なども設備投資に慎重にならざるを得ない。
政府の円安けん制発言が飛び出す一方で、黒田日銀総裁は「急速な円安はマイナス」と歩調を合わせながらも「日本経済全体としては円安がプラス」という基本的な立場を譲らない。ブレーキが効かない円安は、日米の金利差が要因であることは周知のとおりだ。しかし円安の良し悪しを問うよりもまずは、デフレから脱却するための抜本的な経済対策が必要なのではないだろうか。