いくらあればFIREできる? 必要金額をシミュレーション
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若いうちにリタイアし、投資資産で生活していくFIRE(ファイア)が注目されている。お金を稼ぐためにあくせく働くのではなく、長い人生をゆっくりと自由に生きていくことに憧れを持つ人は多いだろう。しかし、そのためにはいくら必要なのだろうか。

FIREとは

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字を取った造語で日本語に直訳すると「経済的な自立」「早期リタイア」という意味になる。若いうちに十分な資産を築いて引退し、引退後は投資収益によって自由に生きていく考え方だ。2008年のリーマンショックを経て米国のミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の間で広がった動きである。

日本でもその考え方が知られるようになりFIREを目指す人が増加傾向にある。「早期リタイア=アーリーリタイア」と直訳できるが一般的なアーリーリタイアとは少し異なる。従来の早期リタイアの生活資源は、基本的に貯蓄や退職金。これらを少しずつ取り崩しながら生活していくのが基本だ。人生100年時代と言われるほど長いリタイア後の生活を過ごせるだけの資金を貯蓄と退職金で賄う必要がある。

そのため早期リタイアといっても定年の年齢よりも少し前、50代の人くらいしか実現できないかもしれない。一方、FIREは「投資で得る収益で生きていく」考え方だ。相場の動きで投資資産は増減していく。しかし、資産を運用しながら配当収入や売却益といった運用益で生活するため、資産を取り崩すアーリーリタイアとは異なる。

資産運用の4%ルール

上述したようにFIREは投資収益で生きていく考え方だ。つまり年間の生活費に見合った投資収益が必要になる。仮に年間生活費が400万円の場合、最低でも年間400万円分の投資収益が必要ということだ。これを実現するための目安として米国で提唱されているのが「4%ルール」である。例えば1億円の運用原資があり4%で運用できれば年収400万円となり、それで生活できるというわけだ。

4%という数値の根拠は、以下のとおりだ。

  • 米国の一般的な株価の成長率(7%)-物価上昇率(3%)=4%

1998年に米トリニティ大学のグループによって発表された研究結果に基づいている。この研究結果は「毎年、資産運用額の4%未満を生活費としていけば、30年以上経過しても資産がなくなる確率は非常に低い」というものだ。もっとも、株価の成長率も物価上昇率も異なる日本で、米国と同じ「4%ルール」が当てはまるわけではない。

しかし、投資収益の範囲内で生活を続けることができれば、日本でもFIREの実現は可能だろう。

アーリーリタイアに必要な金額は?

米国の「4%ルール」に基づけばFIREを実現するための必要金額は、年間支出の25倍が目安となる。1年間分の生活費として資産運用額の4%を取り崩す場合の逆算値だ。例えば年間支出が400万円なら必要金額の目安は1億円、年間支出が300万円なら目安金額は7,500万円となる。とはいえ前述したように4%ルールを日本で適用するのは難しい。

日本は物価上昇率も異なれば社会保障も異なる。そこで日本版FIREが可能になる資金水準を計る方法を以下で紹介しよう。

  • (手持ち資産+見込まれる運用益)>(リタイアまでの給与+リタイア後の社会保険料+老後資金の不足額) 

リタイアした後に、加入する社会保険が変わる点は多くの人が見逃しがちだ。会社員である間は、給与から保険料が引かれているがリタイア後は自分で払わなければならない。リタイア後の資金設計で忘れてはならないポイントだ。また多くの場合、厚生年金から国民年金になることで保険料負担は軽くなる。

しかし65歳から受け取る年金額は下がり、万一の場合の遺族年金や障害年金の保障も下がるだろう。2019年に老後資金2,000万円問題が話題になったが、会社員時代に見込んでいた不足額よりもリタイア後の不足額は膨らむはずだ。ちなみにリタイア年齢が若いほどこの不足額は大きくなる。例えば以下のケースで試算してみよう。

  • 22歳で入社(国民年金は20歳で加入)
  • リタイアまでの平均標準報酬月額32万円(生涯平均年収384万円)
  • 国民年金は満額で受け取れると仮定

この場合、40歳でリタイアすると将来の年金額は約116万円、50歳では約137万円、60歳では約158万円、65歳リタイアなら約168万円だ。リタイア後の寿命は、人それぞれに異なる。仮に90歳まで生きるとすれば65歳で受給開始後25年分の資金不足を見積もっておかなければならない。40歳でリタイアの場合、年間生活費が400万円なら不足額は7,100万円{(400万円-116万円)×25年}となる。

もちろん65歳以後も運用収益を得られるなら不足額は少なくなる。国民年金保険料は、2022年4月時点で1ヵ月あたり1万6,590円。保険料額は、毎年見直しされるが将来もずっと変わらないとすれば年間19万9,080円の支出となる。40歳でリタイアし60歳まで加入するとすれば20年間で398万1,600円必要だ。

これらを合計したものとリタイアまでの給与に比べて手持ち資産と将来見込める運用益の合計が上回る水準となれば理論的にはFIREが可能だ。

FIREのリスク

FIREには、リスクも多い。FIREするまでの資金目安とFIREを実現した後の資金需要は、異なる可能性もあることは充分に考えておく必要があるだろう。当然ながら相場は上下するもので投資に確実なものはない。計画どおりに収益を得られるどころか資産が目減りすることもある。運用益が出なければ生活費を捻出するため目減りした資産を売却し、さらに手持ち資産が減少してしまう可能性もある。

もちろん将来のインフレリスクも考えておかなければならない。さらにいえばFIREのための必要資金額はリタイア後の生活費を基本としているが、旅行などの娯楽費や車の買い替え、将来の医療費や介護費、自宅のリフォーム費などは含まれていない。FIREを希望するなら本来現役として働く期間のことだけでなく生涯を全うするまでの期間を意識し費用計画を立てることが必要だ。そうやって考えると1億円あってもFIREは難しいかもしれない。

續 恵美子
著:續 恵美子
ファイナンシャルプランナー(CFP®)。生命保険会社で15年働いた後、FPとしての独立を夢みて退職。その矢先に縁あり南フランスに住むことに。夢と仕事とお金の良好な関係を保つことの厳しさを自ら体験。こうした経験をもとに、生きるうえで大切な夢とお金について伝えることをミッションとして、マネー記事の執筆や家計相談などを行う。
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