飲食店不振の中でも安定傾向の焼肉業界に和民や幸楽苑が参入
(画像=naka/stock.adobe.com)

新型コロナウイルス感染拡大により最も影響を受けたのは飲食店だろう。緊急事態宣言やまん延防止措置法などを受け、度重なる営業自粛を求められた。結果として、倒産した飲食関連企業も多い。

2022年4月時点ではまだコロナ収束には至っていないものの、日本も欧米諸国と同様に、コロナ禍で生活していくウィズコロナが一般化しつつあり、以前に比べれば少しずつではあるが飲食店の環境も良くなってきている。

しかし、同じ飲食店でも居酒屋などの場合は「今後もコロナ前のような状態に戻るのは難しい」という声も聞かれる。そんな中で注目されているのが「焼肉業界」だ。

2021年度の焼肉屋の倒産は18件

2021年度の飲食店の倒産件数は612件(負債額1,000万円以上)と全業界で最も多かった。度重なる緊急事態宣言やまん延防止措置法などの適用によって売り上げの見通しが立たない、いわゆる「あきらめ倒産」も増えている。

苦境に立たされた飲食業界だが、比較的倒産件数の少ない分野もある。それは焼肉屋だ。

焼肉屋の倒産件数は18件と店舗数の多い分野の割には少ないと言える。倒産件数が少なかったのは、一般の飲食店よりも換気がしやすくコロナ対策を徹底できるといった評判が立ったことも大きいかもしれない。

また、高級店はともかく大衆店であれば、調理を必要とするメニューが比較的少なく、専門的な技術を持った職人が少なくても運営できるメリットもある。そうした理由から昨今、他ジャンルの店舗を展開していた飲食店が焼肉屋を始めるケースが出てきている。

雇用調整助成金、感染拡大防止協力金などによる飲食店倒産の抑制

コロナ禍で多くの企業が倒産したが、実は2021年度の倒産件数は、過去の倒産件数と比較すると歴史的低水準だった。東京商工リサーチが発表した2021年度の全国企業倒産件数は、前年度比16.51%減の5,980件と1964年度(4,931件)以来57年ぶりの低水準だった。業績が良くなかった店が一気に廃業してしまったこともあるが、政府がしっかりとした補償を行ったことが大きな要因だろう。

雇用調整助成金や感染拡大防止協力金などを柔軟に支給したことで倒産件数を抑えることができたのかもしれない。

「居酒屋ワタミ」は「焼肉の和民」に

とはいえ、多くの飲食店は危機感を持っている。特に居酒屋は前述のとおり、「コロナ前のような集客は期待できない」と予想している企業が多い。

そうした中、居酒屋チェーン大手のワタミは、居酒屋業態から焼肉業態を中心にすると方針転換を発表した。2022年3月には全品429円以下に統一する施策を実施、大きく売り上げを伸ばしているとの情報もある。

近年は、値上げをする店が多くなってきているが、ワタミは全く逆の戦略をとっている。この戦略が吉と出るか凶と出るか注目したい。

幸楽苑ホールディングスも「焼肉ライク」を出店

1人焼肉の需要を見事に取りこんだ「焼肉ライク」が急成長している。焼肉ライクは一人一台の無煙ロースターを導入、個々の客が自分のペースに合わせて、好きな部位を食べることができる新感覚の焼肉屋だ。都心を中心に店舗が増えている。

幸楽苑は、2018年12月に焼肉ライクとフランチャイズ契約を締結。郊外モデル共同プロジェクトを発足した。

幸楽苑をよく利用している方であればわかるだろうが、幸楽苑は郊外ロードサイド立地を中心とした店舗が多い。一方、焼肉ライクを展開するダイニングイノベーションは都心出店のノウハウはあるが郊外出店のノウハウはなかった。焼肉ライクにとっても郊外店のノウハウを持つ幸楽苑と手を組むことで、新規顧客増を狙ったカタチだろう。

焼肉業界の今後はどうなる?

多くの企業が焼肉業界に参入しており、今後生き残るためには差別化が必要だろう。ワタミは、低価格戦略、ダイニングイノベーションは1人焼肉需要の取りこみと、各社それぞれの特徴を出している。コロナ禍の“優等生”である焼肉屋が今後どのような展開を見せるのか非常に楽しみだ。

文・渡辺智(1級FP技能士)

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