2022年に入ってから円安が加速し、多くの製品を輸入に頼る100円ショップ(100円均一/100均)も苦しい経営を迫られている。その背景には何があり、円安の他にどんな要因があるのか。業界の現状とともに、100円ショップ各社が実際に行っている対策を紹介していく。
円安による価格の高騰で経営が圧迫される
100円ショップが苦しくなっている要因のひとつが円安だ。
輸入コストは円高になるほど下がり、円安になるほど上がる。2022年4月20日には、約20年ぶりに1米ドル=129円台まで円が下落した。この急激な円安と連動して輸入コストが大幅に上がっている。また当面円安が止まる気配は見られず、輸入コストも高止まりの状態が続くと予想される。
円安による輸入コストの増大で100均が苦境に立たされている
この状況に、輸入への依存度が高い企業が頭を悩ませている。商品の大半を海外から輸入している100円ショップは、その代表格と言えるだろう。長年100円ショップ業界は、円高による輸入コストの安さを追い風に大量の海外商品を格安で輸入してきた。それが薄利多売でも経営が好調だった要因の一つだ。しかし、円安による輸入コストの増大によって苦境に立たされている。
原油高・人件費増加・キャッシュレス化も経営を圧迫
100円ショップを苦しめている要因は他にもある。
1.原油高による製造コストの上昇
かねてから続く原油高で燃料コストや原材料コストが大幅に上昇している。100円ショップ各社は、原油高による経営の悪化を企業努力で抑えてきた。しかし、上述したように急激な円安でさらに燃料コストや製造コストが上昇し、苦しい経営を迫られている。
2.海外拠点の人件費増加
海外拠点の人件費の増加も経営を圧迫する要因のひとつだ。100円ショップの多くは、人件費が安い中国や東南アジアに海外拠点がある。しかし近年は、それらの地域で人件費が上昇しており、安い報酬だと人が集まらない。その結果、報酬を上げざるを得なくなり人件費が増加している。
3.キャッシュレス決済手数料の負担増
キャッシュレス決済手数料の負担増も各社に重くのしかかる。国内では、キャッシュレス化が着々と進んでおり、100円ショップでもキャッシュレス決済を導入する店舗が増加している。しかし、キャッシュレス決済は、決済業者に払う手数料(決済手数料)が発生する。薄利多売の業界には重い負担となっている。
100円ショップ大手4社の対応
まず大手4社の対応を紹介しよう。
ダイソー
業界最大手のダイソーでは、高額商品へのシフトが進み、2,000円以上の商品の販売もスタートさせた。また、「300円ショップ」(Standard Products、threepy、PlusHeart」も展開しており、既存の300円ショップとしのぎを削っている。他にも「セブンイレブンとの提携(店内でダイソー商品を販売)」「マロニエ銀座店(グローバル旗艦店)のオープン」など、他企業との提携や自社のブランド化も進めている。
キャン★ドゥ
2022年1月5日からイオングループ傘下となったキャン★ドゥ。イオングループの経営は好調で2022年2月期(決算期)は、営業収益、営業利益、経常利益ともに前年同期を上回り、営業収益はコロナ前の過去最高となる8兆7,000億円台となった。キャン★ドゥはそのブランド力を活用して集客力向上を目指し、同時にコスト削減などにも着手している。
ワッツ
ワッツも1,100円の高額商品などを販売しており、今後その傾向が強まる可能性が高い。また運営するショップブランド「ミーツ」や「シルク」をすべて「ワッツ」に統一し、ブランド力のアップで集客力を高めている。さらに雑貨店チェーン「BuonaVita(ブォーナ・ビィータ)」など100円ショップの枠を超えた業務形態の店舗も構える。
セリア
唯一、100円商品にこだわるセリアの経営は、意外と堅調だ。最新の決算短信(2022年3月期 第3四半期)は売上高、営業利益、経常利益ともに前年同期を上回っている。おそらく100円商品にこだわることで他社との差別化に成功しているのだろう。もう一つの要因としてキャッシュレス決済の導入が限定的な点が挙げられる。
セリアでは、決済手段が「現金のみ」などと限定する店舗が多い。そこで決済手数料を抑えていることもプラス要因だろう。ただし、今後さらに円安が加速すれば高額商品の取り扱いを開始するかもしれない。
ローカル100円ショップの対応
ここではローカルな100円ショップ2社の取り組みを紹介する。
レモン
静岡に本拠を置くレモンは高額商品を扱いつつも、100円商品の充実度で他社との差別化を図っており、特に食品が充実している。また他店で売れ残った高額な食品を大量に仕入れて50~100円で販売しており、それを目的とした来客も多い。現金決済のみである点も特徴的だ。
さらにいったん廃止した「消費税ゼロの日」を再開して、集客力を上げるなどの企業努力も行っている。
ダイコク100円均一
大阪が拠点で地方にも店舗展開する「ダイコク100円均一(高額商品あり)」は、「税込み100円」の価格設定でファンを獲得。母体となる「ダイコクドラッグ」の店舗に「ダイコク100円」の店舗を併設し、ドラッグストアの買い物客を取り込むことに成功した。
また、100円商品を10点買うと11点目が無料になる「10の日」を開催するなど、独自のサービスも実施している。
円安が加速する中で100円ショップが生き残るためには
商品の多くを輸入品に頼る100円ショップは、円安の加速で大きな岐路に立たされている。それに伴い各社は、以上で挙げたような対策で生き残りを図ろうとしている。
ただ今後、より一層円安が進めば、さらに苦しい経営を迫られることになる。それを回避するために、商品の値上げや高額商品の販売が進行すれば、100円ショップとは名ばかりの、品数豊富な“ただの雑貨店”となるかもしれない。
文・大岩楓