中国企業、米上場本格解禁か? 一方で大手IT企業に「絶対服従」を強いる共産党の意図
(画像=Engdao/stock.adobe.com)

アリババ、テンセントが出資する上海の工業製品eコマース、ZKHインダストリアルサプライの米新規上場(IPO)計画が、 中国証券監督管理委員会(CSRC)から承認を受けた。配車アプリ滴滴出行(Didi)の米上場以来、約9ヵ月ぶりとなる。

これにより、中国当局の取り締まりと企業監査を巡る米国との膠着状態がようやく緩和され、中国企業の米上場が本格的に解禁されるのではないかとの期待が高まっている。

「工業製品のAmazon」ZKH、米上場目標額は最大約756億円

サウスチャイナ・モーニングポスト紙によると、CSRCは3月27日に行われた ZKHとのオンライン会議で「(米上場計画について)異議はない」と述べ、本土企業の海外上場が「スムーズ」なプロセスであり続けることを保証したという。

「工業製品のAmazon」 をうたい文句とするZKH(Zhenkunxing)は、1998年に上海で設立された工業用メンテナンスや修理、運用製品のB2Bオンラインマーケットプレイスだ。

過去7回 の資金調達ラウンドで、ジャック・マー氏が共同設立した上海の未公開投資企業、雲鋒基金(Yunfeng Capital)やテンセントなどから、総額6億9,930万 ドル(約880億6,639万円)を獲得した。今回の米IPOはゴールドマン・サックスなどの支援のもと、3億~5億ドル(約377億8,052万~755億6,302万円)の調達を目指す。

実現すれば、2021年6月の滴滴出行のニューヨーク証券取引所上場以来、2番目に米上場を果たす中国企業となる。先陣を切って2022年2月にナスダックに上場したのは、使い捨て医療機器メーカー、美華国際医療技術(Meihua International Medical Technologies) で、3,600万ドル(約45億3378万円)を調達した。

複数の中国企業が米上場申請中

ZKHの米IPOがとりわけ注目されている理由のひとつは、中国企業にとって久しぶりの大型上場となるためだ。

美華国際医療技術を含め、2月14日までに少なくとも数社の中国企業が米上場の申請を米国証券取引委員会(SEC)に行った、とロイターは報 じている。いずれも、調達目標額100万~3,500万 ドル(約1億2,595万~44億836万円)の比較的小規模なIPO計画であることから、中型~大型IPOを計画している中国企業は、新たなオフショア上場規則が明確になるのを待っているのではないかと推測されていた。

しかし、ZKHの上場をCSRCが承認したことにより、低迷していた中国企業による米上場の風向きが大きく変わる可能性がある。

1月にIPO目論見書草案をSECに提出した保険ブローカー、恒広保有 (Hengguang Holding)の張樹林会長は、「米中の規制当局は、我々のような法を遵守する企業が上場を通じてより大きく、より強く成長できることを望んでいると思う」と語った。同社は今年後半にナスダック上場を通じて、最大1,960万ドル(約24億6,809万円)の調達を目指している。

事情に詳しい関係者2人によると、 両国の規制当局はそれぞれの懸念を十分に認識しており、可能な限り早急に問題を解決できるよう懸命に取り組んでいるという。具体的には、CSRCが中国に拠点を置く企業の監査書類について、国家機密や個人識別番号などの機密情報を中国財務省が確認した後、米国公開会社会計監視委員会が閲覧できるシステムの導入を検討している。

大手IT企業、数万人規模の大量リストラか?

しかし一方では、アリババやテンセント、滴滴出行などの中国大手ITへの圧力は依然として続いており、これらの企業は数万人規模の大量リストラの選択肢に迫られている。

滴滴出行が米上場後、わずか5ヵ月で上場廃止の手続きに追い込まれたことは記憶に新しい。同社はさらに2022年3月、準備を進めていた香港証券取引所への上場中断を余儀なくされた。香港上場にあたり 、同社は中国当局から個人情報管理システムの改革を要請されていたが、サイバースペース管理局(CAC)により同社のセキュリティー保全やデータ漏えいに向けた提案が不十分だと判断された。

アリババとテンセントの時価総額は、3月15日までの13ヵ月で合計約1兆ドル(約125兆9,762億円)減少した。両社は中国当局の「徹底した規制強化」に対処するため、年内に合わせて数万人の人員削減を行う準備をしているとの話も浮上している。

アリババは全従業員の15%以上 にあたる約3万9,000人、テンセントは全従業員9万4,000人のうち、特にビデオストリーミングと検索部門で10〜15%の削減を予定している。ECサイト、JD.comもコミュニティ・バイイング部門の従業員約4,000人のうち、10〜15%削減すると報じられている。

大手IT企業に「絶対服従」を強いる共産党

最新の標的となっているのは、アリババのフィンテック(FinTech)子会社アントグループ だ。同社は汚職捜査の対象として浮上しており、中国当局は同社と国営銀行、企業との癒着について捜査を進めているとブルームバーグ紙が報じた。

アントグループは独占禁止法規制を遵守するため、3月にニュースポータル、36Krホールディングス の全株式を売却したばかりだ。

政府の脅威となるリスクが低いと思われる企業の海外進出を促進する一方で、独禁法や個人情報保護法などを立て続けに投入し、中国共産党は巨大IT企業を追い詰めている。その徹底した封じ込め戦略から、すでに脅威を感じさせるまでに成長した巨大企業の勢力を分散し、絶対服従させようとする意図が見え隠れする。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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