独占交渉権とは? 役割や優先交渉権との違い、記載する契約書などを解説
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M&Aにおいて、複数の買い手候補が売り手と交渉を行う。その際、重要な役割を果たすのが独占交渉権だ。今回は、独占交渉権のM&Aにおける役割を中心に解説していく。独占交渉権と優先交渉権の違いや、記載する契約書についても触れているので、あわせて参考にしてほしい。

風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

目次

  1. 独占交渉権とは?
    1. 独占交渉権の概要
    2. M&Aにおける独占交渉権の役割
    3. 独占交渉権と優先交渉権の違い
    4. 独占交渉権の注意点
  2. 独占交渉権と基本合意書の関係
    1. 独占交渉権は基本合意書に記載される
    2. 基本合意書に独占交渉権が記載される理由
  3. LOIと独占交渉権
  4. M&Aを成功させるには独占交渉権が鍵を握る
  5. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

独占交渉権とは?

独占交渉権の概要をおさらいしつつ、M&Aにおける役割や優先交渉権との違い、注意点などを解説する。

独占交渉権の概要

独占交渉権とは、特定の買い手1社だけが売り手と独占的に交渉できる権利だ。買い手が独占交渉権を有していると、売り手はほかの候補と接触・交渉できない。

独占交渉権を持つ買い手からすれば、競合他社に売り手企業を横取りされる心配がなくなる。その一方で、あまりにも長期間に及ぶ独占交渉は、売り手が別候補の有利なオファーを逃す原因にもなり得る。

そのため、独占交渉権が設定される期間は、一般的に2ヵ月前後のケースが多いのだろう。

M&Aにおける独占交渉権の役割

売り手市場ともいわれる近年のM&Aにおいて、1つの売り手に対して複数の買い手が手をあげる構図は日常的になっており、決して珍しいことではない。

このような状況では、売り手が有利になり、条件の良い買い手候補といつまでも交渉を行うことができる。したがって買い手側からするとせっかく最終的な合意まで取り付けたのに、条件のよい別の買い手に横取りをされてしまった、というような事態が起こり得る。

そのようなケースにおいても、独占交渉権は大変有効な役割を果たすことになる。すなわち、独占交渉権があれば、他の買い手を排除した状態で“独占的”にM&A交渉を行うことができるからである。

M&Aの買い手側としては、独占交渉権の効力が有効な間に最終契約を締結しなければならない。なぜなら、次に交渉を控えている別の買い手候補が次々と売り手と交渉を始めることになり、その結果、売り手と別の買い手候補との間でM&Aの合意がおこなわれてしまうという事態が起こり得てしまうからである。

そのため、買い手側は売り手に対してできる限り有利な条件を盛り込んで独占交渉権を設定したいという意図が働くことになる。

一方、売り手にとっては、あまりにも長期間に及ぶ独占交渉権は、別の買い手候補からの有利な条件でのオファーを受け取る機会を逃すことにもつながるため、独占交渉権が長期に及ぶような期間設定には慎重になる傾向がある。

これらを踏まえると、独占交渉権が設定されることになる期間は、M&Aプロセスのうち、「基本合意書」を締結してから買い手側がデューデリジェンスを行い、その結果を受けて、最終契約を締結するまでの期間とされることが多くなるのである。

独占交渉権と優先交渉権の違い

M&Aプロセスにおいて利用される権利として、優先交渉権を利用することがある。優先交渉権とは、複数の買い手が存在する場合に、そのうちの数社が、売り手との間で、他の買い手よりも優先してM&Aの交渉を行うことができる権利のことをいう。

優先交渉権は、その名称の通り、“優先的”に交渉することができる権利であるため、優先交渉権を持っていない他の買い手候補先よりは交渉上有利となるが、同様に優先交渉権を持っている買い手同士の間には特段の優劣があるわけではない点注意が必要だ。

「独占交渉権」を持っている買い手であれば、売り手と一定の期間内は、“独占的”に交渉を行うことができるのに対して、優先交渉権だけしか持っていない買い手候補は、売り手が同じタイミングで別の買い手候補と交渉を進めても止めることはできない。

たとえば、買い手候補としてA社とB社がいたとしよう。A社が独占交渉権を持っていれば、一定期間にわたって売り手と独占的に交渉できる。A社が優先交渉権のみを持っている場合、売り手はA社だけでなくB社とも交渉できる。

このように、独占交渉権と優先交渉権は、似ているようで権利の内容が異なる。交渉の有利・不利に影響を及ぼす事柄なので、違いを理解しておきたい。

独占交渉権の注意点

独占交渉権の効力が有効な間に最終契約を締結しないと、別の買い手候補が売り手と交渉を始める。その結果、別の買い手がM&Aの合意を行う事態も起こり得る。

また、売り手が独占交渉権の合意に違反して、別の買い手候補との交渉に応じてしまった場合、売り手は買い手から法的な責任を問われる。

仮にペナルティがなかったとすると、独占交渉権の実質的な価値がなくなってしまう。独占交渉権を付与する場合、契約書で法的拘束力を持たせることがとても重要だ。

独占交渉権と基本合意書の関係

基本合意書とは、売り手と買い手が合意したM&Aの基本条件を記した契約書だ。英語表記の略称でMOU(Memorandum Of Understanding)と呼ばれることもある。

基本合意書により、売り手と買い手は互いの意思を確認する。そのため、基本合意書の締結はM&Aの進展にかかわる重要なプロセスだといえよう。ここからは基本合意書と独占交渉権の関係について詳細を確認してみたい。

独占交渉権は基本合意書に記載される

独占交渉権は基本合意書に記載される。基本合意書が作成されるタイミングについて、M&Aのプロセス全体から今一度確認しておきたい。

下記のフロー図の中央にある「基本合意」のフェーズで基本合意書が締結される。

独占交渉権とは? 役割や優先交渉権との違い、記載する契約書などを解説

基本合意書には、独占交渉権を含めて以下のような項目が記載される。

【基本合意書の主な記載事項】

・M&Aの対象企業
・M&Aの手法
・買収価格
・契約の期限
・デューデリジェンスに関する基本的事項
・今後のスケジュール
・従業員及び役員の処遇
・独占交渉権
・秘密保持契約
・法的拘束力の範囲 など

基本合意書に独占交渉権が記載される理由

基本合意書の締結がなされた後、買い手企業はM&Aの売り手等を対象として、デューデリジェンスとよばれる調査を行うことになる。

デューデリジェンスは、ビジネス、法務、会計、税務などについて行われることが一般的だ。デューデリジェンスによって、買い手は売り手の状況を直接的に確認することができ、どのようなM&Aスキームにすべきか、また、適切な譲渡価額はどのくらいであるかについて検討・把握することができる。

そのため、買い手側にとってデューデリジェンスを有効に行うために基本合意を行うことが重要であり、その中でも独占交渉権は重要な役割を果たす。

もし、独占交渉権の記載がないまま基本合意をした場合、買い手がデューデリジェンスを行っている最中にもかかわらず、売り手が有利な条件を求めてほかの買い手と交渉できる。通常のデューデリジェンスでは、買い手が多額の費用を負担する。売り手から逃げられると大きな損害が生じかねない。したがって、買い手がデューデリジェンスで失敗しないために、基本合意書における独占交渉権の果たす役割は大きい。

LOIと独占交渉権

LOIとは、意向表明のことだ。英語表記(Letter of Intent)の頭文字をとってLOIと略して使われることが一般的だ。LOIの内容は案件ごとに異なるが、一般的なM&Aでは独占交渉権を含めた条件項目が記載されることが多い。

LOIには、独占交渉権を認めるかどうか、認めるとした場合にはどの程度の期間とすべきか、などが記載されることになり、その後の交渉にも重要な影響を及ぼすことになるため慎重に決定することになる。

LOIを提出しないまま基本合意を行うケースもあるため、状況に応じた判断となる。

M&Aを成功させるには独占交渉権が鍵を握る

M&Aの交渉は、あくまで双方の意見をすり合わせるコミュニケーションである。よほどの条件や事業環境でない限り、一方的な意向だけがまかり通ることはない。ただ、強気の交渉も必要になってくる。その際、独占交渉権を上手に利用することがM&Aを成功させる鍵となろう。

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文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

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