2022年3月15日、美術品の価格データバンクであるArtprice.comは、市場調査レポート「2021 Global Art Market Report」を公開した。本レポートは、ファインアートの世界オークション売上を分析したものだ。(分析対象期間:2021年1月1日〜2021年12月31日)

70ページを超えるレポートから、2021年の特徴として特筆すべき点を7つのポイントで紹介する。(為替レートは2021年の平均レートである1USD=111円で計算。)

目次

  1. 1) パンデミックの継続にもかかわらず、アートオークション市場は2020年比で60%増加
  2. 2) 2021年は中国が米国をリード。日本もトップ10にランクイン
  3. 3) コンテンポラリーアートが大きく躍進
  4. 4) 2021年にオークションで最も成功したアーティストはピカソ、バスキア、ウォーホル
  5. 5) 存命中のアーティストで最も成功したのは、ゲルハルト・リヒターとバンクシー
  6. 6) 若いアーティストが次々と記録を更新(「レッドチップ」現象)
  7. 7) NFTの市場が急拡大。写真の市場を上回る

1) パンデミックの継続にもかかわらず、アートオークション市場は2020年比で60%増加

2021年のアートオークション市場の特徴は?
(画像=2021年のアートオークション市場の特徴は?)

画像出典:https://www.artprice.com/

世界のアートオークション売上高は約1.9兆円 (170.8億ドル) に達し、2020年比で60%増となった。これは、パンデミック以前の2019年も上回る結果だ。世界各地のオークションで交換された作品数は29%増の663,900ロットとなり、過去最高を記録した。売れ残り率は、主にオンライン販売の影響で31%に縮小している。

この回復の原動力となったのは、主要な名画がオークション会場に戻ってきたことと、あらゆる価格帯で取引が継続的に行われたことと考察されている。

2) 2021年は中国が米国をリード。日本もトップ10にランクイン

美術品オークションの総売上高のうち、約6,600億円 (59億5000万ドル;世界全体の35%)を中国が占め、約6,400億円 (57億9000万ドル;同34%)の米国の売上を上回った。健康危機により中国では取引件数が激減(-40%)したにもかかわらず、売上は微増(+2%)している。

一方、アメリカ市場は、高頻度で多様な商品を提供しており、取引件数は中国の2倍の138,000ロットとなっており、世界のアート・オークション取引の20%以上を占めている。

韓国と日本は、ともに過去最高の業績を達成。両国とも世界のマーケットプレイスのトップ10にランクインした。とりわけ、韓国は販売ロット数が2,700に満たなかったにもかかわらずランクインしている点で特徴的だ。

※「2021 Global Art Market Report」の数値を元に作成
(画像=※「2021 Global Art Market Report」の数値を元に作成)

3) コンテンポラリーアートが大きく躍進

世界のファインアート売上高の内訳
(画像=世界のファインアート売上高の内訳)

出典:https://www.artprice.com/

オールドマスター・アート(2019年比 19%増)、モダンアート(4%増)、戦後美術(15%増)の市場はいずれもパンデミック以前の水準に戻ったが、最もダイナミックな変化のあったカテゴリは、1945年以降に生まれたアーティスト(コンテンポラリーアート)だった。

2021年、コンテンポラリーアートが生み出した111,240ロットの販売で、約3,200億円 (29億ドル;2019年比49%増)。これは、売上高、数量ともに歴史的なパフォーマンスだ。20年前には美術品市場の3%に過ぎなかった「コンテンポラリーアート」は現在、世界のファインアートオークション売上高の17%を占めている。

4) 2021年にオークションで最も成功したアーティストはピカソ、バスキア、ウォーホル

※「2021 Global Art Market Report」の数値を元に作成
(画像=※「2021 Global Art Market Report」の数値を元に作成)

2021年、ピカソ、バスキア、ウォーホルが世界のオークションで最も成功したアーティストとなった。

特に、2021年に約3,400ロットが販売されたピカソは、最も希少性の低い版画の1,000ドルから、その年の最高の結果を出した1億ドル超まで、すべての価格帯で最も売れたアーティストだ。約744億円 (6億7,100万ドル) の収益を上げた。2020年の同数の取引では約272億円 (2億4,500万ドル) を記録していたが、この値を大幅に上回ったこととなる。

また、草間彌生が史上初めて女性として売上高世界トップ10アーティストにランクインしたのも特筆すべき点だ。2021年には1億7800万ドルの売上を記録している。その作品の価格指数は、なんと20年で963%も増加している。

Yayoi-K草間彌生の作品価格指数 20年間で+963%となったusamas-price-index.jpeg
(画像=草間彌生の作品価格指数 20年間で+963%となった)

出典:https://www.artprice.com/

5) 存命中のアーティストで最も成功したのは、ゲルハルト・リヒターとバンクシー

画像出典:https://www.artprice.com/
(画像=画像出典:https://www.artprice.com/)

画像出典:https://www.artprice.com/

ゲルハルト・リヒターとバンクシーは、2021年にオークションにおいて世界で最も成功した存命中のアーティストとなった。バンクシーは1,186点の作品が総額約229億円 (2億600万ドル) で落札されている。

インスタグラムのフォロワーが1,100万人を超えるバンクシーは、現代で最も人気のある生きたアーティストであるだけでなく、地球上で最も成功しているアーティストでもある。彼の売上は5年間、指数関数的に伸びている。

2021年の間に、バンクシーのオークション記録は何度か更新された。まず、≪Game Changer≫が約25.8億円 (2,320万ドル) を記録。その数ヵ月後、シュレッダーで切り刻まれた作品 ≪Love Is in the Bin≫ が約28.2億円 (2,540万ドル) に達した。裁断される前の価格の20倍近くにまで高騰したのだ。

6) 若いアーティストが次々と記録を更新(「レッドチップ」現象)

マシュー・ウォン、サルマン・トゥール、エイブリー・シンガー、アモアコ・ボアフォといった1980年以降に生まれた、いわゆる「レッドチップ」アーティストたちが国際的に大きな成功を収めている。時代の象徴でもある彼らの作品は、アメリカ、ヨーロッパ、アジア等、世界のコレクターたちから熾烈な争奪戦が繰り広げられている。

1975年以降に生まれたアーティストトップ10には、日本人アーティストのロッカクアヤコもランクインしている。

7) NFTの市場が急拡大。写真の市場を上回る

画像出典:https://www.artprice.com/
(画像=画像出典:https://www.artprice.com/)

画像出典:https://www.artprice.com/

Beeple、Pak、Larva Labs、YUGA LABSら、NFTアーティストたちは2021年にアートオークション市場に初めて登場した。NFTが初めて正規の美術品オークションで落札されたことは、非常に大きなインパクトを与えた。

これらのデジタルアート作品は出品点数279点と非常に小さなニッチ市場でありながら、約258億円 (2億3,200万ドル) を売り上げ、写真市場(出品点数22,000点、約158億円 (1億4,200万ドル))を上回った。

2021年3月には、≪The first 500 days≫という作品が、わずか約11,100円 (100ドル)の開始価格から約76.9億円 (6,930万ドル) という価格まで高騰して落札され、NFTブームの火付け役となった。作者のBeepleは、ギャラリーにも展覧会にもオークションにも縁が無く、これまでアートマーケットでの存在感は皆無だったが、Instagramでは数百万人のフォロワーを有していた。Beepleは、ジェフ・クーンズ、デイヴィッド・ホックニーに次ぐ、現存する3大アーティストとして、まったく予期せぬ成功を収めた。

NFTが2021年の美術界に与えた歴史的影響を、Artpriceでは、ヨハネス・グーテンベルクの活版印刷技術がルネッサンス期の芸術に与えた影響になぞらえている。この技術のおかげで、アーティストたちは初めて自身で本を印刷することができるようになり、芸術家の手に権力が大きく移った。私たちは今、同じようなパラダイムシフトを経験しているようだ。

参考)Artprice 2021 Global Art Market Report

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文:ANDART編集部