資金調達で悩まされやすい起業家にとって、補助金・助成金は心強い制度である。そこで本記事では、起業時に知っておきたい制度や審査のポイントなどをまとめた。申請にあたってはいくつか注意点もあるため、デメリットやリスクと合わせて確認していこう。
目次
そもそも補助金・助成金とは?
補助金・助成金とは、世の中の企業や経営者をサポートする目的で、主に国や自治体、企業などが実施する金銭的支援のことだ。補助金と助成金は同じものと思われがちだが、両者には以下のような違いがある。
いずれの支援も原則として返済は不要だが、受給するには特定の要件を満たす必要がある。例えば、補助金では指定された設備の導入や、産業の発展につながる具体的な取り組みが要件に含まれるケースが多い。
中には要件が厳しい制度もあるが、補助金・助成金の受給には以下のようなメリットがある。
審査が実施される制度では、第三者から事業に関するアドバイスを受けられる場合もある。つまり、審査に落ちてもメリットを得られる可能性があるので、要件が厳しいものであっても補助金・助成金の利用は積極的に検討したい。
給付金との違い
補助金・助成金と混同しやすいものに、給付金と呼ばれるものがある。給付金は要件ではなく「対象者」によって支給対象が決められており、受給にあたって特別な取り組みが必要になることはない。
例えば、新型コロナウイルスの影響で支給された「持続化給付金」は、前年同月比で収入が半分以上減少した事業者を対象としていた。ほかにも細かい条件はいくつかあるものの、設備の導入や雇用といった新たな取り組みは原則として不要である。
補助金・助成金を実施する4つの機関
補助金・助成金を実施する機関(団体)は、大きく4つに分けられる。実施機関によって制度の傾向は変わるため、ここからは各機関の概要や特徴を紹介していこう。
経済産業省
経済・産業の発展を管轄する経済産業省は、主に中小企業を対象とした補助金制度を実施している。代表的な制度としては、「ものづくり補助金」や「IT補助金」などが挙げられるだろう。
経済産業省の補助金制度は、中小企業や地域活性化のサポートを目的としたものが多い。したがって、設立直後の企業や地域経済との関わりが強い企業であれば、さまざまな制度の受給要件を満たせる可能性がある。
ただし、基本的には公募での募集となるため、申し込み期間が短い傾向にある。また、予算が設定されている制度も多いので、経済産業省の補助金には早めに申し込むことが重要だ。
厚生労働省
労働環境や福祉などを管轄する厚生労働省は、人材育成や雇用促進などに関する補助金・助成金制度を実施している。「キャリアアップ助成金」や「人材確保等支援助成金」などはその代表例であり、支給金額は数十万円ほどではあるものの、企業が利用するメリットは大きい。
ほかにも、シニア人材や障害者の雇用、特定地域での若年層の雇用など、さまざまなタイプの制度が実施されている。全体としては雇用に関するものが多いため、新たに従業員を雇う場合は実施中の制度をチェックしておこう。
地方自治体(都道府県、市区町村)
都道府県や市区町村の中には、独自の補助金・助成金制度を実施している自治体も存在する。主な目的は地域の活性化であり、全体的にユニークな制度が多い。
例えば、東京都港区が実施する「ホームページ作成支援事業補助金」は、コンテンツ制作やホームページ開設などを対象とした支援制度だ。サーバー代やプロバイダー契約料なども補助対象であり、IT化に取り組む中小企業をさまざまな角度からサポートしている。
ただし、自治体は予算に左右されやすいため、地域によっては補助金・助成金がほとんど実施されていないケースもある。また、支援制度の実施目的にも違いが見られるので、本社や支店を構えている自治体の情報は細かく調べておきたい。
民間の企業や団体
民間企業や公益団体には、独自に補助金・助成金を支給しているところも存在する。
例えば大手自動車メーカーである三菱は、地域活性化や社会貢献などを目的としてさまざまな財団を立ち上げている。代表的なものとしては「三菱みらい育成財団」や「三菱UFJ技術育成財団」などがあり、これらの財団を通して全国の企業を支援している。
いずれも公的な支援ではないが、制度によっては大企業からの経営指導やアドバイスを受けられる可能性もある。金銭面以外のメリットも大きいため、特に大企業が実施している制度はこまめにチェックしておこう。
中小企業や起業におすすめの補助金・助成金
ここからは、中小企業や起業に役立つ補助金・助成金制度を紹介する。「起業・雇用・事業」の3つのジャンルに分けているため、目的に適したものを見極めていこう。
起業に役立つ補助金・助成金
・1.創業支援等事業者補助金
創業支援等事業者補助金は、産業競争力強化法に基づく形で中小企業庁が実施している制度だ。起業時にかかる経費を補助してもらえる制度であり、新たに創業するすべての人が対象に含まれている。
補助限度額(1,000万円)も大きい魅力的な制度だが、公募期間が短い点には注意したい。令和元年分の公募期間は5月中旬~6月中旬の1ヶ月であり、この期間を逃すと同年内での利用はできなくなる。
なお、2020年以降は支給されていないが、以前から「地域創造的起業補助金」や「創業補助金」として実施されていた制度なので、新たに公募が始まることを想定してこまめに情報をチェックしておきたい。
・2.事業承継・引継ぎ補助金
事業承継・引継ぎ補助金は、親族内承継やM&Aによって経営者を交代する企業を対象にした制度である。新規の創業は対象外だが、新事業や新分野への進出が補助対象に含まれるため、「第二創業」を目指す後継者に適している。
補助上限額は事業承継のスキームによって異なり、M&Aでは最大750万円、それ以外では最大450万円の補助を受けることが可能だ。人件費や設備費、材料費などさまざまな経費が対象となるため、事業承継の予定がある企業はぜひチェックしておきたい。
ただし、公募期間が約1ヶ月と短いため、毎年の実施期間はこまめに確認しておこう。
・3.創業助成事業(東京都)
創業助成事業は、起業してから5年以内の事業者や、起業予定の人を対象にした東京都の制度だ。人件費や広告費などさまざまな経費が対象であり、最大300万円までの補助を受けられるため、採択されれば起業時の負担を大きく抑えられる。
また、助成対象期間(交付決定日から最長2年)が長めに設定されている点も、この制度ならではのメリットと言える。この期間内であれば、ほかにも賃借料や専門家指導料などの助成を受けられるので、東京都で起業する場合は積極的に利用しよう。
雇用に役立つ補助金・助成金
・4.キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用者のキャリアアップを目的とする厚生労働省の制度である。「正社員化コース」や「賃金規定等共通化コース」など全7種類のコースが用意されており、労働者の属性や雇用形態などによって適用されるコースが異なる。
この制度の魅力は、アルバイトやパートタイマーに関する取り組みも補助対象に含まれる点だ。そのほか、契約社員や派遣社員、障害者に関するコースもあるため、新たに人材を雇う場合は支給要件を満たせる可能性が高い。
・5.雇用調整助成金
新型コロナウイルスによる影響を受けた場合は、厚生労働省が実施する雇用調整助成金の利用を検討したい。この制度では、事業の縮小を余儀なくされた場合に、最大で1日15,000円(従業員1人あたり)の助成を受けられる。
もともとは2021年6月までの制度だったが、新型コロナウイルスの収束が遅れている影響で、2022年2月現在でも募集がかけられている。状況次第では今後も継続される可能性があるので、引き続き実施情報をチェックしておこう。
なお、申請にあたっては出勤簿やタイムカードなども必要になるため、関連資料はしっかりと保管しておくことが重要だ。
・6.人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、労働者のキャリアアップを目的として実施されている制度だ。従業員のキャリア形成のために以下のような取り組みを行うと、1事業所につき年間最大1,000万円までの助成を受けられる。
・教育訓練休暇制度の規定
・職業訓練の実施
・中小企業における担い手の育成
なお、この制度では「特定訓練コース」や「一般訓練コース」など複数のコースが用意されており、申請するコースによって支給額や要件が変わってくる。また、対象となる職業訓練も細かく規定されているため、申請前には各コースの詳細をしっかりと確認しておこう。
・7.両立支援等助成金
自社の従業員に世帯持ちが多い場合は、両立支援等助成金による支援を受けられる可能性がある。この制度は、仕事と育児などの両立をサポートするものであり、以下のような取り組みを行った企業に対して助成が行われている。
・育児目的休暇制度の導入
・育休取得の推進
・介護休業取得の推進 など
支給金額は取り組み内容によって異なり、例えば男性の育休取得を促進する「出生時両立支援コース」では、従業員1人あたり最大72万円の助成を受けることが可能だ。ほかにも、仕事・介護の両立を支援する「介護離職防止支援コース」などが用意されており、従業員の職場復帰も助成対象に含まれている。
事業に役立つ補助金・助成金
・8.ものづくり補助金
ものづくり補助金は、以下のような製品開発に取り組む中小規模事業者をサポートしている制度である。
・革新的な製品やサービス
・デジタルトランスフォーメーションにつながる製品やサービス
・温室効果ガスの排出削減に資する製品やサービス
補助上限額は製品・サービスの種類によって異なり、例えばイノベーション創出につながる「ビジネスモデル構築型」では、最大1億円までの補助を受けられる。他分野についても、基本的には数百万円〜数千万円の補助金が支給されるため、採択されるメリットは大きいと言えるだろう。
また、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」では、雇用拡大に取り組む事業者に対して補助が行われている点も魅力的なポイントだ。
・9.IT導入補助金
IT導入補助金は、企業のITツール導入をサポートしている制度だ。デジタルトランスフォーメーションの推進を主な目的としており、業務に係るITツールを導入することで最大450万円の補助を受けられる。
また、新型コロナウイルスの蔓延による影響を受けて、最近では「低感染リスク型ビジネス枠」が新たに設けられた。この枠では、テレワークなどにつながるITツール導入を支援しており、通常枠よりも補助率を引き上げる形で補助金が支給されている。
IT化を進める企業にとっては魅力的な制度だが、業種によって資本金・従業員に関する要件が異なる点には注意しておきたい。
・10.事業再構築補助金
事業再構築補助金は、中小企業の新分野展開や業態転換、事業再編などを支援している制度だ。小規模事業者から中堅企業まで幅広い企業が対象であり、事業の再構築に関する取り組みを行うと、最大1億円の補助を受けられる。
ただし、申請にあたっては3~5年分の事業計画書を、認定経営革新等支援機関からアドバイスを受ける形で策定しなければならない。また、新型コロナウイルスをきっかけに新設された制度なので、売上減少に関する要件も満たす必要がある。
・11.小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、従業員20名以下の小規模事業者をサポートするための制度である。対象の事業は限定されているものの、開発費や広報費などさまざまな経費が補助対象となるため、採択されると大きなコストカットにつながる。
ただし、申請にあたっては商工会議所または商工会から助言を受ける必要があり、経営計画も提出しなければならない。受給までに手間がかかる制度ではあるが、専門家の意見を聞きながら経営改善にも取り組めるので、金銭面以外のメリットも感じられるだろう。
ちなみに、要件を満たせば個人事業主でも利用できるため、ケースによっては起業前の段階から補助を受けることも可能だ。
補助金・助成金にもデメリットはある?利用時の注意点
補助金・助成金は魅力的な制度だが、実は利用にあたっては注意しておきたい点もある。特に以下で挙げる点はデメリットにもつながるので、申請の準備を始める前にしっかりと確認しておこう。
1.申請準備に手間がかかる
最も注意しておきたいデメリットは、書類作成などの準備に手間がかかることだ。制度によっては会社概要をまとめた申請書だけではなく、事業計画書や財務諸表などの提出も求められる。
また、要件を満たすための準備が必要になることも忘れてはいけない。特に労働環境や雇用環境に関する制度では、準備期間だけで数ヶ月かかるケースもある。
あまりにも手間がかかる制度を選ぶと、周りに負担が溜まったり本業が疎かになったりなどの弊害が生じるので、基本的にはスムーズに申請できるものから検討していこう。
2.審査に落ちる制度もある
万全の準備を整えたからと言って、必ずしも補助金・助成金を受給できるとは限らない。特に、予算や採択数が少ない影響で審査が行われる制度では、準備にかけた手間や努力が報われないこともある。
準備のすべてが無駄になるわけではないが、多くの手間をかけるほど審査に落ちるダメージは大きい。また、補助金・助成金の受給を想定して事業計画を立てていた場合は、プランの全体的な修正も必要になってくる。
審査に落ちることは珍しい話ではないため、特に審査が厳しいと思われる制度に申請する際は、受給できなかった場合のプランも用意しておこう。
3.入金までに時間がかかる
補助金・助成金は原則として「後払い」であり、申請からすぐに現金を受け取れるわけではない。入金までに1ヶ月以上かかる制度もあるため、急を要する資金調達には適していないだろう。
それでも短期的なつなぎ資金として利用したい場合は、銀行などの融資と組み合わせることが必要だ。直近の必要資金を融資によってカバーすれば、補助金・助成金の支給まで経営をもたせることができる。
採択の可能性を上げるには?補助金・助成金の審査のポイント
補助金・助成金制度の準備では、審査の傾向を押さえて申請書類を作成することが重要になる。制度によって細かい基準は異なるが、ここからは特に意識しておきたい審査のポイントを解説する。
1.実現可能性は高いか
どんなに魅力的なビジネスプランがあっても、実現可能性が低ければ外部からは評価されない。つまり、実現可能性の高さは前提条件であるため、ほかのポイントよりも強く意識することが重要だ。
ビジネスプランの実現可能性は、主に売上予測などのデータや、申請者本人の熱意(実績や経歴など)によって判断される。特に数値などのデータは細かく確認されやすいので、根拠のない情報は記載しないように心がけよう。
2.独創的な事業内容か
次に意識しておきたい点は「事業の独創性」だ。すでに他社が行っている事業や、ありふれたビジネスモデルなどは基本的に評価されにくい。
また、斬新な商品・サービスだけではなく、事業内容に「工夫が見られるか?」も重視されやすいポイントになる。ただし、独創性に強くこだわり過ぎると、前述の実現可能性が下がってしまう恐れがあるので、うまくバランスを取りながらビジネスプランを考えていこう。
3.多くの収益を期待できるか
どのような事業も、一定の収益がなければビジネスとしては成り立たない。事業を立ち上げること自体は可能だが、継続できないビジネスは評価されないため、「事業の収益性」にもこだわる必要がある。
事業の収益性を高めるには、ターゲット層を明確にし、根拠のある売上予測を立てることが重要だ。また、実施スケジュールやリスク管理なども評価対象に含まれる可能性があるので、ビジネスプランは細かい部分まで突き詰めたい。
4.資金調達の目途は立っているか
前述でも解説したように、補助金・助成金は支給までに時間がかかるため、これらの受給だけで事業を進めることは難しい。つまり、別の資金調達方法を用意していなければ、そのビジネスプランは実現可能性が低いことになってしまう。
特に創業直後は資金調達面で悩まされやすいので、補助金・助成金の申請準備を始めると同時に、融資を受ける準備も進めることが必要だ。融資はどのみち必要になるため、補助金・助成金の申請時期に関わらず、できるだけ早めに準備を始めておこう。
補助金・助成金の申請準備は早めに取りかかろう
現在ではさまざまな補助金・助成金制度が実施されており、なかには大きな資金調達につながる制度も存在する。ただし、基本的には細かい要件が設けられているので、申請に向けた準備は早めに始めることが重要だ。
補助金・助成金にはデメリットも潜んでいるため、本記事で解説した内容を見返しながら、申請する制度は慎重に選んでいこう。