起業アイデアの考案は、多くの起業家が悩まされるポイントだ。新規性や市場規模、経営資源などを踏まえて練る必要があるので、この段階でつまずく経営者は少なくない。本記事では起業アイデアの狙いどころや考え方の基本を、成功事例とともに解説していく。
目次
起業にアイデアは必要?
現代ビジネスの成功者と聞くと、多くの方は「斬新なアイデア」や「優れたビジネスモデル」などをイメージするだろう。そのイメージの通り、革新的なイノベーションや技術を生み出す成功者は、魅力のある起業アイデアをもっているケースが多い。
他社の模倣によって成功をつかんだ経営者も存在するが、そのようなビジネスを選ぶと必然的に競合が増えてしまう。したがって、市場を独占できるような大きなビジネスチャンスを掴みたいのであれば、早い段階からアイデアを考えておくことが望ましい。
起業アイデアの狙いどころとは?
起業アイデアを考える前に、まずは「どのターゲットや市場を狙うのか?」を明確にしなければならない。最初に方向性を定めておくと、全体のプランやビジネスモデルにもブレが生じにくくなるので、主な狙いどころを確認していこう。
現時点で競合の少ない分野
最初に意識しておきたい狙いどころは、「競合の少ない分野」だ。競合が少なければ多くのシェアを獲得できるため、自然とビジネスとしての安定感が高まる。
近年の例としては、シェアビジネスや仮想通貨(暗号資産)、サブスクリプションビジネスなどが挙げられるだろう。ただし、現代は起業や市場参入のスピードが速いので、競合が増えているペースも確認しておく必要がある。
参入しづらいニッチな分野
競合をできるだけ減らす手段としては、「ニッチな分野」への参入も検討したい。特にビジネスとして成熟していない業界を選べば、経営資源が少なくても市場を独占できる可能性がある。
ただし、いくらニッチな分野を選んでも、そもそも需要がなければビジネスは成り立たない。前例が少ないということは、事業に失敗するリスクが高いことを意味するため、より質の高いビジネスモデルを用意する必要があるだろう。
すでに海外で流行している分野
起業アイデアがなかなか浮かばない場合は、海外で流行している分野に目を向けてみてほしい。特に先進国で成功を収めているビジネスは、日本に持ち込んでも成功する可能性があると考えられる。
ただし、海外ビジネスの模倣は資金があれば行えるので、短期間で競合が急増するリスクもある。先行者しか利益を得られないケースも珍しくないため、海外ビジネスに目をつけるのであれば、とにかく早く行動に起こすことが重要だ。
起業アイデアを考える視点とは? 5つの方法
起業アイデアを見つけるには、普段とは違った視点で社会や物事を見る必要がある。どのような視点をもつとアイデアが浮かびやすくなるのか、ここでは具体的な方法を紹介していこう。
1.自分のニーズや不満からヒントを得る
最も手っ取り早いのは、自分のニーズや不満からヒントを得る方法だ。例えば、日常生活を過ごしている中で、以下のように感じたことはないだろうか。
・こういう商品やサービスがあったら便利なのに
・この商品のこういう部分が使いづらい
・○○をサポートしてくれる商品がほしい
上記のようなニーズや不満は、いずれも起業アイデアにつながる可能性がある。中でも、ニーズを満たす商品像がはっきりとしているものは、それを形にするだけでビジネスになる。
日常生活からヒントを得られることは珍しくないため、普段からアンテナを張って「不便だ」「使いづらい」と感じるものをできる限り発見していこう。
2.時代や社会のニーズから発想する
大きなビジネスチャンスを手にしたい場合は、「時代や社会のニーズ」にも目を向けたい。今がどのような時代なのか、周りが何を必要としているのかを敏感に察知すれば、社会から求められている商品・サービスを思いつく可能性がある。
例えば、2019年末から蔓延した新型コロナウイルスにより、日本ではテレワークや巣ごもり需要が増えた。その影響で、最近ではメタバース関連のサービスが次々と登場しており、自宅にいながら観光を楽しめるサービスなどが注目されている。
ただし、流行やブームは短期間で過ぎ去ることもあるので、「10年、20年と続けていけるビジネスか?」については慎重に見極める必要がある。
3.複数のビジネスを組み合わせる
真新しい起業アイデアが浮かばない場合は、複数のビジネスを組み合わせることも考えてみよう。既存ビジネスの特徴を掛け合わせると、以下のように新たな価値が生まれる場合もある。
既存ビジネスをもとにしているからと言って、アイデアの斬新さが失われるわけではない。上記のスマートフォンや電気自動車などは、いずれも時代を変える大きな発明と言えるはずだ。
複数要素の組み合わせはアイデアの基本なので、これを機に身の回りのさまざまなビジネスを組み合わせてみよう。
4.ターゲットを絞る
起業アイデアがなかなか浮かばない方には、既存ビジネスのターゲットを絞る方法がおすすめだ。商品・サービスの特徴が似ていても、ターゲット層を狭くすることでビジネスとして成り立つ場合がある。
本格的な少子高齢時代を迎えた日本では、特に「高齢者専用○○」や「シニア向け△△」といった商品・サービスが多く見受けられる。ただし、高齢者を狙ったビジネスは競合も多いため、性別や地域、趣味などでターゲットを絞ることも検討しよう。
5.得意分野や好きなことを追求する
実は、自分の得意分野や好きなことを追求するだけでも、起業アイデアに結び付くことがある。具体例としては、興味があるものを動画化しているYouTuberや、SNSでよく見られる特定分野のアドバイザー(カウンセラー、専門家)などが挙げられる。
しかし、特技や趣味をビジネスにすると、思い切った方針転換ができなくなるリスクもある。好きなことだからと言って成功するとは限らないので、ビジネスとして取り組む領域は慎重に見極めたい。
成功事例から学ぶ起業アイデアのポイント
実際の成功者は、どのような視点で起業アイデアを考えているのだろうか。ここからは5つの事例を交えながら、起業アイデアを成功に結び付けるポイントを解説していく。
【事例1】バイク旅と新婚旅行をきっかけに生まれた都市型八百屋/アグリゲート
株式会社アグリゲートは、都市と産地をつなぐ都市型八百屋を運営している企業である。この八百屋は、アメリカで270以上の店舗を展開する「ホールフーズ・マーケット」をアレンジしたものだ。
ホールフーズ・マーケットの特徴は、こだわった商品を取り扱っているものの、構えていない雰囲気が大衆を呼び込んでいる点にある。アグリゲートの経営者は、新婚旅行で訪れた際にこの点に魅力を感じ、日本風にアレンジをして都市型八百屋を開業した。
農業ビジネスを始めた元々のきっかけは、バイク旅をしている時に若年層がいない田畑を見て、「なんとかしなければならない」と不安を感じたことだったようだ。ビジネスの種はどこに転がっているのか分からないため、プライベートも含めて常にアンテナを張っておくことが重要になる。
【事例2】ドライバー不足の解決にもつながるIoT宅配ボックス/PacPort
株式会社PacPortが提供する「IoT宅配ボックス」は、荷物の再配達を不要とする自動受取型の宅配ボックスだ。この製品が誕生した背景には、現代における生活スタイルの変化がある。
スマートフォンやパソコンが広く普及した影響で、最近では多くの消費者がネット通販を活用するようになった。また、オンライン決済やQRコードなどが広まったことにより、非接触(非対面)の取引も増えつつある。
IoT宅配ボックスはまさにこの時代背景を活かした製品であり、ドライバー不足の解消にも役立っている。市場のニーズに加えて社会問題の解決にまで結びついている点は、ぜひ参考にしておきたいポイントだ。
【事例3】社会問題からヒントを得た野菜工場/フェアリーエンジェル
社会問題から起業アイデアに結びつけるケースは、ほかにも多く見受けられる。
例えば、株式会社フェアリーエンジェルの経営者は、あるときに訪れた諸外国で食糧難や環境破壊を目の当たりにした。この経験をきっかけに、以下のような国内の社会問題を改めて認識したようだ。
・農業従事者の高齢化
・非効率な農業生産や天候不順
・食に対する安全安心志向の強さ
フェアリーエンジェルはこれらの問題を解決するために、土を使わない水耕栽培ができる野菜工場を建設した。世界中でSDGsの重要性が叫ばれるいま、社会問題の解決につながるビジネスは多方面から注目される可能性が高い。
【事例4】「海外トレンド+安全性」の組み合わせで生まれた代替肉/ネクストミーツ
東京都に本社を構えるネクストミーツ株式会社は、主に代替肉の商品開発を行っている企業である。同社は、すでに欧米などで話題になっていた代替肉に目をつけて、いち早く日本の市場に取り入れた。
ネクストミーツのビジネスは、単に海外のトレンドを模倣しただけではない。食への安全意識が高い日本人のことを意識して、誰でも安心して食べられる「無添加代替肉」の開発を成功させている。
つまり、同社の代替肉は複数の要素(代替肉+安全性)を組み合わせた商品であり、その発想は見事に功を奏した。同社の時価総額は2021年1月時点で4,400億円を記録し、今もなお成長スピードの速い企業として注目されている。
【事例5】複数の視点から誕生したネット専用のパン屋/イコールコンディション
前述で紹介した視点を、2つ以上使って成功を収めた起業アイデアも存在する。
株式会社イコールコンディションは、実店舗ではなく自社サイト(recette)でパンを販売している企業である。「パン屋+ネット通販」を組み合わせたサービスであり、各商品のページには味や原料、レシピなどの細かい説明が記載されている。
また、各商品に最高級の原料が使われている点も、イコールコンディションならではの工夫だ。全体的に価格は高めだが、この独創的なコンセプトによって高級志向のファンを効果的に集めている。
起業アイデアはどうまとめる? ビジネスモデルへの落とし込み方
起業アイデアを形にするには、明確なビジネスモデルになるまで落とし込む必要がある。アイデアだけで事業を成功させることは難しいため、ビジネスモデルへの落とし込み方も合わせて確認しておこう。
【STEP1】ビジネスモデルにするアイデアを絞る
すべての起業アイデアをビジネスモデルにすると労力がかかるため、まずは以下のポイントを意識しながら候補となるものを絞っていく。
現時点では明確にならないポイントもあるため、このプロセスでひとつの候補に絞る必要はない。ビジネスモデルにしてから比較することも可能なので、上記のポイントから明らかに外れているアイデアのみ候補から除外しよう。
【STEP2】コンセプトを設定する
次は、候補として残った起業アイデアのコンセプトを設定する。大まかなコンセプトはすでに考えているかもしれないが、このプロセスではより具体的な事業コンセプトを設定することが重要だ。
上記の4つを決めると、起業アイデアを一言で表せるようなコンセプトが浮かびやすくなる。コンセプトは事業の魅力を決定づけるものなので、曖昧で漠然としたものではなく、各要素を丁寧に突き詰めながら設定していこう。
【STEP3】競合優位性を明確にする
多くのニーズを見込めるビジネスであっても、強力な競合が現れると風向きは一気に変わる。そのため、どのような競合が現れても対処できるように、各アイデアの「競合優位性」も明確にしておく必要がある。
競合優位性を把握するには、将来も含めてどのような競合が存在し、「どの部分に自社ならではの強みがあるのか?」を見極めることが重要だ。自社の強みについては、競合が抱えている課題や弱みに着目すると見極めやすくなる。
【STEP4】実現する方法を考える
ここまで滞りなく進んだ起業アイデアは、魅力的なものである可能性が高い。ただし、商品・サービスを提供できる環境がなければ、アイデアはそのまま夢物語で終わってしまう。
実はアイデアを形にする際に、最もつまずきやすいポイントがこのプロセスである。したがって、ビジネスを実現する方法については、以下のように細かい部分まで設定しなければならない。
各項目を設定した結果、最終的に「実現可能性が低い」と判断したアイデアは、この段階で切り捨てることを検討しよう。
【STEP5】収益モデルを明確にする
収益モデルとは、ビジネスに関わる資金・収益の流れを構造化したものである。この段階で具体的な売上予測を立てる必要はないが、少なくとも以下の点は明確にしておかなくてはならない。
・商品やサービスに対して顧客が感じる価値
・顧客が対価として支払うもの(会社にとっての収益源)
・ビジネスを進める上で発生するコスト(仕入れ費、テナント費、販管費など)
収益モデルでは、あくまで金銭的な収益源となる商品・サービスのみを対象にすることが重要だ。例えば、弁護士などが提供している無料相談はサービスの一部ではあるものの、実際の依頼がなければ利益にはつながらない。
この点を勘違いすると、無料で提供する商品・サービスのウェイトが大きくなり、ビジネスモデル全体の収益性が下がってしまう。宣伝のために必要なケースもあるが、理想とする収益に届かないと判断した場合は、無料で提供する範囲を狭めることも考えよう。
【STEP6】事業の継続性を判断する
ここまで進んだら、最後に事業の継続性(いつまで続けられるか?)を判断する。継続性を見極める際には、事業を進めていく上で蓄積されるノウハウや知識などを加味することが重要になる。
そのほか、顧客や市場のデータ、状況によってはブランド力なども蓄積されていくだろう。事業を通して蓄積される武器が多いほど、事業の継続性は高くなっていく。
起業の失敗を避ける3つのコツ
ベンチャー企業の生存率は創業5年後で15%、20年後で0.3%ほどと言われている。つまり、起業を成功させる難易度は非常に高く、大半の起業家は失敗を経験していることになる。
失敗の経験が成功へとつながるケースもあるが、多くの起業家は「1回目から成功したい」と感じているはずだ。では、起業の失敗を避けるには、どのような点を意識してビジネスを組み立てれば良いのだろうか。
1.常に客観的な視点をもつ
主観的な視点で考えた起業アイデアは、失敗するリスクが非常に高い。商品の魅力やニーズなどを自分本位で判断すると、そのほとんどが根拠のないデータになってしまうためだ。
したがって、起業アイデアやビジネスモデルを考える際には、常に客観的な視点を意識する必要がある。いつの間にか主観的な考えになってしまう場合は、以下のことを試してみよう。
・消費者の立場になって物事を判断する
・家族や友人など、周りの人に起業アイデア(ビジネスモデル)を見てもらう
・ビジネスコンテストなどに参加し、客観的に評価してもらう
・SNSなどを利用し、関連する商品やサービスを利用しているユーザーの声を拾う
上記のほか、競合の強みや弱みを分析することも客観的な視点につながる。特に実際の数値データと比較すると分かりやすいので、競合他社のリサーチには十分な時間をかけることが重要になる。
2.資金繰りがうまくいかないパターンも想定しておく
起業直後の企業が倒産する要因は、その大半が資金不足と言われている。ビジネスが軌道に乗るまで安定した収益は見込めないため、それまで事業を続けられるようにまとまった資金を用意しておかなくてはならない。
しかし、特に実績のない企業や経営者にとって、資金調達を安定させるハードルは高い。起業家をサポートする創業融資なども存在するが、融資実行までに1ヶ月ほどかかるケースもあるので、こういった支援制度だけでやり繰りをすることは難しいだろう。
したがって、アイデアをビジネスモデルへと落とし込む際には、資金繰りがうまくいかないパターンも用意しておく必要がある。「資金が足りないときにどうするか?」や「急な出費をどこから捻出するか?」などを考えておけば、いざ資金トラブルが発生してもすぐに動き出せるはずだ。
資金に関するプランは希望的な観測になりやすいため、理想のパターンだけを基に行動を始めることは控えておきたい。
3.ビジネスモデルや事業計画は柔軟に修正する
当初の目的や目標を達成することは重要だが、それにこだわり過ぎると変化に対応できなくなってしまう。そもそも、ビジネスの世界には多くの変動要因があるため、市場やニーズの状態が変わったらすぐに軌道を修正することが必要だ。
例えば、2019年以降から蔓延している新型コロナウイルスは、各業界に大きな影響を及ぼしている。飲食店の営業時間が短縮されたことで、テイクアウトや配達サービスを始める店舗が増えたことは記憶に新しい。
ほかにも、短期的なブームや経済情勢、政府の方針などによっても市場・ニーズの状態はコロコロと変わる。当初から全く同じ形で数十年続けられるビジネスは少ないため、普段から市場の変化を敏感に察知し、こまめにプランを修正する癖をつけておこう。
質の高いビジネスモデルを構築することが重要
起業アイデアは意外と身近なところに潜んでおり、アンテナを張るだけで思いつくことがある。また、複数のビジネスを組み合わせるなどのテクニックを使えば、さらに多くのアイデアを生み出せるはずだ。
ただし、起業アイデアは形にすることが難しく、ビジネス化にたどり着いても失敗するケースが多い。失敗のリスクを抑えるには、ビジネスモデルの段階から細かく煮詰めておく必要があるだろう。
最後に紹介したコツも参考にしながら、起業アイデア・ビジネスモデルの成功率を少しでも高めてほしい。