自動車業界における「2022年の10大ニュース」の1つに選ばれるかもしれない。ソニーとホンダが提携して新会社を設立し、2025年にEV(電気自動車)を発売すると発表した。EVシフトの潮流を意識した動きだ。しかし、EV業界はすでに群雄割拠の時代である。勝ち筋はあるのか。
ソニーとホンダがEVの新会社を設立へ
はじめに、ソニーとホンダが発表した内容について最初に整理しておこう。2022年3月、両社は「新しい時代のモビリティとモビリティサービスの創造」を目的として、戦略的提携に向けた協議を進めることを合意したと発表した。
「協議を進める」という表現にとどまってはいるものの、今後両社でどのような取り組みを進めていくのか、その具体的な内容についても明らかにされている。
まず、2022年中に新会社を設立する計画で、その後、その新会社でEVの初期モデルを2025年に発売する予定だという。新会社ではEV自体は製造せず、製造はホンダに任せ、新会社は車両の企画・設計・開発・販売などを担うことになるそうだ。
モビリティサービスも開発する。サービスの展開プラットフォームはソニー側で開発・構築し、新会社に提供するスキームになるという。
EV業界はすでに「群雄割拠」の時代
いま、世界的にEVシフトが進んでいる。自動車が環境に与える負荷を軽減しようという世界的な方向性が背景にあり、欧米や中国など各国政府はEVに補助金を出し、EVの普及に努めている。
そんな中、すでにEV業界にはEVメーカーの強者が存在する。特に注目なのが、米テスラ(Tesla)社である。イーロン・マスク氏が率いる同社は製造能力を年々高め、販売台数は右肩上がりの状況だ。投資家からの注目度の高さから、すでに時価総額はトヨタやGMを抜いている。
このほか、アメリカや中国にはEVの新興メーカーが多数存在する。ソニーとホンダが設立する新会社は、これらの先行勢に勝てるのだろうか。
最強のライバルとなるのが米テスラ
テスラの2021年10~12月期の決算は、市場予想を大きく上回る結果だった。売上高は前年同期と比べて65%増の177億1,900万ドルとなり、純利益は23億2,100万ドルに達した。この純利益の金額は前年同期の8倍以上だ。
2021年通年のEV販売は、2020年と比べて87%増の93万6,222台だった。特に中国での販売が伸びており、すでにアメリカでの販売台数を抜いているとみられている。
テスラがこのように販売台数を伸ばしていけるのは、同時に生産能力を急ピッチで増強しているからだ。アメリカと中国に工場を持っているほか、年内にも新たな工場がドイツのベルリンで稼働し始める予定である。
新興ベンチャーの存在も軽視できない
アメリカと中国の新興ベンチャーの存在も軽視できない。アメリカ勢で言えば、リビアン・オートモーティブ(Rivian Automotive)とLucid Motors(ルシード・モータース)、中国勢で言えば、NIO(蔚来集団/ニオ)やXpeng(小鵬汽車/シャオペン)、Li Auto(理想汽車/リ・オート)などが挙げられる。
これらの新興ベンチャーの中には、生産能力を高め、販売台数を堅調に伸ばし続けている企業が少なくない。例えばNIOに関しては、納車台数は四半期ベースで2万台を突破し、売上高が右肩上がりだ。すでにノルウェーに展開しており、2022年中にほかの欧州5ヵ国に進出する計画を明らかにしている。
ベンチャー企業の場合、会社の所帯が小さいことから、スピード感を持って事業を拡大していきやすい。ソニーとホンダはこのような新興ベンチャーのスピード感を上回ることはできるのだろうか。
このような中でも「勝ち筋」はある
こう書くと、ソニーとホンダの新会社は「お先真っ暗」に感じるかもしれないが、一概にそうとは言えない。ソニーの強み、そしてホンダの強みを融合できれば、世界のEVメーカーたちのシェアを奪っていくことは十分可能だ。
特に、ソニーの強みが重要となる。ソニーは「エンターテインメント」や「通信」などの分野にめっぽう強い。そのため新会社が発売するEVは、車内でさまざまなコンテンツを楽しめる「コネクテッドカー」的な性格が強い車両になるかもしれない。
もちろん、EV車両そのものの航続距離などのスペックも非常に重要だが、それ以外の車内で快適にすごすための機能も差別化できる要素になることは間違いない。そしてEVを自動運転化させれば、ソニーの強みはさらに生きてくる。運転手だった人が運転から解放され、車内でエンタメを楽しめる時間が増えるからだ。
最近はEVに注目が集まっているが、全車両に占めるEVの販売割合はまだ低い。そのためEVメーカーによるシェア争いが本格化するのはまだまだこれからで、ソニーとホンダのタッグにも勝者となる可能性は十分に残されている。さて、どうなるか。
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)