M&Aコラム
(画像=M&Aコラム)

日本とASEANのM&A件数は、2019年~2020年にかけて新型コロナの影響で成立件数が半分以下になりました。2021年については件数が大幅に増加しておりますが、依然としてコロナの影響が残っており2019年の水準までは戻っていません。
今回は、2020年の新型コロナ発生から、日本とASEANのクロスボーダーM&A市場では実際にはどのようになっていたのかについて現場の目線から解説したいと思います。

新型コロナ初期

新型コロナが世間的に認知され問題になったのは2020年初頭になります。
この時、進行中のクロスボーダーM&A市場では、ほぼ全ての案件で検討が一旦凍結されました。
新型コロナによりビジネス環境が激変する事が予測されますが、その影響度合いが誰にも分からなかったからです。その為、新型コロナ前のビジネス環境を基として導き出された企業評価価値が意味をなさなくなってしまいました。その結果、各業界・企業への影響度合いがある程度分かるまで当面の間、検討・交渉が延期・凍結されるという事態に陥りました。

新型コロナ中期

新型コロナ発生からおよそ半年後、各国のロックダウンが一段落し、コロナ禍でのビジネス環境の見通しがある程度分かってきた段階で、少しずつではありますがようやくクロスボーダーM&A市場も動き出しました。
コロナ前に検討を進めていた案件については、一部の例外的なケースではコロナ禍でも新たな条件交渉等を経て正式に契約まで進みましたが、延期・凍結とされていたほぼ全ての案件は正式に検討取りやめ・破談となりました。
この空白期間およびコロナ前案件の破談が、2020年の急激なM&A件数減少の主要因となります。

一方で、逆張りの発想でコロナ禍だからこそ攻めの経営をするべきだと考えた企業も一定数あり、彼らによって新しい案件がスタートし始めたのもこの時期となります。

現場の印象としても、確かにコロナ禍だからこそ普段であれば売却を検討しないような優良企業がM&Aを検討しはじめ、また企業評価価値もコロナ前に比べて安くなっており、買手にとって投資余力があるならば非常に検討しやすい時期だったと考えています。

コロナ後期、そしてこれから

別のブログ記事「新型コロナが変えた海外M&Aのスタンダード」にもある通り、新型コロナは海外M&Aのやり方を大きく変えました。
Webツールを活用することにより、初期検討のハードルが非常に下がりました。また、検討に必要なリードタイムも大幅に短縮する事ができています。勿論、まだ全ての企業の海外への投資意欲が戻っているわけではありませんが、海外M&Aを検討している企業は日々多くなっているというのが現場からの印象です。

一方で、海外M&A市場環境としては新型コロナの影響を受けて投資側が検討しやすい買手市場となっていた環境が、2022年のどこかの時点で、今度は売却側がより交渉力を持つ売手市場に代わると予測されています。
M&A市場は需要と供給のバランスがあり、一定周期で買手市場・売手市場と環境が変わっていく市場です。環境が変わるタイミングで企業評価価値の水準や案件の発掘のしやすさも変わっていきます。

一般的に売手市場になれば平均的な企業評価価値の水準が上がり、優良な案件を探す難易度が上がってしまうため、今後検討を始める材料の一つとして考慮されてみてはいかがでしょうか。

著者

M&Aコラム
西井 正博(にしい・まさひろ)
Nihon M&A Center Singapore(シンガポール現地法人)
Managing Director(代表取締役)
2008年日本M&Aセンターに入社。入社以来、一貫して中堅・中小企業M&Aを担当。2016年シンガポール国立大学のMBA課程修了後、シンガポールオフィスの設立に携わり、以降は東南アジアの中堅・中小企業と日本企業の海外M&A支援に従事。これまで30件以上の国内外M&A支援実績を持つ。
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