すでに2022年が始まって早3ヶ月。もうすぐ今年度も終わりにさしかかり、新たな門出を迎える人も多いかもしれない。
THE OWNERでは今年度にヒットした記事を振り返る特集を企画。今年度話題を呼んだ「自動車業界」の動向について振り返る記事をピックアップした。EVシフトや自動運転化によって、自動車業界は大きな変革を求められている。
急速なEVシフトに対応するため、本田技研工業は2040年までに100%EVシフトを宣言し、トヨタは2030年までにEVの世界販売台数を「350万台」にするという目標を掲げた。今後、日本の自動車産業はどうなっていくのだろうか。
1.ホンダ、早期退職金は1億円?!本気のリストラで世代交代を画策か
(2021/09/18 配信)
ホンダが早期退職の希望者を募集し、その応募に2,000人以上の社員が手を挙げた。早期退職者の募集は決して珍しいことではないが、今回のホンダのケースは退職金が優遇されている点などが特徴的で、何としてでも多くの人に早期退職して欲しかったように感じる。
ホンダの早期退職制度の実施の概要
ホンダはなぜ、退職金を優遇してまで多くの人に辞めてほしかったのか。その理由に迫る前に、今回の早期退職者の募集の概要を整理しておこう。
ホンダが今回早期退職者の募集対象としたのは、55歳以上64歳未満の社員だ。早期退職者の募集は約10年ぶりのことで、2021年4月に募集を開始していた。当初は応募者の人数を1,000人程度と想定していたが、結果として想定の2倍以上の社員が応募したことになる。
ホンダの日本国内における社員数は、子会社を含めると約4万人(2021年末時点)に上る。ということは、国内の社員の約5%が今回の早期退職者の応募でホンダを去ることになる。ちなみに、すでに7月ごろから実際にホンダを退職した人が出てきている。
ホンダは今後も早期退職者の募集を継続する予定のようだ。
2.EV戦争「トヨタvs日産」 生き残るのはどっち!?
(2022/02/07 配信)
トヨタ自動車と日産自動車が、電気自動車(EV)生産拡大に向けた巨額投資を相次ぎ発表した。トヨタは2030年までに4兆円を、日産は今後5年間で2兆円を投資する。背景には世界的な脱炭素化に向けた流れや環境規制の強化があり、投資の成否は両社の命運を分けそうだ。文=ジャーナリスト/立町次男(『経済界』2022年3月号より加筆・転載)
脱炭素全方位戦略からEVに舵を切るトヨタ
トヨタは2021年12月にEV戦略に関する説明会を開催。豊田章男社長が、EVに関して、30年までに30車種を投入し、同年の世界販売台数を350万台とする計画を発表した。トヨタはこれまで、EVとFCV(燃料電池車)と合わせて200万台という計画を掲げていたが、大幅に引き上げる。
また、高級車ブランド「レクサス」は、30年までに欧州、北米、中国で、35年までには世界で全車種をEVにするという。22年以降にまず「RZ」というEVを投入する。EVの〝弱点〟の一つは搭載する電池のコストにより販売価格が抑えにくいことだが、ブランド力がある高級車は受け入れられやすい。ドイツのアウディは26年までに、メルセデス・ベンツは30年までにすべての車をEVにする計画。まずは高級車の分野からEVの販売競争が激化する可能性があり、トヨタの中でレクサスの役割は大きいと言えそうだ。
東京都内で開かれた説明会の会場には、トヨタの本気度を示すように、16車種のコンセプトモデルのEVが展示された。既に発表済みの「bz」シリーズからは、SUV(スポーツタイプ多目的車)である「bz4X」など6車種が登場。スポーツカーやピックアップトラックなど、多彩な顔触れを揃えていた。
3.トヨタのEV構想「2030年に350万台」は少なすぎ? テスラやフォルクスに勝てる?
(2022/01/10 配信)
トヨタ自動車は「EV」(電気自動車)では後れを取っていたが、EV戦略に大幅な投資を行うことを発表し、先行する米テスラや独フォルクスワーゲンなどに立ち向かう構えだ。今後、トヨタはEVで存在感を高めていけるのだろうか。
「CASE」における「E」の波
現在自動車業界で起きている変革は、「CASE」というキーワードに集約される。「C」はコネクテッド(Connected)、「A」は自動運転(Autonomous)、「S」はシェアリング(Sharing)/サービス(Service)で、最後の「E」が電動化(Electric)だ。
特にコネクテッドと電動化に関しては、すでに市販車において各社が技術革新で競い合っており、この波に乗り遅れると自動車業界における存在感の低下を招く。
ただし、現在はまだ市販車におけるEVの割合は小さい。2020年時点では、日本では1%未満、アメリカでは2%弱で、最も普及が進んでいる欧州でも5〜6%程度だ。
しかし、現在はカーボンニュートラル(※温室化ガスの排出量を実質ゼロにすること)の流れもあり、アメリカの一部の州や欧州では将来ガソリン車の販売を禁止することが検討されている。それを踏まえると、今からEVのシェアを高めておくことは非常に重要だ。
4.トヨタ「水素エンジン」の本気度はどの程度なのか
(2021/07/02 配信)
トヨタ自動車は、水素を燃料とした「水素エンジン」の技術開発に取り組んでいると発表した。世界的に強まる「脱炭素」の流れの中で電気自動車(EV)シフトが確実視される中、100年以上も自動車の動力源を担ったエンジンの技術が失われることを回避する狙いがある。文=ジャーナリスト/立町次男(『経済界』2021年8月号より加筆・転載)
24時間レースを完走したトヨタの水素エンジン車
5月21~23日、富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開催された自動車レース「スーパー耐久」シリーズ。トヨタは24時間の耐久レースに、水素エンジンを搭載した「カローラスポーツ」で参戦した。水素のみを燃料にした車のレース参戦は世界初とみられる。
水素エンジンは、ガソリンやディーゼルのエンジンと基本的に同じ構造。潤滑油の燃焼で微量の二酸化炭素を排出するが、ほぼクリーンな排ガスと言えそうだ。
トヨタが販売している燃料電池車(FCV)「ミライ」も水素を燃料とするが、これは水素を空気中の酸素と化学反応させて電気を発生させモーターを駆動させる仕組み。水素エンジンは、水素を燃焼させることで動力を発生させる。水素エンジンは一般のエンジンに使われている大量生産の部品を多く使えるため、FCVのパワートレーン(駆動系)よりも安価に製造できる可能性がある。また、FCV向けの水素は純度が99・97%以上と高いが、水素エンジン向けは低純度でも使えるという。
レーサーとしての愛称「モリゾウ」としてレースに参加したトヨタの豊田章男社長は記者会見で、「脱炭素社会に向けた選択肢を広げる第一歩を示せた」と強調した。
5.早期退職に2千人応募でも晴れないホンダの「苦悩」
(2021/12/06 配信)
2040年までに100%EVシフトを宣言している本田技研工業が早期退職を募集したところ、想定の倍の2千人が応募した。内燃機関にこだわるエンジニアが応募に殺到したのかと思えばさにあらず。むしろホンダならではの課題が浮き彫りになった。文=ジャーナリスト/伊藤憲二(『経済界』2022年1月号より加筆・転載)
早期退職制度募集に想定の倍の社員が殺到
「メールを見た時は本当にびっくりしましたよ。添付ファイルを開いてみたら、日付や氏名の部分が空白になった退職願でした」
ホンダのとある現役ベテラン社員は語る。
「私は退職したいなどとは考えていませんし、そう受け取られる意思表示もしたことはありません。退職願の書式は私が意思を示し、今後の進路などについて会社と話し合いをし、退職の意向をこちらから伝えてから渡されるべきものではないでしょうかね。それをいきなりメールで送りつけてくるとは――50代後半の人間はとにかく辞めてくれという会社の本心が透けて見えるようで、腹が立ちましたよ」
このメールは11月1日のもの。ライフシフト・プログラム(LSP)という早期退職制度の対象となる55歳から58歳までの社員全員に一律で配信されたという。
いかがだっただろうか。日本の自動車メーカー各社はEVシフトに強烈な危機感を抱いている。本田技研工業は1億円近くの退職金を支払ってでも時代の流れに乗り遅れないために世代交代を図り、トヨタはEVに力を入れながらも水素エンジンの普及も目指している。
自動車メーカーの業績は日本経済にも影響を与えるので、今後のEVシフトや自動運転化の動向は注視せざるおえないだろう。
文・THE OWNER編集部