ホンダ、早期退職金は1億円?!本気のリストラで世代交代を画策か
(画像=Ricochet64/stock.adobe.com)

ホンダが早期退職の希望者を募集し、その応募に2,000人以上の社員が手を挙げた。早期退職者の募集は決して珍しいことではないが、今回のホンダのケースは退職金が優遇されている点などが特徴的で、何としてでも多くの人に早期退職して欲しかったように感じる。

ホンダの早期退職制度の実施の概要

ホンダはなぜ、退職金を優遇してまで多くの人に辞めてほしかったのか。その理由に迫る前に、今回の早期退職者の募集の概要を整理しておこう。

ホンダが今回早期退職者の募集対象としたのは、55歳以上64歳未満の社員だ。早期退職者の募集は約10年ぶりのことで、2021年4月に募集を開始していた。当初は応募者の人数を1,000人程度と想定していたが、結果として想定の2倍以上の社員が応募したことになる。

ホンダの日本国内における社員数は、子会社を含めると約4万人(2021年末時点)に上る。ということは、国内の社員の約5%が今回の早期退職者の応募でホンダを去ることになる。ちなみに、すでに7月ごろから実際にホンダを退職した人が出てきている。

ホンダは今後も早期退職者の募集を継続する予定のようだ。

今回の早期退職で「億り人(おくりびと)」になった人が多数!?

そして冒頭でも触れたが、今回の早期退職者の募集では退職金が非常に優遇された。

報道などによれば、通常の退職金に最大で賃金3年分が上乗せされる形とのことだ。そうなると、1億円近くの退職金を受け取ってホンダを去る人も少なくないはずだ。退職時点で数千万円の貯蓄がすでにあった人の場合、今回の早期退職で「億り人」となっただろう。

ホンダはなぜそうまでしてベテラン世代に会社を去ってもらいたかったのだろうか。

理由ははっきりしている。電気自動車(EV)へのシフトが世界的に加速する中、一刻も早く世代交代を進めたかったからだ。

EVの開発では、内燃機関を持つガソリン車の開発とは全く異なる技術が求められるケースが多い。その技術を開発できる人材の採用を強化し、EV部門に経営資源を集中させるためには、障害となりそうな人材に去ってもらう必要も出てくる。

最近では2021年7月に、欧州連合(EU)の欧州委員会がガソリン車の販売を2035年に事実上禁止する方針を打ち出した。温暖化ガスの大幅削減を実現するためだ。このような流れに追随するために、ホンダはいま世代交代を急いでいるというわけだ。

「自動運転化」のためにも世代交代は必須

電動化だけではない。自動車のコネクテッド化や自動運転化などの流れが加速していることも、ホンダが世代交代を急ピッチで進めたいと思っている理由だろう。

特に自動運転化に関する市場は、自動車メーカーだけではなくIT企業も参戦して開発競争が激化している。どの企業がこの次世代技術で主導権を握ることができるのか、まだまだ分からない状況だ。その状況の中で頭1つ抜きん出るためには、世代交代が欠かせない。

ホンダは、高速道路で一定条件化における自動運転を可能にする「新型LEGEND」を2021年3月に発売開始している。6段階で示される自動運転レベルの「3」に相当する車両で、トヨタを含め世界の自動車メーカーを出し抜いた形となった。

つまり、いま自動運転の分野ではホンダは世界的な注目を集めており、何とかこの流れを維持していきたいはずだ。そのためには、AI(人工知能)や画像認識に詳しいエンジニア人材をもっと多く必要とする。自動運転化でも世代交代が必要というわけだ。

ホンダを去った社員が今後送る第二の人生は?

ちなみに、今回の早期退職者の募集でホンダを去る人は、今後どのような生活を送るのだろうか。もちろん2,000人にも及ぶ人数であるため、十把一絡げに考えることはできないが、中にはGoogleやAppleなどのIT企業に就職する人も出てくるかもしれない。

ホンダを去る人の中には内燃機関の開発者だけではなく、車体や車両パーツの設計など、EVや自動運転車の開発でも重宝される人材が含まれている。GoogleやAppleは現在、自動運転車の開発を手掛けているが、こうした人材は喉から手が出るほど欲しいはずだ。

多額の退職金を受け取った上で巨大IT企業に就職できれば、十分に資産を蓄えた上で新たに刺激的な人生を送れる。もちろん、このようは道をたどるのは早期退職者の中でも一部かもしれないが、新たな生き方を目指して早期退職者の募集に手を挙げた人は、少なくないかもしれない。

大きな変化のときを迎えている自動車業界

この記事では、ホンダの早期退職者の募集に焦点を当ててきた。EVシフトや自動運転化は、ほかの自動車メーカーでも進めなければならないことだ。そのため、トヨタや日産も大規模な早期退職者の募集を今後行う可能性は極めて大きい。

いま大きな変化のときを迎えている自動車業界の動向から、引き続き目が離せない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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