百貨店,閉店,地域,需要
(写真=Willy Barton/Shutterstock.com)

1991年をピークに縮小を続け2000年代に再編淘汰された百貨店業界であるが、今、もう一段のダウンサイジングを余儀なくされつつある。今年は10店舗、とりわけ地方や郊外の象徴的な店舗の閉店が相次ぐ。函館の中合 棒二森屋にはじまり、米沢の大沼、ヤナゲン大垣本店、伊勢丹の府中と相模原、そごう神戸、甲府の山交、、、いずれも地域のランドマークとして地元経済を支えてきたかつてのエースだ。来年には西武大津、高島屋港南台、そごう徳島、、、も営業を終える。

2019年2月期、百貨店上位10社のうち増収は5社、需要を押し上げたのはインバウンドと富裕層である。特需の恩恵は地方には届かない。そこが明暗を分けた。しかし、地方にチャンスはないのか。ストライプインターナショナルとソフトバンクの合弁会社「ストライプデパートメント」はこの9月、地方百貨店向けの新サービス「ダース(Department EC as a Service)」を開始した。同社が提携百貨店のECサイトを開発し運営を代行、地方店はミニマムコストでECチャネルを構築できるとともにストライプ社が扱う1,000ブランドを自社サイトで販売できる。ストライプ社はサイトの会員増を、ベンダーは地方顧客を開拓できる。将来的には地方百貨店50店と契約、地方のF2層に向けて新たなチャネルで新たなファッションを提案する。

一方、総合大型店という小売業態がその役割を終えたわけではない。家電市場も一昔前に業界再編を経験した。総需要の大きな伸びは期待出来ない。価格競争も熾烈だ。EC市場も拡大している。それでも家電量販各社は “大型” であり続けるために一等地におけるシェアに拘るとともに、新たな “総合” のカタチを模索する。ビックカメラが新宿三越アルコットを一括賃貸し、ファーストリテイリングとともに開発した「ビックロ」はその一例だ。ヤマダはエス・バイ・エル(旧小堀住建)を買収、住空間全体をビジネスドメインに取り込む。ノジマはスルガ銀行の創業家保有株式を取得、18%の筆頭株主となった。百貨店の跡地を引き受け、あるいはその集客力を補完できるのも唯一彼らだ。山交の土地建物はヨドバシが買収する。日本橋三越にはビックカメラが新たな高級業態で出店する。

13日、アイリスオーヤマはテレビ事業への本格参入を発表した。目玉商品は “音声認識” テレビだ。しかしながら、最先端のIoT家電とはちがう。ネットに接続する必要はない。アプリのダウンロードも不用。つまり、完全オフラインの音声認識リモコン付きテレビである。方言にも対応、機能を単純化し、低価格化することで “ホームセンター” という言わば総合家電の廉価チャネルでの拡販を目指す。顧客が見えている、とはこういうことである。
百貨店という業態が全国一律に需給バランスを回復させることはないだろう。そもそも地方や郊外の活性化は既存の百貨店の存続と同義ではない。であれば、もう一段の再編は、本来そこにあった等身大の地域のニーズをもう一度、街の中心に引き戻すチャンスである。

今週の“ひらめき”視点 11.10 - 11.14
代表取締役社長 水越 孝