転職や異動時に不可欠なスキル、アンラーニングとは
(画像=GLOBIS知見録)

「こんなはずでは…」

転職や異動先で、思ったように力が発揮できない。そんな経験はないだろうか。環境が変われば、新たに「学習」すべきことは多い。だが同時に「アンラーニング」も必要だ。

アンラーニングとは、これまでの学びを捨て去ることではない。学び直しとも違う。「過去の経験を通じて培ってきた習慣や価値観を認識した上で、今の自分に必要なものを取捨選択し、知識やスキルを修正していくこと」である。昨今よく耳にする言葉になってきたが、重要性が理解できていなかったり、試みるもののうまくいかなったり、という方も多いだろう。私自身も、実はそのひとりであった。本稿ではそんな私の経験談を例にとりながら、アンラーニングについて解説していきたい。

アンラーニング=忘れる、ではない

転職して間もない頃のことだ。「この組織で活躍したいなら、前職の経験をアンラーニングしなければいけないよ」と、先輩社員からアドバイスをもらった。

「アンラーニング……? 忘れる、ということですか?」

私は困惑した。会社も仕事も違うのだから、新しく覚えることはあっても、忘れることなんてあるのだろうか。そのときは話半分に、先輩社員のアドバイスを聞き流していた。

だが、徐々に仕事を任されるようになると、どうもうまくいかないことが続いた。勉強不足もある。だからこそ、「前の職場では、こうやればうまくいった」と過去の経験を頼りに頑張ってみる。しかし、求められるレベルに到達しないばかりか、方向性が違っていることもしばしば。

そんな状況を見かねた上司は、色々と相談に乗ってくれる。だが、私は頑なに「前職ではこうだった」と、これまでのやり方を貫こうとする。上司は笑って受け止めてくれるが、その後も期待されるパフォーマンスを一向に発揮できない——。

今から思い返せば、これは典型的な「アンラーニングができていない状態」だった。当時の私は、前職の成功体験に固執していた。そのため、新しい職場で新たに学ぶ姿勢ができていなかったのだ。

社会人教育の業界では、「Learning is Unlearning」と言われる。ビジネスパーソンの学びは、過去の習慣や価値観のうち、何を残し、何を捨てるべきかを客観視した上で、新たに学習していくことの繰り返しである。その際、注意したいのは「これまでの学びを忘れる」ことではないということだ。「これまで培ってきた習慣や価値観を認識すること」「それらを取捨選択すること」がポイントになる。

こう書くと、アンラーニングは難しくないように思えるが、そう簡単にはいかない。なぜか。そこにはある“トラップ”が存在するからだ。

有能なビジネスパーソンほどコンピテンシー・トラップにひっかかる

有能なビジネスパーソンほどコンピテンシー・トラップにひっかかる
(画像=有能なビジネスパーソンほどコンピテンシー・トラップにひっかかる)

ロミンガーの法則(*1)によれば、「仕事上の経験が、ビジネスパーソンの学びの7割を占めている」という。だから、何をするにも過去の経験を参考にするのは当然のことだ。しかし、新しい環境では、これまでの経験が役に立つとは限らない。だからこそ、環境が変われば”意識的”にアンラーニングする必要があるのだ。

*1 ロミンガーの法則:企業人の成長要因は70%が業務上の経験、20%が周囲の人々からの薫陶、10%が研修であるという法則。リーダーシップを中心とした人事領域の調査研究機関であるロミンガー社が行った、経営幹部層への調査研究・分析により明らかになった。

当たり前のことに思うだろう。にも関わらず、なぜ人は簡単にアンラーニングできないのか。

それは、人には経験から学んだことを「固定化」「固着化」すると同時に、それに固執することで新たな可能性を視野に入れなくなる性質があるためだ。これを「コンピテンシー・トラップ」と言う。過去の成功体験にとらわれて、新しい学びがなされないというこの事象には、有能なビジネスパーソンほど陥りやすい。

有能なビジネスパーソンが成果を出し続けられるのはまぐれではない。多くは、過去の経験から成功するための法則を導き出し、その法則を用いて再現性を高めているのだ。しかし、環境が変われば、その法則も通用しないことがある。まさにアンラーニングが必要な場面となっているのである。

例えば、あなたの周囲にこんな人はいないだろうか。鳴り物入りで転職・異動してきたが、何をするにしても「前職では…」「前の部署では…」と、自分の意見を押し通そうとする人だ。そんな口癖のあるビジネスパーソンは、コンピテンシー・トラップに陥っている可能性がある。

もしあなたにも身に覚えがあるなら、コンピテンシー・トラップを抜け出すために良い方法がある。それは「リフレクション」だ。

次回につづく)

(執筆者:太田 昂志)GLOBIS知見録はこちら