中小企業において増加するM&Aの効果を高めるために中小企業庁は現在、「中小PMIガイドライン(仮称)」の策定を進めています。PMIとはPost Merger Integrationの略語でM&A後の統合プロセスを表す言葉です。M&Aによる譲渡企業と譲受企業の相乗効果を発揮するためには円滑な統合プロセスが重要となります。ガイドライン策定には、M&A経験のある経営者やPMIを支援する実務者、学者らによる策定検討小委員会(座長・名古屋大学大学院法学研究科の松中学教授)が「事業承継ガイドライン改訂検討会」の下に設置され、議論が重ねられています。2022年春にも公表される予定です。ガイドラインはM&Aを実行した会社の新たな指針となり、M&A後の円滑な統合プロセスの推進が期待されています。
PMIの課題解消のため
検討メンバーには、日本M&Aセンターホールディングスのグループ企業である日本PMIコンサルティングの竹林信幸代表取締役社長も委員として参画し、ガイドライン策定のためにその知見を提供しています。「中小PMIガイドライン(仮称)」策定の背景として、事業承継や更なる成長のためにM&Aを選択する中小企業が増えている一方、PMIの重要性や必要なプロセスに対する認識不足、資金や人材などリソース面が限られおり、十分な取り組みが行われているとは言えない現状があります。
2021年9月より策定が進む中小PMIガイドライン(仮称)の議論は中小企業庁のホームページで公開されています。公開資料から読み解くと、ガイドラインの根幹はPMIを推進する組織体運営、経営・業務・意識領域における統合作業の位置付け、統合作業における相乗効果を中心に議論が展開されています。M&Aを実行する企業を売上・従業員別に3つに分けている点も特徴的です。時系列的にPMIを三工程に分けて、M&A前に企業理解を深めるプレPMI、M&A合意直後に行うPMI、M&A合意から1年後をポストPMIとして、整理も進められています。
M&AはPMIで成約から成功へ
中小企業庁財務課の日原正視課長は、2021年11月に開かれた日本M&Aセンター主催のパネルディスカッションで「これまで中小企業のM&Aは買い手と売り手をマッチングする段階に重きを置いて支援してきた。マッチングは引き続き大事であるが、事業を引き継いで維持したり、成長したりして初めてM&Aは意味のあるものになる。M&A後のガイドラインを作って、PMIの取り組みを推進していきたい」とガイドライン策定の狙いを語っています。
小委員会で委員を務める日本PMIコンサルティングの竹林代表取締役社長は「M&Aは成約がゴールではありません。売り手企業と買い手企業が思い描いていた成長を実現することがゴールであり、M&Aの成約は『ともに成長するプロセスのスタート』です。PMIこそがM&Aの成否の鍵を握っていると言えるのです。これまで、PMIの取り組みが体系的な方法論としてまとめられているものはなく、今回のガイドラインはM&Aを検討している多くの中小企業にとって大変有益なものになるのではないかと考えています」と話します。